「肝炎ウイルスにはどんな特徴があるの?」
「接種できる肝炎ワクチンの種類は?」
このような疑問を持っている人は少なくないのではないでしょうか。
本記事では、肝臓の構造や機能、肝炎ウイルスの特徴について徹底解説。
肝炎の発症を予防するために効果的な、肝炎ワクチンの種類も紹介します。
本記事を読めば、肝炎ウイルスや肝炎ワクチンについて理解を深められます。
興味がある人はぜひ最後までご覧ください。
肝臓とその周囲の構造
肝臓はヒトの右上腹部に存在する臓器であり、上縁が横隔膜に接する位置に存在しています。
重さは全体重のうち約2.5%を占めており、心臓から送り出される血液のうち、約25%が肝臓に流れこんでいます。
肝臓に流入する血管は、肝動脈と門脈の2つです。
全肝血流量に占める割合と、それぞれの働きは以下の通りです。
血管 | 割合 | 働き |
---|---|---|
肝動脈 | 約30% | 酸素が豊富な血液を肝臓に届ける |
門脈 | 約70% | 消化管から吸収した栄養素を肝臓へ運ぶ |
肝臓のすぐそばには、胆嚢という袋状の臓器があります。
胆道という管を介して肝臓とつながりを持っており、後述する胆汁の排出に関わっています。
肝臓の主な機能
肝臓の主な機能は以下の4つです。
- 代謝
- 解毒
- 免疫
- 胆汁生成
それぞれについて見ていきましょう。
①代謝
肝臓は、生体内において代謝の中心的な役割を担っている臓器です。
糖質や脂質、蛋白質やビタミンなど、様々な物質の分解・合成・貯蔵を行っています。
これらの代謝に異常が生じると、以下のような疾患・状態が起こり得ます。
- 糖尿病/低血糖
- むくみ
- 出血しやすい
- 脂肪肝
- 骨軟化症(骨がもろくなり骨折しやすくなる)
多岐にわたる働きを有していることから、肝臓は「人体の化学工場」と呼ばれています。
②解毒
生体内ではいくつもの化学反応が同時に行われており、その過程ではヒトにとって有毒な物質が生成されています。
肝臓は、そんな有毒物質の分解や排出を行っており、解毒器官としても働いているのです。
解毒される様々な物質のうち、代表的なものは以下の通りです。
- 毒素
- アンモニア
- 薬物
- アルコール
以上の物質のうち、着目したいのがアンモニアの解毒です。
アンモニアには脳を傷害する作用があり、体内で蓄積すると肝性脳症という病態の原因となります。
肝性脳症の主な症状は、意識障害や異常行動などの精神・神経症状です。
そんな恐ろしいアンモニアの蓄積を防ぐために、肝臓には「尿素回路(オルニチン回路)」という解毒システムが用意されています。
この回路によりアンモニアは、ヒトにとって無毒な物質である「尿素」に変換され、尿中に排泄されます。
③免疫
消化管から肝臓につながる門脈では、吸収した栄養素が運ばれていますが、同時に異物・有害物も運ばれてきます。
これらの物質を消化し除去するため、肝臓では「クッパー細胞」が待ち構えており、免疫システムにおいて大きな役割を果たしています。
クッパー細胞の仕事はそれだけではありません。
老化した赤血球(全身の組織に酸素を運ぶ細胞)を貪食し、処理する働きも持っているのです。
④胆汁生成
肝臓では胆汁と呼ばれる、黄褐色の液体が絶えず生成されています。
その働きは、小腸での脂肪の消化・吸収の促進と、肝臓内の老廃物の排出です。
生成された胆汁は、一旦胆嚢に送られて濃縮・貯蔵されます。
その後、消化管ホルモンの一種である「コレシストキニン」の作用により、十二指腸に放出されます。
しかし胆汁は、いついかなる時も正常に排出されるわけではありません。
肝臓や胆道などに起こる疾患が原因で、胆汁排出に異常が生じる病態を黄疸と言い、眼球結膜や皮膚が黄色く染まります。
「肝臓が悪くなると顔が黄色くなる」と、聞いたことがある人もいらっしゃるのではないでしょうか。
急性肝炎と慢性肝炎
ここまで紹介してきた肝臓は、約2500億個もの肝細胞から構成されています。
肝炎とは、この肝細胞に炎症が発生する疾患です。
肝炎は症状などの経過から、急性肝炎と慢性肝炎に分けられます。
急性肝炎の主な症状は以下の通りです。
- 全身倦怠感
- 食欲不振
- 悪心/嘔吐
- 発熱
- 筋肉痛
- 黄疸
- 褐色尿
- 肝腫大
- 腹痛
全身倦怠感や発熱、腹痛や筋肉痛などから症状が始まり、その後に黄疸や褐色尿がみられるケースが多いです。
急性肝炎のほとんどは自然治癒していきますが、稀な頻度で劇症肝炎という病態に進行します。
劇症肝炎では、先ほど挙げた症状が高度になるうえ、意識障害がみられます。
一方、慢性肝炎とは、肝細胞に発生した炎症が6ヵ月以上続く病態です。
急性肝炎から慢性肝炎へと移行する場合もあれば、急性肝炎を経ずに慢性肝炎を発症する場合もあります。
なお、慢性肝炎では無症状のまま経過するケースもよくみられます。
肝炎の原因
肝炎の原因は様々であり、代表的なものとして以下が挙げられます。
- 肝炎ウイルス(A型~E型の5種類)
- 肝炎ウイルス以外のウイルス(単純ヘルペスウイルス、EBウイルス、サイトメガロウイルスなど)
- 自己免疫疾患(自己免疫性肝炎など)
- アルコール摂取過多
- 薬物(抗菌薬、解熱鎮痛薬など)
実際では、肝炎の原因のほとんどを肝炎ウイルスが占めています。
ウイルス性肝炎の発症メカニズム
ウイルス性肝炎の原因となる肝炎ウイルスには、A型肝炎ウイルス~E型肝炎ウイルスの5種類が該当します。
これらの肝炎ウイルスは肝細胞に対して親和性を持ち、肝細胞内に侵入・増殖します。
しかし、肝炎ウイルスそのものには、肝細胞に対する傷害性がほとんどありません。
侵入してきた肝炎ウイルスに対して、生体が持つ免疫反応が活発となり、ウイルスに感染した肝細胞が破壊されることで肝炎が起こります。
肝炎ウイルスの特徴
肝炎ウイルスは型によって、その特徴が大きく異なります。
A型肝炎ウイルス~E型肝炎ウイルスについて、感染経路や潜伏期間、経過などを見ていきましょう。
①A型肝炎ウイルス(HAV)
A型肝炎ウイルスは、海外渡航時の生水や生もの(貝類等)などで経口感染します。
潜伏期間は2~6週間です。
急性肝炎を発症しますが、99.9%は自然治癒し、劇症肝炎に至るのは0.1%と報告されています。
また、慢性肝炎に移行することもありません。
②B型肝炎ウイルス(HBV)
B型肝炎ウイルスは、医療従事者の針刺し事故や薬物中毒者による注射器の使い回しなどで血液感染したり、性交渉などで体液感染したり、母から子へ母子感染したりします。
潜伏期間は1~6ヵ月間です。
成人が血液感染したり体液感染したりすると、20~30%が急性肝炎を発症します。
また、1%以下の割合ではあるものの劇症肝炎に至る恐れも。
一方、母子感染により乳幼児期までに感染すると、90%以上の割合で感染した状態が持続します。
そして、そのうち10~15%が慢性肝炎を発症します。
③C型肝炎ウイルス(HCV)
C型肝炎ウイルスは、医療従事者の針刺し事故や薬物中毒者による注射器の使い回しなどで血液感染します。
ただし、約60%の症例で明らかな感染原因が不明です。
潜伏期間は2週間~6ヵ月間です。
急性肝炎を発症し、そのうち約70%が慢性肝炎に移行します。
20~30年以上の経過を経て、肝硬変や肝細胞癌を発症する場合も少なくありません。
実際、肝細胞癌の原因のうち約60%をC型肝炎が占めています。
④D型肝炎ウイルス(HDV)
D型肝炎ウイルスは、B型肝炎ウイルスと同様の経路で感染します。
また、増殖するためにはB型肝炎ウイルスが必要です。
潜伏期間は1~6ヵ月間です。
D型肝炎ウイルスの感染には、「共感染」と「重感染」の2タイプがあります。
感染形式 | 説明 |
---|---|
共感染 | D型肝炎ウイルスとB型肝炎ウイルスに同時に感染 |
重感染 | B型肝炎ウイルスに感染している人が、さらにD型肝炎ウイルスに感染 |
共感染の場合は、重症化しやすいですが慢性肝炎への移行は稀です。
一方、重感染の場合は、D型慢性肝炎となり肝硬変などに進展する恐れがあります。
⑤E型肝炎ウイルス(HEV)
E型肝炎ウイルスは、猪や鹿、豚肉などの生食により経口感染します。
潜伏期間は2~9週間です。
同じく経口感染するA型肝炎ウイルスと同様に、急性肝炎を発症します。
慢性肝炎に移行するケースはほとんどないものの、妊婦が感染すると20%の割合で劇症肝炎に進行すると報告されています。
肝炎ワクチンの種類
肝炎ウイルスに対するワクチンには、A型肝炎ワクチンとB型肝炎ワクチンの2種類があります。
それぞれについて見ていきましょう。
①A型肝炎ワクチン
A型肝炎の発症は、A型肝炎ワクチンで予防できます。
接種が推奨されるのは、海外渡航者や男性同性愛者、HIV感染者や慢性肝疾患患者です。
A型肝炎ワクチンの接種回数は3回です。
初回接種した後、2~4週間後に2回目を、24週間後以降に3回目を接種します。
②B型肝炎ワクチン
B型肝炎やD型肝炎の発症は、B型肝炎ワクチンで予防できます。
接種が推奨されるのは、HBVキャリア(感染した状態にある人)のパートナー・家族や、医療従事者・救急救命士などです。
また、2016年より定期接種となっているため全ての出生児も接種を受けます。
B型肝炎ワクチンの接種回数は3回です。
接種スケジュールは新生児と成人で異なります。
1回目 | 2回目 | 3回目 | |
---|---|---|---|
非キャリア妊婦からの出生児 | 出生後2ヵ月 | 出生後3ヵ月 | 出生後7~8ヵ月 |
キャリア妊婦からの出生児 | 出生直後 | 出生後1ヵ月 | 出生後6ヵ月 |
成人 | 初回接種の4週間後 | 初回接種の20~24週間後 |
まとめ:ワクチンを接種して肝炎の発症を予防しよう
肝炎とは、肝臓を構成している肝細胞に炎症が発生する疾患です。
様々な原因が挙げられますが、最も頻度が高いものが肝炎ウイルスです。
肝炎ウイルスにはA型~E型の5種類があり、それぞれ感染経路や経過が大きく異なります。
肝炎の発症を予防するために有効であるのが、A型肝炎ワクチンとB型肝炎ワクチンです。
肝炎ワクチンの接種が推奨される人は、適切なスケジュールに従ってワクチンを接種しましょう。