「ユリーフはどんなメカニズムで前立腺肥大症に効く薬なの?」
「前立腺肥大の薬であるユリーフで射精しなくなるのはなぜ?」
このような疑問を持っている人は少なくないのではないでしょうか。
本記事では、前立腺肥大症で尿路が狭くなるメカニズムや治療薬であるユリーフが前立腺肥大症に作用するメカニズムを徹底解説。
ユリーフの服用時によくみられる副作用や、よくある質問も紹介します。
本記事を読めば、ユリーフや前立腺肥大症に関する理解を深められます。
ぜひ最後までご覧ください。
ユリーフは前立腺肥大症に対する治療薬
ユリーフとは、前立腺肥大症という疾患に対して効果を発揮する治療薬です。
日本の製薬メーカーであるキッセイ薬品工業株式会社と第一三共株式会社が共同開発し、2009年2月5日に発売が開始されました。
ユリーフの基本的な用法用量は、1回4mgを1日2回朝夕食後に経口投与です。
症状が落ち着いてくると、適宜減量していく場合もあります。
ユリーフに含まれている成分は「シロドシン」という物質です。
ユリーフとシロドシンの違いについては、ユリーフが薬剤の名前、シロドシンが有効成分の名前と覚えておきましょう。
前立腺肥大症とは?
前立腺肥大症とは、加齢に伴って前立腺という臓器が大きくなり、尿路(尿の通り道)を狭くしてしまう疾患です。
具体的な尿路症状として、以下が挙げられます。
- 残尿感
- 頻尿
- 尿意切迫感
- 夜間頻尿
- 尿勢低下
- 尿閉(尿を出せない状態)
前立腺は男性のみに存在する臓器であり、尿路の周囲に位置しています。
正常の大きさは栗の実大であり、重さは約18gですが、50~60歳代では50%、70歳代では70%、80歳代では90%に肥大がみられます。
もちろん、前立腺が肥大している全ての人が治療の対象というわけではありません。
しかし、前立腺肥大症は中高年の男性にとって、身近な疾患であるのです。
前立腺肥大症で尿路が狭くなるメカニズム
前立腺肥大症で尿路が狭くなるメカニズムは、以下の3つに分類されます。
- 交感神経系の亢進による機能的閉塞
- 副交感神経系の抑制による機能的閉塞
- 前立腺肥大による機械的閉塞
これらの要因が併発することにより、尿路の狭窄が進んでいきます。
それぞれのメカニズムについて詳しく解説します。
①交感神経系の亢進による機能的閉塞
交感神経は、緊張・興奮している時やストレスを感じている時に活発になる神経です。
前立腺内の筋肉を収縮させ、尿路を狭くする働きがあります。
交感神経は前立腺に情報を伝えるために、「ノルアドレナリン」という物質を出しています。
放出されたノルアドレナリンを受け取るのが、前立腺の「α1受容体」という部位です。
α1受容体はノルアドレナリンを受け取ると、前立腺内の筋肉を収縮させて尿路を狭くします。
前立腺肥大症の患者さんでは、α1受容体の機能が過剰に強くなっています。
そのために、前立腺内の筋肉を過剰に収縮させてしまい、尿路をより狭くしてしまうのです。
②副交感神経系の抑制による機能的閉塞
副交感神経は、リラックスしている時や食事後に活発になる神経です。
前立腺内の筋肉を弛緩させ、尿路を広くする働きがあります。
副交感神経は前立腺に情報を伝えるために、「NO-cGMP系」という化学反応の経路を介して、「cGMP」という物質を出しています。
cGMPが前立腺に届くと、前立腺内の筋肉が弛緩して尿路が広くなるのです。
この働きを邪魔している存在が、「PDE5」という物質です。
PDE5にはcGMPを分解する働きがあるため、前立腺に届くcGMPが減少します。
そして、前立腺肥大症の患者さんではPDE5が過剰に活性化しています。
そのために、前立腺に届くcGMPが過剰に減少してしまい、尿路の広がりが抑制されるのです。
③前立腺肥大による機械的閉塞
前立腺自体の肥大によっても尿路の狭窄は発生します。
ここまでで説明した機能的閉塞よりも、簡単にイメージしていただけるはずです。
前立腺の肥大に大きく関与しているのが、精巣から放出される男性ホルモンの「テストステロン」です。
テストステロンは前立腺に取り込まれると、「5α還元酵素」という物質の働きにより、「ジヒドロテストステロン」という物質に変化します。
ジヒドロテストステロンには、細胞の増殖を促進する働きがあります。
その結果、尿路の周囲に位置する前立腺が大きくなり、尿路が狭くなってしまうのです。
ユリーフが前立腺肥大症に作用するメカニズム
前立腺肥大症に対する薬剤は、先ほど挙げた3つのメカニズムのいずれかを緩和することで作用します。
具体的には、以下の3つが前立腺肥大症に対する治療薬です。
- α1受容体拮抗薬(交感神経系の亢進による機能的閉塞を緩和する)
- PDE5阻害薬(副交感神経系の抑制による機能的閉塞を緩和する)
- 5α還元酵素阻害薬(前立腺肥大による機械的閉塞を緩和する)
以上3つのうち、ユリーフはα1受容体拮抗薬に該当します。
α1受容体の働きを抑え、前立腺内の筋肉の収縮を抑制し、尿路が狭くなるのを緩和しているのです。
ユリーフの副作用
前立腺肥大症に対して効果を発揮するユリーフですが、いくつかの副作用も報告されています。
添付文書に記載されている副作用の中で、主なものは以下の通りです。
- 射精障害(発生のメカニズムを後述)
- 口渇
- 下痢
- 軟便
- 立ちくらみ
- 鼻づまり
- めまい
- ふらつき
- 頭痛
これらの症状がある場合は、悪化させないためにも早めに医師や薬剤師に相談しましょう。
また、稀ではあるものの、以下のような重篤な副作用が生じる恐れもあります。
- 失神/意識消失…血圧が低下し、意識がなくなる
- 肝機能障害…全身倦怠感、食欲不振、黄疸(目や皮膚が黄色くなる)など
これらの副作用が生じた場合は、直ちにユリーフの服用を中止し、医療機関を受診してください。
ユリーフの服用で射精障害が生じるメカニズム
ユリーフの代表的な副作用として射精障害があります。
射精障害は服用した人のうち17.2%に報告されており、高い頻度で生じていると言えるでしょう。
ユリーフで生じる射精障害は、主に「逆行性射精」と「射出障害」に分類されます。
どのようにして射精障害を起こすのか、それぞれ発生するメカニズムを見ていきましょう。
①逆行性射精が生じるメカニズム
α1受容体が働きかけているのは前立腺だけではありません。
尿路に存在する筋肉にも働きかけており、ユリーフがα1受容体の働きを抑制すると、尿路の筋肉も弛緩していきます。
その結果、射精する際には本来閉まるはずの膀胱頸部(膀胱の入り口)に、閉鎖不全が生じてしまいます。
このように、閉鎖不全状態での射精により精液が膀胱内に逆流してしまうのが、逆行性射精のメカニズムです。
②射出障害が生じるメカニズム
α1受容体は、精嚢や精管といった臓器にも豊富に存在しています。
ユリーフは、これらのα1受容体の働きも抑制してしまうのです。
その結果、精嚢や精管の内圧が低下したり、収縮が抑制されたりします。
このように、精液が出てこなくなってしまうのが、射出障害のメカニズムです。
ユリーフ/前立腺肥大症に関するQ&A
ユリーフ・前立腺肥大症に関してよくある質問をまとめました。
ここで疑問を解消しましょう。
Q1.ユリーフは長期服用しても大丈夫?
ユリーフには投薬期間に関する制限がないため、用法用量を守れば長期服用しても問題ありません。
Q2.ユリーフの効果発現時間は?
自覚症状は投与1週後頃から改善がみられます。
重症例でも改善効果が認められています。
Q3.飲酒はユリーフの副作用に影響がある?
飲酒をすると、ユリーフの副作用の発生率が上がることが分かっています。
副作用の発生率を調査した研究では、飲酒なしの場合8.5%であったのに対し、飲酒ありの場合12.7%という結果が報告されました。
Q4.ユリーフによる射精障害は治る?
ユリーフによる射精障害は多くが可逆的であるため、服用を中止すれば治る可能性が高いです。
開発メーカーが行った試験では、射精障害が生じた患者さんのうち約8割が、服用中もしくは服用中止後4週間以内に回復しています。
Q5.前立腺肥大の薬剤はいつまで飲むの?
前立腺肥大症の治療薬は、あくまでも症状を緩和するための対処療法であり、根本的に治療しているわけではありません。
そのため、基本的には長期にわたって服用を続ける必要があります。
まとめ:前立腺肥大症による尿路症状をユリーフで治療しよう
前立腺肥大症は、前立腺が大きくなることにより尿路が狭くなる疾患です。
残尿感や頻尿をはじめとする、様々な尿路症状が生じます。
ユリーフは、前立腺肥大症による尿路症状を緩和するための治療薬です。
α1受容体の働きを阻害し、前立腺内の筋肉の収縮を抑制します。
ユリーフを服用した際によく起こる副作用が、逆行性射精や射出障害といった射精障害です。
副作用に気を付けつつ、前立腺肥大症による尿路症状を治療しましょう。