2024年に発表されたある記事により、HIV診断と覚醒剤使用、特に「メタンフェタミン」の使用リスクの関係について注目が集まりました。
ノースウェスタン大学が実施した大規模な調査「RADARコホート」では、この問題についてどんな情報が得られたのでしょう。
この研究が明らかにした内容を詳しくご紹介します。
メタンフェタミン使用のリスクとHIV診断の関係性
「RADARコホート研究」によると、HIVと診断された人は、そうでない人と比べてメタンフェタミンを使用するリスクが約2倍に高まることが判明したとのことです。
メタンフェタミンは覚醒剤の一種であり、中枢神経系に強い影響を及ぼす薬物として知られています。
化学的にはフェニルエチルアミン類に分類され、アンフェタミンと構造が似ていますが、その効果はさらに強力です。
医療用として非常に限定的に使用されることもありますが、乱用されることが多く、その依存性の高さから世界中で深刻な社会問題となっています。
この研究は、2015年から2023年の期間にわたり、16歳から29歳の性的少数派やジェンダーマイノリティ(SGM)の若者1,296人を対象に実施されました。
調査の中心的なテーマは、HIV感染者における薬物使用と精神的健康問題の関連性です。
メタンフェタミンの使用は、以前からゲイやバイセクシャルの男性において長年の懸念事項でしたが、HIV診断がそのリスクをさらに高める要因である可能性が浮き彫りになっているのです。
メタンフェタミンの怖さとは?
この研究にはメタンフェタミンが取り上げられていますが、依存してしまう人も多いと言います。
この覚醒剤の作用や、身体への影響にはどんなものがあるのでしょうか。
強い多幸感があるも短期間で消失
メタンフェタミンは、結晶状の「クリスタル・メス」として流通することが多く、特に北米や東アジアでその乱用が広がっています。
服用方法としては、経口摂取、吸入、注射、喫煙などがあります。
摂取方法により効果の発現時間や持続時間が異なりますが、いずれの場合も強い快感や覚醒作用が得られるため、乱用がエスカレートしやすい特徴を持っています。
メタンフェタミンは、脳内の神経伝達物質であるドーパミンやノルアドレナリンの放出を促進し、その再取り込みを阻害することで強い覚醒作用を引き起こします。
この作用によって、一時的に集中力やエネルギーが増大し、多幸感をもたらします。
しかし、この快感は非常に短期間で消失し、次第により強い効果を求めるようになります。
身体と心への影響
メタンフェタミンは心拍数や血圧を急激に上昇させるため、心血管系への負担が大きく、心臓発作や脳卒中のリスクを高めます。
また、摂取量が増えると、体温が危険なレベルにまで上昇する高体温症を引き起こすことがあります。
長期間使用すると、以下のような症状が現れます。
- 食欲不振
- 体重減少
- 免疫機能の低下
- 歯の損傷(「メス・マウス」と呼ばれる症状)
精神的な面では、摂取直後に感じる快感とは裏腹に不安感や興奮状態が持続しやすく、長期間の乱用は幻覚や妄想といった精神病的症状を引き起こします。
また、乱用者は他人への攻撃性が増し、社会的な関係を破壊する原因となることも多いです。
依存のメカニズム
メタンフェタミンは、極めて強い依存性を持っています。
脳内でドーパミンの分泌を異常に高めるため、繰り返し使用すると脳が「正常な状態」を感じられなくなり、薬物なしでは快感を得られない状態に陥るからです。
この状態は「薬物依存」と呼ばれ、離脱症状としてうつ状態や強い渇望感が現れます。
さらに、メタンフェタミンは神経細胞そのものを損傷させるため、使用を中止しても完全に回復することは難しい場合があります。
このため、一度依存状態に陥ると、社会復帰は非常に難しいのです。
犯罪にも繋がる社会的問題
メタンフェタミン乱用は個人の健康だけでなく、家庭や社会全体にも深刻な影響を与えます。
乱用者が犯罪行為に及ぶ可能性が高まるだけでなく、薬物の製造や流通に関連する組織犯罪が増加する傾向があります。
また、メタンフェタミンの製造は危険な化学物質を使用するため、環境汚染や爆発事故を引き起こすリスクもあります。
医療現場でのメタンフェタミンの使用
メタンフェタミンは、注意欠陥・多動性障害(ADHD)や極度の肥満治療のために使用されることがありますが、これらは極めて限られた状況に限定されています。
処方薬として使用される場合も厳格な管理が求められ、一般的にはアンフェタミン系の他の薬剤が優先される傾向があります。
ドーパミンシグナルと炎症の関係
研究では、HIV感染者に見られる全身性炎症が、ドーパミンシグナル伝達に影響を与えることが示されています。
ドーパミンは、やる気や気分の調整に重要な役割を果たす神経伝達物質です。
HIV感染による炎症は、このドーパミンシグナルを抑制します。
その結果、メタンフェタミンのような覚醒剤がもたらすドーパミン増加を求める行動に繋がる可能性があるとのこと。
ジョシュア・シュロック博士は、「HIV感染者における全身性炎症の増加が、メタンフェタミンを使い始める危険性を高める可能性がある」と述べています。
また、この調査では、コカインや大麻の使用もメタンフェタミン使用リスクを高める要因であることが確認されました。
「RADARプロジェクト」の意義
「RADARプロジェクト」は、性的少数派やジェンダーマイノリティの健康問題に関する最大規模の研究として位置づけられています。
この研究では、HIV感染やメタンフェタミン使用前の段階におけるリスク要因や保護要因を探ることを目的としています。
ムスタンスキー博士は、「このような長期間にわたる調査により、HIV感染や薬物使用の前兆となる要因を正確に特定できるようになりつつある」と語っています。
今後の研究と覚醒剤抑止への期待
今後の研究では、HIV、炎症、脳の活動パターンの関連性をさらに深く調査する予定だそうです。
また、薬物使用やHIVに関連する社会的なストレス要因、例えば差別や同性愛嫌悪、トランスフォビアなどが健康に与える影響についても分析が進められる予定です。
これらのストレスが老化を加速させる可能性についても検討されています。
また、研究チームは研究結果をもとに、覚醒剤使用を予防するための新たな方法を模索しています。
具体的には、HIV診断後にリスクが高まる人を早期に特定するための方法や、生物学的な背景を理解することで治療法の開発を目指しています。
生物学的な背景とは、具体的にはC反応性タンパク質(CRP)という炎症の指標を指します。
CRPも、メタンフェタミン使用リスクの増加に関連していることが判明したからです。
CRPレベルが高い人は、HIV感染の有無にかかわらず、メタンフェタミン使用を開始する傾向があるというデータが得られています。
健康的にドーパミンを出す方法とは?
日本国内では、HIVや覚醒剤というと身近に感じないという方の方が多いでしょう。
やる気が出ないからと言って覚醒剤に頼ることは間違いであると、多くの方が考えています。
しかし、病気でなくともどうしてもやる気がでない時は、誰にだってあるものです。
ドーパミンを出したい時には、以下の行動をとることをおすすめします。
食事の改善でドーパミンを活性化
ドーパミンの分泌には、適切な栄養摂取が欠かせません。
特に以下の食品を意識して摂ってみましょう。
-
タンパク質を含む食品
ドーパミンはアミノ酸の一種であるチロシンから合成されます。
このチロシンは、肉類や魚、卵、大豆製品、乳製品に多く含まれています。
これらを毎日の食事に取り入れることで、ドーパミンの分泌が促進されやすくなります。 -
ビタミンやミネラルの摂取
ビタミンB6、B12、マグネシウム、鉄分なども、ドーパミンの生成に必要な栄養素です。
野菜、果物、ナッツ類、海藻類を積極的に摂り入れることが推奨されます。
例えば、バナナにはチロシンが多く含まれ、簡単に取り入れられる食品です。 -
加工食品や糖分の多い食事を控える
ファストフードや砂糖の多いスナック菓子は、一時的に気分を高めるかもしれませんが、長期的にはドーパミンの働きを妨げます。
できるだけ自然な食品を選びましょう。
適度な運動で気分を上向きに
運動は、ドーパミンを増やす最も効果的な方法の一つです。
-
有酸素運動
ジョギングやサイクリング、ウォーキングなどの有酸素運動は、脳内の血流を促進し、神経伝達物質の生成をサポートします。
特に朝の時間帯に行うと、1日のやる気がアップしやすくなります。 -
筋トレ
筋トレは、達成感を得やすい運動の一つです。
筋力がつくことで自己効力感が高まり、ドーパミンの分泌が活性化されます。
無理のない範囲で定期的に行うことがポイントです。 -
ストレッチやヨガ
運動が苦手な人にはストレッチやヨガもおすすめです。
これらは身体をリラックスさせると同時に、心の安定をもたらし、結果としてドーパミンの分泌を助けます。
ストレスを軽減するための工夫
ストレスはドーパミンの分泌を大きく阻害します。
日常生活の中でストレスを減らす工夫をしましょう。
-
趣味を持つ
自分が没頭できる趣味を見つければ、ストレス解消に大いに役立ちます。
音楽、絵画、料理、ガーデニングなど、何でも構いません。 -
マインドフルネス
マインドフルネス瞑想は、現在に意識を集中させることで心の安定を促します。
1日10分ほどでも、毎日続けることで大きな効果を実感できます。 -
人との交流
孤独感はストレスを増大させる要因の一つです。
友人や家族との会話を楽しむことで気持ちが軽くなり、ドーパミンの分泌が促されます。
まとめ
今回ご紹介した研究は、HIV診断後に覚醒剤使用リスクが高まる背景にある生物学的および社会的要因を明らかにしています。
RADARプロジェクトによる長期的なデータは、将来的に予防策や治療法の開発に役立つ可能性を秘めているのではないでしょうか。
これからの研究が、性的少数派やジェンダーマイノリティの健康を守るための道筋を照らしてくれることを期待したいです。