白癬菌(はくせんきん)とは、身体の皮膚や爪、髪の毛にも感染する、皮膚糸状菌(カビ)のことを指します。
白癬菌は、特に湿気の多い場所を好むため、足の裏や指の間に感染することが多いです。
痒みや痛みなどの自覚症状はほとんど見られません。
当記事では、白癬菌の治療薬の種類を解説していきます。
合わせて、日常生活で行える白癬菌の対策も説明しているので、ぜひ参考にしてください。
白癬菌(はくせんきん)とは?
白癬菌(はくせんきん)とは、皮膚糸状菌(カビ)の一種です。
足に生じたものは世間で「水虫」と言われており、正式な名称として白癬菌と呼ばれています。
水虫といえば足にできるものを思い浮かべると思いますが、感染する場所は、足だけではなく、爪や身体、頭部まで及びます。
白癬菌は、皮膚の最表面にある角質層(タンパク質)があれば増殖できるため、粘膜以外の髪の毛や爪、全身の皮膚にも発生するのです。
白癬菌は、ジメジメした高温多湿の場所を好むため、足の裏や指の間などに好発します。
特に、痛みや痒みなどの自覚症状がないため、気づかない人も多いです。
2023年の足白癬・爪白癬の実態と潜在罹患率の 大規模疫学調査の研究によって、足や爪が白癬菌に感染している潜在患者の割合は、16.6%の割合で、6人に1人が感染していることが判明しました。
さらに、白癬菌は感染した皮膚が、ポロポロと剥がれ落ちた中に潜んでいるため、スリッパやバスマットなどを介して人に移すこともあります。
白癬菌は、人間だけに感染すると思われますが、実は犬や猫などの動物にも寄生します。
感染した動物と人が接触するだけでも菌を移す場合もあるでしょう。
白癬菌はどこに感染する?6つの種類と症状について
まずは、白癬菌の種類を理解しておきましょう。
白癬菌は、初めは足の裏から発症する人が多いです。
手や爪などに移ると、気づかないまま感染した手で身体の至る所に触れるため、さらに感染が広まります。
感染する場所は主に6ヵ所あり、以下の通りです。
- 足白癬
- 爪白癬
- 体部白(タムシ)
- 手白癬
- 股部白癬(インキンタムシ)
- 頭部白癬(シラクモ)
一つずつ解説するので、確認してくださいね。
足白癬
足白癬は、水虫と呼ばれる足にできる白癬のことです。
症状としては以下の通りです。
- 足の間の皮むけ
- 小さな水膨れ
- 足裏のカサカサ
足白癬は主に3つのパターンで症状が現れ、2つの症状が同時に現れることもあります。
型 | 症状 |
---|---|
趾間型(しかんがた) | ・足の指の間に皮むけや小さな水膨れなどの症状が現れる ・やがて皮膚がふやけて白くなり、ポロポロと剥がれ落ちる ・ジュクジュクとふやけたようになり、痒みに繋がる可能性もあり ・足白癬で最も多い場所になり、高温多湿の場所を好む |
小水疱型(しょうすいほうがた) | ・足の裏に小さな水疱ができ、徐々に皮が剥がれる ・時折痛みを伴う可能性がある ・ 梅雨から秋にかけての季節に悪化しやすい |
角質増殖型(かくしつぞうしょくがた) | ・足の裏全体に赤みが出現し、やがて皮膚全体が固くなるめずらしい病態 ・時には固くなった皮膚が乾燥して、ひび割れや痛みが出る可能性あり |
日本皮膚科学会の日本皮膚科学会皮膚真菌症診療ガイドライン 2019によると、日本で足白癬に感染している人は、人口の約21.6%と約5人に1人が発症していることがわかります。
しかし、白癬菌は自覚症状があまりないことから、感染に気付かない人も多いそうです。
特に20歳を過ぎて、仕事で靴を履く機会や時間が増えるため、感染者が増える要因の一つです。
爪白癬
爪白癬とは、爪にできる白癬のことで、症状は爪が白や黄色に濁る症状です。
徐々に進行してくると、爪自体が分厚く変形していきます。
日本皮膚科学会の日本皮膚科学会皮膚真菌症診療ガイドライン 2019によると、日本で足白癬に罹患している人は人口の約10.0%、約10人に1人が発症していることがわかります。
足白癬の約半分の人口ではあるものの、白癬菌を発症する場所の中で2番目に爪白癬が多いです。
特に爪の先端から感染し、加齢と共に発症率が高くなります。
特に高齢者は、爪の伸びるスピードが遅いため爪白癬にかかる人が多く、長い時間をかけて治療する必要があります。
爪白癬は適切な治療を行わなければ、自然治癒することはありません。
90代で爪白癬に罹患している患者数は約半数以上とも言われています。
体部白癬(たいぶはくせん)
体部白癬は、世間では「ぜにたむし」と言われており、症状は身体や腕、足などに激しい痒みが出現して赤く腫れます。
本人の水虫から移ることはもちろん、格闘術など他人と身体を接触させる機会の多いスポーツをしている人も、発症する確率が高いと言われています。
日本皮膚科学会の日本皮膚科学会皮膚真菌症診療ガイドライン 2019によると、白癬全症例に対して体部白癬の罹患率は全体の7.4%で、3番目に多い罹患場所です。
手白癬
手白癬とは、手にできる白癬のことです。
手のひらや指、指の間などに小さな水疱ができ、皮がむけることがあります。
徐々に進行すると発症部分の皮が分厚くなっていきます。
手白癬だけで発症するケースはめずらしく、大抵は足にできた白癬を触ったり掻いたりして発症します。
手白癬にかかると、発症したことに気付かないまま身体の至る所を触り、頭部などにも移る可能性があるでしょう。
そのため、足白癬の時点で発症に気付き、手に移る前に治療することがベストです。
股部白癬(こぶはくせん)
股部白癬とは、世間では「いんきんたむし」と言われており水虫から感染する菌です。
陰部周囲の股関節を中心に赤く腫れ、強い痒みを伴います。
股部白癬の感染経路としては、洋服の摩擦や感染者との直接的な接触、プールなどの公共施設などが多いです。
特に夏の蒸し暑い時期に、汗を掻いて放置しておくと、蒸れて白癬菌の好む環境になり増殖します。
インキンタムシを治療する上での大きな特徴として、2~4週間の治療で改善が見られる可能性が高い点です。
他の爪白癬などは治療に3~6ヵ月ほど時間がかかりますが、股部白癬の場合は皮膚が擦れて発疹を起こしている可能性が高く、水虫よりタムシの方が治りやすいと言われています。
日本皮膚科学会の日本皮膚科学会皮膚真菌症診療ガイドライン 2019によると、白癬全症例に対して股部白癬の罹患率は全体の4.1%です。
頭部白癬(とうぶはくせん)
頭部白癬は、通称シラクモと言われており、頭部に白癬菌が寄生することで発症します。
主な症状は、楕円形に髪の毛が抜け始め、細かいフケがポロポロと落ちてきます。
痒みなどはありませんが、髪の毛が表面より上で切れて、短い毛が残るのです。
白癬菌の治し方は?有効的な治療薬について
白癬菌の種類を理解できたところで、治療薬を解説します。
治療薬として主に外服薬と内服薬の2つがあります。
白癬菌の治療は、症状が治っても完全に菌が死滅していないため、治療を続けなければなりません。
一度、白癬菌の症状が改善しても、夏場に再発する人は多いです。
さらに、白癬菌にかかった本人の治療が完治しても、同居家族やペットにも感染している可能性は高いです。
家族の治療も行わなければ、菌が再発する可能性も考えられます。
まずは、外服薬や内服薬のメリットとデメリットを理解した上で、医師と相談しながら処置を進めていきましょう。
外用薬の場合
外用薬は「イミダゾール系」と「非イミダゾール系」に分かれます。
イミダゾール系は、種類が豊富な抗真菌薬で、白癬とカンジダによく効く薬です。
しかし、イミダゾール系のデメリットとして、一度被れてしまうと、他のイミダゾール系の薬剤も被れてしまう「交差作用」があります。
イミダゾール系の薬剤を使用する場合は、かぶれにも注意が必要です。
一方で、非イミダゾール系は白癬のみに効く薬剤でカンジダには効きません。
しかし、イミダゾール系の懸念点である交差作用はないためかぶれる心配はありません。
また、非イミダゾール系は一日2、3回塗布する必要があるのに対し、イミダゾール系は全て一日1回で済むのも利点です。
以下はそれぞれの薬剤の種類と特徴です。
イミダゾール系
薬剤の種類 | 特徴 |
---|---|
アトラント(ネチコナゾール) | ・1993年に発売 ・軟膏 ・クリーム ・外用液の3剤型があり |
アスタット(ラノコナゾール) | ・アトラントの翌年の1994年に発売 ・さらに白癬への効果が強い |
ルリコン(ルリコナゾール) | ・2005年に発売された、イミダゾール系で最新の皮膚真菌症治療薬 ・軟膏、クリーム、外用液の3剤型があり |
ルナコック(ルリコナゾール) | ・2016年に発売 ・爪白癬治療専用の爪外用液 |
非イミダゾール系
薬剤の種類 | 特徴 | |
---|---|---|
ベンジルアミン系 | メンタックス (ブテナフィン) | ・1992年に発売 ・クリーム、外用液、スプレーの3剤型があり ・独特な匂いあり |
ボレー (ブテナフィン) | ・1992年に発売 ・クリーム、外用液、スプレーの3剤型があり ・エタノールのような匂い |
|
アリルアミン系 | ラミシール (テルビナフィン) | ・1993年に発売 ・白癬に強い効果あり ・クリーム、外用液、スプレーの3剤型があり |
モルホリン系 | ペキロン (アモロルフィン) | ・1994年に発売 ・カンジダへの効果も多少あり ・剤型はクリームのみ |
チオカルバメート系 | ハイアラージン (トルナフタート) | ・1965年に発売 ・剤型は軟膏のみ |
ゼフナート (リラナフタート) | ・2007年に発売 ・白癬に強い効果あり |
|
トリアゾール系 | クレナフィン (エフィナコナゾール) | ・2014年に発売 ・非イミダゾール系の中で唯一の爪外用液 |
外用薬のメリット
メリット | デメリット |
---|---|
・相互作用が少ない ・内臓への影響が少ない |
・爪の周囲が被れることがある ・治癒率が低い |
爪白癬の場合は第一選択薬として内服薬を使用します。
外用薬では、爪の内部まで成分が行き届かない可能性があるからです。
一方で足白癬、股部白癬、体部白癬では上記の抗菌外用薬で治療することが多いです。
内服薬の場合
現在、国内で使用されている抗菌内服薬は3種類です。
特に内服薬は、外服薬よりも高い有効性を発揮しています。
内服薬の種類
薬の種類 | 特徴 |
---|---|
ネイリン(ホスラブコナゾール) | ・1日1回、12週間経口投与 ・消化器症状、肝機能検査の異常がみられる場合もある ・食事に関係なく服用可能 |
ラミシール(テルビナフィン) | ・1日1回服用、6ヵ月を目安に投与する ・消化器症状、肝機能検査の異常がみられる場合もある ・食後に服用 |
イトリゾール(イトラコナゾール) | ・爪への移行性や貯留性が良好で、投与終了後も効果あり ・1週間服用+3週間休薬を3回繰り返す ・3ヵ月の治療で高い有効性が認められる ・食後に服用 |
内服薬のメリット
メリット | デメリット |
---|---|
・簡易的で使いやすい ・高い治癒率を期待できる ・広範囲の症状がある場合でも効果的 |
・全身性の副作用が現れる可能性がある(肝機能障害や消化器障害が現れることもある) ・他に内服薬を飲んでいる場合、相互作用が問題になることがある |
内服薬は、肝機能検査の異常が見られるため、服用期間中は肝機能検査を定期的に行う必要があります。
もともと肝機能が悪い人は、内服薬は使用できません。
白癬菌は民間治療薬で完治できるのか
上記で有効的な治療薬を解説しましたが、紹介した薬剤は皮膚科で検査、処方してもらう必要があります。
「仕事で時間がないから、市販薬で治したい!」と言って、自分で市販薬を買って治そうと思う人も多いでしょう。
特に爪白癬の場合は、市販薬で治せる薬剤は今のところありません。
また、病院を受診せず、白癬ではないのに、自己判断して薬剤を塗ってしまい症状が悪化する可能性も考えられます。
白癬菌の診断する際は、顕微鏡で観察して早い場合は数分で診断されます。
他の人に移さないためにも医師に正式な診断をもらうことをおすすめします。
もし市販薬を使用する場合は、「塗るとスッキリする」などの白癬を治療する目的以外のものを選ばないことがポイントです。
白癬菌に感染しやすい人の特徴
白癬菌に感染しやすい人の特徴として以下が挙げられます。
- 足汗をかきやすい
- お風呂などで足の指などをあまり洗っていない
- 足の裏が乾燥しておりひび割れしている
- 家族とスリッパを共有している
- 家族の中に水虫の人がいる
- 足が臭う
上記の中で、当てはまるものがあれば注意が必要です。
白癬菌は気付きにくいことが特徴であるため、既に感染している可能性も考えられます。
対策必須!白癬菌の対策方法について
白癬菌を予防するためには、清潔な環境を整えることが大事です。
白癬菌は特にジメジメした場所を好むため、乾燥させることで増殖のリスクを少なくできます。
日常生活上では以下のことを意識してください。
- お風呂では足の指の間を丁寧に洗う
- バスマットは定期的に洗濯する
- 靴はできるだけ通気性の良いものを選ぶ
- 公共のプールや温泉に行った後は足裏を石鹸で洗う
特に足が蒸れている状態の場合は、皮膚の表面から白癬菌が入りやすいため、通気性の良い靴下を履くことをおすすめします。
また、公共のプールや温泉などはみんなが濡れた状態で歩くため、白癬菌がたくさんいます。
しかし、白癬菌が自分の足の裏に付いても、すぐに感染するわけではないため、当日中に洗い流せば大丈夫です。
洗った後はすぐにタオルで拭いてください。
白癬菌に関するよくあるQ&A
ここでは、白癬菌に関するよくある質問を解説します。
Q.白癬菌にアルコールや熱湯は効きますか?
白癬菌にアルコールや熱湯は無効です。
多くの人が白癬菌を死滅させようと、アルコールや熱湯をかけます。
しかし、白癬菌の根本的な治療ではないため、水虫を増殖させないようアルコール消毒が大切です。
また、感染した場所をゴシゴシ洗うと、皮膚の表面が傷つき、かえって白癬に感染するため注意してください。
Q.白癬菌を死滅させるにはどうしたらいいですか?
白癬菌に有効的な外用薬や内服薬で死滅します。
しかし、完全に症状が治ったからと言って菌が完全に死滅したわけではないため、死滅した後も数ヵ月単位で塗り続ける必要があります。
Q.白癬菌はお風呂で感染しますか?
白癬菌はお風呂では感染しません。
お風呂上がりのマットなどで感染のリスクが高まるため、定期的に洗うことが大切です
白癬菌の治療薬は症状別に選ぼう
白癬菌とは、通称水虫と言われ、足や手、身体、頭などのあらゆる箇所に発症します。
白癬菌は感染場所によって、有効な治療方法などが異なります。
白癬菌は自己判断で薬剤を選んでしまうと、白癬菌以外の疾患の場合さらに症状が悪化する場合があるでしょう。
「水虫かな?」と思ったら、家族に移さないためにも、皮膚科などで検査してもらい、診断を受けることが大切です。
白癬菌を身体に増殖させないためにも、病院を受診して適切な処置を行いましょう。