米国の若者の間でコンドーム使用率が低下した理由とは?時代が進んだからこそ起きたマイナス変化

日々変化する現代社会において、若者の性に対する意識や行動も大きく変わっていると言えます。
その象徴的な例として、米国の大学キャンパスで起きているコンドーム離れの現象が注目を集めています。
ミシシッピ大学では、キャンパス内の複数箇所にコンドームを自由に取れるボウルが設置されているにもかかわらず、実際に手に取る学生はごくわずか。
この状況は、単なる一時的な現象なのか、それとも若者の性意識の本質的な変化を示唆するものなのか、詳しく見ていきましょう。
アメリカの大学生はなぜコンドームを使いたがらないの?
ミシシッピ大学のキャンパスでの話が、海外の医療記事に取り上げられました。
公衆衛生学生協会会長のマガン・ペリー氏は、現状について率直に語ります。
「多くの学生がコンドームを使用していない実態があります。『コンドームを使う』という選択肢は、彼らにとってただの『うーん、ダメ』という程度の認識なのです」
つまり、なぜコンドームの使用がダメなのか名言せず、なんとなく「ダメ」という雰囲気が出来上がっているということです。
特に注目すべきは、性的関係におけるコンドーム使用の提案が、主に女性側から行われているという点です。
しかし、その提案に対する男性側の反応は、必ずしも前向きではありません。
「私を信用しないなら、ここにいるべきじゃない」といった返答や、「私は汚い人間じゃないのに、なぜコンドームを使う必要があるの?」という反応が一般的だといいます。
変化する性の健康観
セントルイスHIV予防トレーニングセンターの医療ディレクター、ジョセフ・チェラビー博士は、女性が長年にわたって妊娠や性感染症予防の責任を負わされてきた現状を指摘します。
コンドームや緊急避妊薬の購入は、多くの場合、女性にとって気まずいことです。
これらの商品が鍵のかかった棚や、カウンターの後ろに置かれていることも多く、購入時の心理的障壁となっています。
ワシントン大学の学生、アニー・ルーミスさん(25歳)は、現代の性関係における別の問題点を指摘します。
出会い系アプリの普及により、気軽に性的関係を持てる機会が増加する中で、「健全な性的関係」の在り方を見失いつつあるというのです。
「コンドームの使用を求めても、相手が拒否すれば、その時点で関係は終わるはずです。しかし、実際にはそうはならないことが多い」と彼女は語ります。
医療技術の進歩がもたらす影響
コンドーム使用率低下の背景には、医療技術の著しい進歩があります。
特に、避妊や性感染症予防の分野で、新しい治療法が次々と登場しています。
キンゼイ研究所のシンシア・グラハム博士によると、コンドームが使用されない理由として快感の減少が挙げられてきました。
しかし、それ以上に大きな要因として、医学の進歩による選択肢の多様化があります。
若い女性たちの間では、子宮内避妊器具(IUD)や経口避妊薬などの長期的な避妊方法が広く普及しています。
研究者らの報告によると、真剣な交際関係にある女性や、長期的に一人のパートナーと関係を持っている女性は、こうした方法を選択する傾向が強いとされています。
性感染症の予防方法は進化中
性感染症予防の分野でも、新たな選択肢が登場しています。
特に注目を集めているのが、「ドキシサイクリン暴露後予防法(ドキシPEP)」です。
この薬剤は、性行為の後72時間以内に服用することで、クラミジア、淋病、梅毒の予防効果があるとされています。
現在、女性を対象とした治験はまだ進行中ですが、男性同士で性行為をする男性やトランスジェンダーの女性の間では、すでに高い関心を集めています。
チェラビー博士は、この新薬の登場が性感染症の予防戦略に与える影響について、「HIVの心配だけでなく、他の性感染症のリスクも軽減できる可能性が出てきたことで、私たちのコミュニティと患者さんの性生活に対する不安が少し和らいでいます」と説明します。
HIV予防薬もコンドームを使用しない原因に
HIV予防薬であるPrEPの登場も、コンドーム使用率に大きな影響を与えていると言います。
特に、男性同性愛者コミュニティにおいて、PrEPは予防方法として定着しています。
しかし、使用については人種間で大きな格差があり、白人男性による使用が不釣り合いに多いという現状があるそうです。
オーランドを拠点とする非営利プライマリケアクリニックの地域支援ディレクター、アンドレス・アコスタ・アルディラ氏は、1980年代や1990年代初頭のエイズ流行期と比較して、男性同士の性行為におけるコンドーム使用が「ほぼ過去のもの」になったと指摘します。
性教育における地域格差
米国内における性教育の格差も、若者の性行動に大きな影響を与えているようです。
ミシシッピ州では、教室でのコンドームのデモンストレーションが禁止されており、多くの学区で禁欲教育が主流となっています。
一方、オレゴン州ポートランドでは、すべての公立学区で医学的な目線から性教育が実施されています。
中学生の段階からコンドームの正しい使用方法を学び、高校ではコンドームを無料で入手できる環境が整っています。
この教育格差は、若者の性に対する理解や態度に大きな違いを生み出しています。
リード大学4年生のギャビン・レナード氏は、性教育を受けた学生たちは、たとえコンドームを常用していなくても、使用するかしないか、その選択がもたらす結果をより深く理解していると指摘します。
データが語る性教育の必要性
2022年のデータによると、クラミジア、淋病、梅毒の新規症例の約半数が15歳から24歳の若者で占められています。
また、ミシシッピ州は全米で最も高い10代の出産率を記録しています。
これらの数字は、若者に性教育が必要であることを示しているとも取れるでしょう。
公衆衛生の専門家たちは、コンドーム使用率の低下を懸念しつつも、若者たちが安全な性行為をできるよう、新しいアプローチを模索しています。
従来の恐怖を煽るような方法から、「個人にとって効果的な方法」を重視する方向へと移行しているのです。
医学の進歩により、性感染症の脅威が昔ほど怖くなくなった今だからこそ、上記の方向転換は有効だと思います。
性教育について分かれる大人の意見
性教育の在り方については、様々な立場からの意見があります。
結婚までの禁欲教育を提唱するキリスト教団体「フォーカス・オン・ザ・ファミリー」は、性教育が「生徒を露骨な内容にさらす」ことを懸念しています。
一方、若者が医療情報により簡単にアクセスできるよう取り組む団体「ティーン・ヘルス・ミシシッピ」の副理事長ジョシュ・マコーリー氏は、禁欲教育の影響について警鐘を鳴らしています。
「性感染症の増加は明らかな結果であり、医療制度に負担をかける可能性があります。さらに、若者が健康とは何か、自分自身を守るにはどうすればよいかを考える上で、長期的な影響が出る可能性もあります」
ポートランド公立学校の保健体育担当副部長ジェニー・ウィシコム氏は、性教育が州内の保守的な地域で反発を受けることを認めつつも、その必要性を強調します。
「私たちの仕事は、生徒たちが将来の関係に備えて必要な情報を得られるようにすることです」と述べています。
スレイボー氏も、全米の学生たちに性教育を提供する重要性を訴えています。
「私たちは、兵士に必要な装備を与えずに戦場に送り出すことはありません。同様に、若者が自身を守るために必要な情報を与えずに社会に送り出すべきではないのです」
教育現場の現状
ミシシッピ州教育局で健康情報を監督するスコット・クレメンツ氏は、州の性教育基準が「法律で義務付けられている」と説明します。
しかし、より包括的な性教育基準を導入しようとする試みは、過去8年間で何度も州議会で否決されてきました。
全米の状況を見ても、性教育の基準は統一されていません。
すべての州が性教育を義務付けているわけではなく、避妊に関する情報提供を義務付けている州は半数以下です。
米国性情報教育評議会のミシェル・スレイボー氏は、「同じ州、同じ学区であっても、教室によって性教育の内容は大きく異なります。それは実際には誰が教えるかによって決まるのです」と指摘します。
この辺りは、日本にも同じことが言えそうですね。
日本も他人事ではない
日本の性教育も、世界と比べて進んでいるとはお世辞にも言えません。
あるテレビ番組では、男性教諭が「ピルについては生徒に教えない方がよいのではないか」と発言していました。
しかし、その理由は語られませんでした。
ピルは避妊薬であるとともに、ひどい生理痛を緩和するなど、女性からしたら自分を守ってくれる、人生を変えてくれる夢のような薬剤です。
その存在を教えたくないと思う理由には、一体何があったのでしょうか。
性について、子どもに教えにくいという点は少なからずあるでしょう。
何歳にどこまで教えるかも課題です。
しかし、この問題については世界が長く直面してきた問題ですから、とっくの昔に性教育の基盤が確立されていても良いはずです。
にもかかわらず、世界でもこのラインがあやふやなのは「性=恥ずかしい」という意識があるからなのかもしれません。
とはいえ、恥ずかしいからというだけで、若者の人生を左右していいことにはなりません。
まとめ
アメリカの若者の間でコンドーム使用率が低下している背景には、医療技術の進歩、性教育の地域格差、そして価値観の変化など、複雑な要因が絡み合っていることがわかりました。
新しい予防薬の開発や避妊方法の多様化は、若者たちに新たな選択肢を提供する一方で、従来のコンドーム使用の重要性を薄れさせる結果となっています。
しかし、性感染症の予防や望まない妊娠を防ぐためには、コンドームは依然として重要な選択肢の一つです。
今後は、若者たちが自身の性的健康について十分な情報を得た上で、適切な選択ができるよう、教育体制の整備や啓発活動の改善が求められています。