「麻疹ワクチンってどんなワクチンなの?」
「麻疹の症状や合併症は?」
このような疑問を持っている人は少なくないのではないでしょうか。
本記事では、獲得免疫やワクチンの種類、麻疹ワクチン(MRワクチン)について徹底解説。
症状や合併症を中心に、麻疹とはどのような感染症であるのかについても紹介します。
本記事を読めば、麻疹とそのワクチンについて理解を深められます。
興味がある人はぜひ最後までご覧ください。
予防接種と獲得免疫
細菌やウイルスによる感染症を予防するための方法として、広く実施されているのが予防接種です。
人工的に合成した病原体の抗原(ワクチン)を生体に接種することで、獲得免疫反応を促します。
獲得免疫とは、病原体に対して特異的な免疫反応のことです。
免疫に関わる細胞である「リンパ球」を中心として、以下2タイプの免疫反応が起こります。
- 液性免疫
- 細胞性免疫
それぞれについて簡単に見ていきましょう。
①液性免疫
体内に病原体が侵入してくると、特異的に反応する「B細胞(リンパ球の一種)」が活性化・増殖します。
そして、「抗体」と呼ばれる蛋白を大量に産生します。
産生された抗体にも、病原体に対する厳密な特異性があり、病原体と結合可能です。
そして、以下のような作用を発揮します。
免疫反応 | 説明 |
---|---|
オプソニン化 | 病原体を排除する「食細胞」の働きを促進する |
中和 | ウイルスや毒素に結合し、感染力や毒性を失わせる |
補体の活性化 | 補体(免疫反応に関与する蛋白質)の活性化を誘導する |
②細胞性免疫
細胞性免疫では、抗体ではなく「T細胞(リンパ球の一種)」が中心となります。
T細胞にはいくつかの種類があり、細胞性免疫に関わるものは主に以下の通りです。
- CD4陽性T細胞
- CD8陽性T細胞
- Th1細胞
- 細胞傷害性T細胞
病原体への感染を契機として、特異的なCD4陽性T細胞とCD8陽性T細胞が反応します。
このうち、CD4陽性T細胞はTh1細胞へと変化し、「サイトカイン」と呼ばれる物質を放出します。
サイトカインの作用により、CD8陽性T細胞は細胞傷害性T細胞へと変化。
そして、病原体に感染した細胞を特異的に破壊していくのです。
ワクチンの種類
ワクチンは、接種する病原体の違いから以下の3タイプに分類されます。
- 弱毒生ワクチン
- 不活化ワクチン
- トキソイド(ジフテリア菌・破傷風菌の毒素を無毒化したもの)
このうち、ウイルスに対して用いられている弱毒生ワクチンと不活化ワクチンについて、比較して見ていきましょう。
弱毒生ワクチン | 不活化ワクチン | |
---|---|---|
概要 | 様々な方法で病原体の病原性を弱めたもの (感染性あり) | 病原体を殺菌もしくは不活化し、感染性をなくしたもの |
産生される免疫 | 液性免疫+細胞性免疫 | 液性免疫のみ |
主な対象疾患・病原体 |
・麻疹 ・風疹 ・結核 ・水痘 ・黄熱 ・流行性耳下腺炎 ・ロタウイルス感染症 |
・百日咳 ・肺炎球菌 ・日本脳炎 ・ポリオ ・インフルエンザ菌血清型b ・ヒトパピローマウイルス ・インフルエンザウイルス ・A型肝炎 ・B型肝炎 ・狂犬病 ・髄膜炎菌 |
メリット | 液性免疫と細胞性免疫の両者を獲得できるため、免疫が長期間続く | 感染性がないため、安全性が高い |
デメリット | ・不活化ワクチンと比較すると、副反応を起こす可能性が高い ・免疫不全患者や妊婦への接種は禁止 |
細胞性免疫を獲得できず、免疫能の持続が比較的短期間であるため、追加接種が必要 |
上表にも記載の通り、麻疹ワクチンは弱毒生ワクチンです。
勧奨接種と任意接種の違い
予防接種には、予防接種法で定められた勧奨接種と、それ以外の任意接種があります。
それぞれについて見ていきましょう。
①勧奨接種
勧奨接種は、接種スケジュールが決まっている定期接種と、流行防止のために緊急的に行われる臨時接種に分類されます。
定期接種には、麻疹ワクチンをはじめとして、多くのワクチンが該当します。
一方、臨時接種が実施されるのは新型インフルエンザなどです。
②任意接種
任意接種とはその名の通り、接種を受ける側の任意で実施する予防接種のことです。
基本的には自費で行いますが、助成を受けられる自治体もあります。
任意接種には、主に以下のようなワクチンが該当します。
- ロタウイルスワクチン
- 流行性耳下腺炎ワクチン
- A型肝炎ワクチン
- 髄膜炎菌ワクチン
この他、定期接種として定められているものであっても、対象年齢以外で受けた場合は任意接種となります。
麻疹ワクチンについて
麻疹に対するワクチンは、風疹に対するワクチンとセットになった混合ワクチンです。
麻疹(measles)と風疹(rubella)の頭文字を取って、「MRワクチン」と名づけられています。
なお、それぞれに対する単独のワクチンを接種することも可能です。
先ほども述べた通り、MRワクチンは定期接種の対象ワクチンです。
以下の2回接種する必要があります。
- 1歳の一年間(1歳の誕生日の前日から2歳の誕生日の前日まで)
- 5歳以上7歳未満で、小学校入学前の1年間
MRワクチンの接種により、およそ95%の人が麻疹ウイルスと風疹ウイルスに対する免疫を獲得できます。
また、1回目の接種では免疫を獲得できなかった人の多くも、2回目の接種で免疫を獲得できます。
麻疹について
ここからは、麻疹がどのような疾患であるのかについて、以下の観点から解説していきます。
- 感染方法
- 症状
- 主な合併症
- 亜急性硬化性全脳炎(SSPE)
- 治療
- 現在の流行状況
それぞれについて見ていきましょう。
①感染方法
病原体の感染方法には、以下のように様々な種類があります。
感染経路 | 説明 |
---|---|
飛沫感染 | 病原体を含む飛沫を吸い込んで感染 |
空気感染(飛沫核感染) | 空気中に漂う微細な粒子(飛沫核)により感染 ※飛沫核…飛沫の水分が蒸発したもの |
接触感染 | 感染源に直接接触して感染 (経皮感染、経口感染、性行為感染など) |
媒介物感染 | 汚染物を介して感染 (食中毒、医療従事者の針刺し事故など) |
母子感染 | 母体に感染している病原体が、妊娠・分娩・授乳を通じて胎児・新生児に感染 |
以上のうち、麻疹は空気感染に該当し感染力が極めて強いです。
不顕性感染(病原体に感染したが症状がない状態)が極めて少なく、免疫を獲得していない人が感染すると、ほぼ100%が発症すると報告されています。
②症状
麻疹の特徴として、二峰性の発熱を呈する点が挙げられます。
症状の経過について見ていきましょう。
期間 | 大まかな発症後日数 | 症状など |
---|---|---|
潜伏期 | -12日~0日 | ・空気感染により感染し、潜伏期はおよそ12日間 |
カタル期 | 0日~3日 | ・一峰目の発熱(38~39℃) ・カタル症状(鼻汁・咳嗽など) ・終わり頃にコプリック斑(両側頬粘膜の白い発疹) ・ウイルス排出量が最も多く、感染力が最も強い時期 |
発疹期 | 3日~9日 | ・一旦解熱した後、二峰目の発熱(40℃近い) ・発熱と同時に、全身に広がる発疹 ・カタル症状の悪化 ・コプリック斑の消退 ・ウイルス排出量は減少していく |
回復期 | 9日~ | ・色素沈着を残して発疹が消退 ・登校可能となるのは、解熱後3日経過してから |
③主な合併症
麻疹の合併症として、肺炎や脳炎、中耳炎などをきたすケースもあります。
肺炎の合併率はおよそ6%、中耳炎の合併率はおよそ7%です。
また、頻度は低い(1000例に0.5~1例ほど)ものの脳炎を合併すると、致命的となるケースが少なくありません(約60%が完全回復、約25%が後遺症、約15%が致命的)。
④亜急性硬化性全脳炎(SSPE)
麻疹の重篤な合併症として、注意すべきであるのが亜急性硬化性全脳炎です。
麻疹に罹患後、3~12年ほど経過してから発症します。
なお、発症する割合は10万人に1人程度です。
亜急性硬化性全脳炎では、脳神経に麻疹ウイルスが感染することにより、以下のような症状を呈します。
- 性格変化
- 知能低下
- けいれん
治療法が確立されておらず、致命的な経過をとるケースが多い合併症です。
⑤治療
麻疹に対しては、基本的に対症療法が行われます。
具体的には、高熱に対する解熱鎮痛剤などです。
その他、細菌による合併症(肺炎・中耳炎など)がある場合は、抗菌薬の投与も行われます。
なお、麻疹ウイルスに曝露後72時間以内に麻疹ワクチンを接種すると、発症の予防が期待できるとされています。
ただし、麻疹ワクチンはあくまでも定期接種のタイミングで受けるのが基本です。
⑥現在の流行状況
麻疹ワクチンの2回接種を続けてきた結果、日本国内での発症例は大きく減少しています。
国立感染症研究所にデータによると、2008年には11,013例の症例が報告されていますが、2023年には28例の報告にとどまっています。
しかし、主にアジアやアフリカ諸国では、依然として多数の発症例が報告されています。
麻疹に感染したことがない人が海外渡航をする際は、予め麻疹ワクチンの接種歴を確認し、2回接種を受けていない場合は、ワクチン接種を検討しましょう。
まとめ:麻疹ワクチンの定期接種で麻疹の発症を予防しよう
感染症に対する免疫を獲得するためには、予防接種が有効な手段です。
接種するワクチンには、弱毒生ワクチン・不活化ワクチン・トキソイドの3種類があり、麻疹に対するワクチンであるMRワクチンは、弱毒生ワクチンに該当します。
麻疹は非常に感染力が強い感染症であり、二峰性の発熱を特徴とします。
2回の定期接種を忘れずに受け、麻疹ワクチンで麻疹の発症を予防しましょう。