鉄剤には貧血などの症状を改善させる効果がある一方で、吐き気や下痢などの副作用で悩んでいる方もいます。
さらに鉄剤を飲むと「太る」「生理が増える」などの噂がインターネットを中心にささやかれていますが、それは果たして真実なのでしょうか。
今回は鉄剤の中でも幅広い方が使用できるフェロミアという薬剤の効果や副作用の解説に加えて、フェロミアと体重・生理の経血量の増加の関連性についても解明していきます。
鉄剤フェロミアとは
鉄剤であるフェロミアはクエン酸第一鉄ナトリウムが主成分で、主に鉄欠乏性貧血の治療に使用される薬剤です。
フェロミアには散剤のフェロミア顆粒8.3%、錠剤のフェロミア錠50mgがあり、散剤は嚥下機能の低下した高齢者でも服用しやすいというメリットがあります。
鉄剤フェロミアの効果
鉄分が不足すると、赤血球の構成要素であるヘモグロビンが作れなくなるため赤血球が生成できなくなります。
そして、赤血球の数が減少することで全身に十分な酸素を運べなくなり、頭痛やめまい、息切れなどの症状が現れる鉄欠乏性貧血を引き起こします。
フェロミアは鉄分が補充できる薬剤で、ヘモグロビンの合成を促して赤血球を増加させる作用があることから、鉄欠乏性貧血の治療で使用されています。
フェロミアはpHに影響されにくく、食事との兼ね合いや胃を切除した方も使いやすいのが特徴です。
また、妊娠中や授乳中でも使用できる点もフェロミアの特徴の1つです。
授乳中の方がフェロミアを服用すると鉄として吸収された後、乳汁の糖タンパク質であるラクトフェリンとなって、赤ちゃんの免疫力を高めて感染症から身体を守ってくれます。
フェロミアを始めとする鉄剤は服用後2~3週間で症状の改善が見られ始め、貯蔵鉄を測る血清フェリチン値が正常化してきますが、すぐに止めてしまうとまた貧血となるため、最低半年ほどは服用を続けるとよいとされています。
鉄剤フェロミアの用法用量
鉄剤フェロミアは鉄に換算して1日100~200mgを1~2回に分けて食後に服用します。
これはフェロミア錠50mgであれば2~4粒、フェロミア顆粒8.3%であれば1.2~2.4gです。
食事の影響を受けにくいとされているフェロミアですが、タンニン酸との相性が悪い点には注意が必要です。
コーヒーや緑茶などのタンニン酸を含む飲み物と一緒に服用してしまうと、吸収率が約50~66%まで低下するというデータもあります。
そのため、フェロミアを服用する時には水やぬるま湯で飲むようにしてください。
鉄剤フェロミアの副作用
鉄剤フェロミアの副作用は吐き気や下痢、便秘、食欲不振などの胃腸症状が多く、他にも発疹やAST上昇、ALT上昇などが起こることがあります。
このような副作用があるため、鉄欠乏のない人がフェロミアを飲むことは禁止されており、腸炎や潰瘍などの胃腸に疾患がある場合には注意して服用する必要があります。
もし、吐き気などの副作用が辛い時には、薬剤を変更したり胃薬と併用したりすることも可能です。
副作用が辛いからと自己判断で勝手に服用を中断せず、医師に相談しましょう。
また、フェロミアと相互作用を引き起こす薬剤は多く、鉄イオン含有製剤やMRI用肝臓造影剤投与中は鉄過剰症を引き起こすため、キノロン系抗菌剤や塩酸シプロフロキサシン、制酸剤は吸収を阻害するため、飲み合わせに注意してください。
この他にも併用すると影響が出る薬剤が複数あるので、別の薬剤を服用する場合には必ず医師に相談してください。
鉄剤フェロミアで太る・生理が増えるはホント?
インターネット上の噂にフェロミアを始めとする鉄剤を服用すると太ったり、生理が増えたりするというものがありますが、それは真実とは言えません。
まず体重増加についてですが、鉄剤のフェロミアを飲むと太るという報告はありません。
それどころか鉄分が不足している状態だと酸素が全身に運ばれなくなるため、基礎代謝が低下します。
基礎代謝が低下すると余分なエネルギーが脂肪になるのに加え、酸素が足りないと脂肪を分解する酵素やリパーゼも働きが鈍るために太ってしまいます。
つまり、フェロミアを飲むと太るのではなく、鉄分不足の状態だと太りやすくなるということです。
また、フェロミアを飲むことで生理が増えるということもほとんどありません。
ただし、過度な貧血が改善されたような時や、身体に疲労が溜まっているような時には月経量が増減することはあるかもしれません。
しかしながら、一般的には鉄剤によって月経に変化が起きるようなことはないと考えてよいでしょう。
フェロミア以外の鉄剤
鉄欠乏性貧血の治療薬はフェロミア以外にも種類があり、静注鉄剤と経口鉄剤に大きく分類されます。
ここでは静注と経口それぞれの鉄剤について紹介していきます。
静注鉄剤
経口鉄剤による吐き気や胃痛などの副作用により薬剤を飲み続けられない場合や、出血量が多く経口鉄剤では迅速な効果を得ることが難しい場合に静注鉄剤は使用されます。
ただし、従来の静注鉄剤は毎日通院して注射を受けなければならず、負担が大きいのが難点となっていました。
そのような中、2020年にフェインジェクト静注500mgが発売されて、静注鉄剤に大きな変化がもたらされました。
フェインジェクト静注は鉄500mgを週に1回投与すればよく、約1~3回で完治するケースもあるため、来院の負担が大幅に減りました。
しかしながら、静注鉄剤は直接血管内に注入するために過剰症になりやすく、肝臓や心臓、膵臓などで臓器障害を引き起こす可能性もあります。
このような理由もあり、フェインジェクト静注であれば、経口投与が難しく、ヘモグロビン値が8.0g/dl未満である方に限定して投与することが基本となっています。
また、アナフィラキシーショックなどを防ぐためにも時間をかけて静注するなどの細かいルールも定められています。
経口鉄剤
フェロミアも属する経口鉄剤には、インクレミンシロップやフェルム、リオナなどの薬剤が販売されています。
インクレミンシロップは溶性ピロリン酸第二鉄が主成分のシロップ剤です。
鉄剤はお茶やコーヒーなどに含まれるタンニン酸により薬剤の吸収率が低下しますが、シロップ剤はカプセル剤や錠剤よりもその影響を受けやすいため、より注意が必要です。
フェルムはフマル酸第一鉄が主成分のカプセル剤です。
鉄剤の中でも単位重量あたりの鉄含有量が多く、カプセル内の顆粒がゆっくりと溶けて効果が長時間継続するため、1日1回の服用となります。
リオナはクエン酸第二鉄を主成分とした錠剤で、当初は慢性腎臓病での高リン血症を治療する薬剤として開発されました。
現在は鉄欠乏性貧血の治療として使われるようになったリオナは、他の経口鉄剤と比較して胃腸症状が少ないという特徴を持つため、副作用が問題となった場合の代替薬として使用されるケースもあります。
このようにフェロミア以外にも様々な種類の鉄剤があります。
副作用が辛い時には他の薬剤への変更を検討してみましょう。
鉄分を充足させる生活習慣
フェロミアなどの鉄剤で鉄欠乏性貧血が改善した後も、それ以前と同じ生活を続けていたら、また体内の鉄分が不足してしまいします。
特に女性は毎月の月経で約30mgもの鉄分を失うことから、日々鉄分が補えるような生活を心掛けることが大切です。
ここでは鉄分を充足させる生活習慣のコツを3つ紹介していきます。
鉄分の多い食材を使う
鉄分は食品から補充するのが理想とされていますが、食品に含まれる鉄分にはヘム鉄と非ヘム鉄の2種類があり、身体への吸収率が異なるのはご存知でしょうか。
主に赤身の肉や魚などに含まれるヘムという動物性タンパク質に包まれた鉄をヘム鉄と言い、吸収率は10~30%と他の鉄分と比較して高い特徴があります。
一方、ほうれん草や大豆などに含まれる非ヘム鉄は吸収率が5%とやや低くなっています。
成分表には同じ鉄分という表記で数値が表されていますが、このような吸収率も考慮しながら栄養を摂取していくとよいでしょう。
食べ合わせに注意する
植物由来の食材に多く含まれる非ヘム鉄は、一緒に摂る成分によって吸収率が増減します。
吸収率を高める成分にはビタミンCとクエン酸、タンパク質などがあります。
ビタミンCはブロッコリーやイチゴなど多くの野菜や果物に、クエン酸はレモンや梅干しなどに含まれています。
また、タンパク質が豊富な肉や魚などと一緒にほうれん草などを調理するのも効果的です。
一方、非ヘム鉄の吸収を阻害する成分には、コーヒーや緑茶に含まれるタンニン酸、インスタント食品や加工肉などに多く含まれるリン酸ナトリウムなどがあります。
このようなことからも、鉄分を充足させるためには食べ合わせも考えながら食事を摂るとよいでしょう。
サプリメントを利用する
3食きちんと自炊していても鉄分を食事で充足させるのは簡単ではありません。
このような時に心強い味方となるのがサプリメントです。
鉄分サプリメントにはヘム鉄と非ヘム鉄の2種類があり、食品と同じくヘム鉄の方が吸収率は高いですが、非ヘム鉄の中にはクエン酸を配合させて吸収率をアップさせているものもあります。
効率良く鉄分を摂取するためには、日々の生活にサプリメントを取り入れていくのも1つの手段と言えるでしょう。
鉄剤フェロミアで鉄欠乏性貧血を治療しよう
鉄剤フェロミアは経口鉄剤で、鉄欠乏性貧血の治療に使用されています。
食事の影響を受けにくく、妊娠中・授乳中も服用できる特徴がありますが、吐き気や胃痛などの副作用を引き起こす恐れもあるため注意が必要です。
副作用が辛い時には、医師に相談してフェロミア以外の鉄剤に変更してもらうなどの対応をお願いするとよいでしょう。
また、鉄剤フェロミアを服用すると太ったり、生理が増えたりするという噂がありますが、これは真実ではありません。
特に体重増加に関しては鉄分が体内に不足して基礎代謝が低下する方が、かえって太りやすくなります。
鉄剤フェロミアに限らず、薬剤は正しい情報を得て、用法用量を守って使用していくことが病気の治療において最も大切と言えるでしょう。