性感染症の検査といえば病院での受診が一般的でしたが、自宅で手軽に検査できる時代がやってきました。
今回は、オーストラリアで承認された新しい在宅検査キットについてご紹介します。
また、日本での性感染症の検査キットについても解説します。
女性向けのクラミジアと淋病の検査キットとは?
2024年1月、オーストラリアの医薬品管理局(TGA)が、女性向けのクラミジアと淋病の検査キットを承認したという記事が出ました。
シドニーを拠点とするタッチ・バイオテクノロジー社が開発したこの検査キットは、同年の12月13日から薬局での販売が開始される予定と報じられました。
検査方法について
検査の手順はCOVID-19の検査に似ています。
まず綿棒で膣から検体を採取し、2種類の溶液と混ぜ合わせます。
その後、専用カセットの2つのキット(クラミジア用と淋病用)に溶液を数滴垂らします。
結果は約15分で判定でき、COVID-19検査と同様に、2本線が出れば陽性、1本線なら陰性という判定方法です。
検査対象となる性感染症
クラミジアと淋病は、最も一般的な性感染症として知られています。
両者とも細菌感染症であり、早期発見・早期治療が重要です。
クラミジアの特徴は、感染しても多くの場合は無症状であることです。
症状が出る場合は、排尿時の痛み、異常な分泌物、不正出血、骨盤部の痛みなどが現れることがあります。
淋病も膣内では通常無症状ですが、クラミジアと同様の症状が出る可能性があります。
両疾患とも、放置すると深刻な合併症を引き起こす恐れがあります。
特にクラミジアは子宮や卵管に感染が広がり、不妊の原因となることもあるため注意が必要です。
検査のタイミングと精度
症状の有無にかかわらず検査を受けることができますが、検査タイミングが重要となってきます。
感染から検査までの期間は、クラミジアが7~14日、淋病が約7日必要です。
性行為があった場合は、約1週間経ってから検査することが推奨されています。
タッチバイオテクノロジー社によると、この検査キットの感度は99%以上とされています。
ただし、この数値の根拠となる研究はまだ学術誌には掲載されていない状況です。
TGAは自己検査キットに対して95%以上の感度を要求しており、この基準は満たしているようです。
オーストラリアにおける性感染症検査の変遷
実は、オーストラリアではすでにHIVの検査キットが2021年から薬局で販売されています。
指先から採血して検査を行うタイプのものです。
このHIV検査キットの導入後の調査から、検査を受ける人が増加し、特に若者や文化的背景の異なるコミュニティの人々にとって有用であることがわかっています。
また、25歳以上の女性を対象に、子宮頸がんの原因となるHPVの自己検査も導入されています。
遠隔医療を利用して自宅での検査を手配することも可能です。
在宅検査のメリットとデメリット
在宅検査の最大の利点は、プライバシーを保ちながら手軽に検査できることです。
特に、医療機関での受診に抵抗がある人々にとっては安心でしょう。
しかし、在宅検査は万全ではありません。
まず、検査できる部位が膣に限られており、喉や直腸など他の部位での感染は検査できません。
また、男性や膣のない人向けの検査キットは現時点では提供されていません。
さらに、在宅検査は医師の診察に取って代わるものではありません。
性の健康に関する相談、避妊や予防接種についての助言など、医療機関での診察には独自の価値があります。
検査後のフォローアップについて
陽性結果が出た場合は、必ず医療機関で確認検査を受け、適切な治療を始める必要があります。
また、クラミジアと淋病以外の性感染症の可能性もあるため、これらが陰性でも気になる症状がある場合は、医療機関を受診することが推奨されています。
性感染症検査の未来
この新しい在宅検査キットの導入は、性の健康管理における大きな一歩と言えます。
医療へのアクセスが改善され、より多くの人が定期的に検査を受けられるようになることで、性感染症の早期発見・治療に貢献することが期待できそうです。
また、このような検査キットの開発は、医療技術の進歩と社会のニーズの変化を反映しているとも言えるでしょう。
将来的には、より多くの種類の性感染症に対応した検査キットや、より使いやすい検査方法が開発される可能性もあります。
日本の性感染症検査キットは最前線?
実は、日本でも性感染症の自宅検査キットは既に販売されています。
ここからは、国内で利用できる検査キットの詳細についてご紹介します。
上記でご紹介したオーストラリアの検査キットと違い、検査は自分で行うものの、検査結果はプロに判断してもらうタイプです。
日本で利用できる自宅検査キット「STDチェッカー タイプP」
日本で販売されている性病検査キットの例として、今回取り上げるのは「STDチェッカー タイプP」です。
女性向けに設計された総合的な検査キットで、価格は10,120円(税込)。
性器とのどの両方で、クラミジアと淋病の検査が可能です。
検査方法には、クラミジアと淋菌の遺伝子を増幅して調べる「TaqManPCR法」が採用されています。
高精度な検査で、症状が現れない潜伏期間中でも感染の有無を確認できます。
検査キットの内容
検査キットには、「腟分泌液採取キット」と「うがい液採取キット」の2種類が含まれています。
各キットには説明書があり、初めての人でも安心して使用できるよう配慮されています。
腟分泌液採取キットには、ワイプチェックと呼ばれる専用の綿棒が含まれています。
うがい液採取キットには、専用のうがい用ボトル、採取用コップ、うがい液スピッツが用意されています。
検査手順の詳細
検査は3つのステップで実施します。
まず検査物の採取、次に検査物の返送、最後に検査結果の確認という流れです。
腟分泌液の採取では、専用のワイプチェックを使用します。
この器具は長い綿棒のような形状で、使いやすい設計になっています。
採取時は、リラックスした体勢で行いましょう。
のどの検査では、専用のうがい用ボトルを使用してガラガラうがいを行い、その液体を採取用コップに吐き出します。
その後、うがい液スピッツに移し替えて密封します。
検査時の注意点
検査の精度を高めるため、いくつか注意点があります。
まず、生理中の検査は避けるべきです。
正確な結果が得られない場合があるためです。
のどの検査については、食事、うがい、歯磨き、ガムを噛んでから2時間以上経過してから採取することが推奨されています。
また、専用ボトル以外の水は使用しないよう注意が必要です。
プライバシーへの配慮
この検査システムの大きな特徴は、匿名性が非常に高い点です。
検査申込書には名前や住所を記入する必要がなく、自分で決めたIDとパスワードを使用します。
検査機関でも、誰がどの検査を受けたのか特定できないシステムを採用しています。
そのため、プライバシーを保護しながら検査を受けられます。
検査結果の確認方法
検査物を返送してから、通常2~5日でSTD研究所に到着します。
研究所での受付後、21時までに検査結果確認画面にデータが登録されます。
結果の確認は、パソコンやスマートフォンから専用サイトにアクセスして行います。
IDとパスワード、採取日を入力することで、結果を確認できます。
匿名性を保つため、メールや電話での結果通知は行っていません。
検査後のサポート体制
検査結果が陽性だった場合のサポート体制も充実しています。
検査結果画面から、検査結果表や医療機関への案内状をPDF形式で出力できます。
また、全国約45,000件の医療機関検索メニューが用意されており、利用できそうな医療機関を見つけやすくなっています。
希望者には個別に医療機関の紹介も行っています。
専門家によるカウンセリングサービス
日本性感染症学会認定士や性の健康カウンセラーによる専門的なサポートもあります。
性感染症に関する不安や悩みについて、丁寧な相談対応を受けられるので安心です。
相談は専用の画面を通じて行われ、自分の検査結果を見ながら具体的な質問や相談ができるシステムになっています。
プライバシーに配慮しながら、必要な情報やアドバイスを得られるでしょう。
検査後の対応
検査結果が陰性の場合は、今後の予防に努めます。
一方、陽性の場合は、必ず医療機関を受診して適切な治療を受ける必要があります。
検査不能という結果が出た場合は、検査物に何らかの不備があったことを意味します。
この場合は無料で再検査を受けられます。
在宅検査の現状と課題
日本の在宅検査キットは、オーストラリアの新規承認キットと比較すると、すでに幅広い機能を備えています。
性器だけでなく、のどの検査にも対応していることは大きな特徴です。
しかし、課題もあります。
価格が1万円を超えるため、定期的な検査を躊躇してしまう可能性があります。
また、現在は女性向けのキットが中心で、男性向けの選択肢が限られているという課題もあります。
性感染症の在宅検査キットは、今後さらに進んでいくと考えられます。
技術の進歩により、より使いやすく、より安価な検査キットの開発が期待されています。
まとめ
クラミジアと淋病の在宅検査キットができたことで、性感染症の拡大や、症状の重症化を抑えられるかもしれません。
ただし、検査キットはプライバシーを保ちながら手軽に検査できる利点がある一方で、医療機関での診察や健康管理の重要性も忘れてはいけません。
今後も性感染症検査の技術は進化を続け、さらに使いやすく正確な検査方法が開発されることでしょう。
私たち一人一人が自分の健康に関心を持ち、必要に応じて適切な検査を受けることが、健康な社会づくりにつながっていくのです。