5α還元酵素阻害薬の作用機序を解説｜前立腺肥大症や男性型脱毛症について詳しく紹介

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薬効分類

5α還元酵素阻害薬

テストステロンとは？

テストステロンとは、男性ホルモンと呼ばれる「アンドロゲン」の一種です。
全身の様々な臓器に作用し、以下のような変化をもたらします。

臓器	変化
脳	攻撃性亢進、性的欲求亢進
毛根	体毛の増加
筋肉	筋肉量増加
骨	骨量増加
性器	前立腺や陰茎などの大きさ・機能亢進
精巣	精子形成促進

以上のように、男性としての身体的特徴を形成し、それを維持するために必要不可欠なホルモンです。

5α還元酵素阻害薬の作用機序

男性ホルモンであるテストステロンは、「5α還元酵素」という物質により、より強い作用を持つ「ジヒドロテストステロン」に変化します。
そして、ジヒドロテストステロンの作用により、前立腺肥大症や男性型脱毛症(AGA)が引き起こされます。

前立腺肥大症や男性型脱毛症に対する治療薬として用いられているのが、5α還元酵素阻害薬です。
5α還元酵素阻害薬は、5α還元酵素の働きを阻害することでジヒドロテストステロンの生成を抑制し、前立腺肥大症や男性型脱毛症に対する治療効果を発揮します。

5α還元酵素阻害薬が適応となる疾患：1.前立腺肥大症

前立腺肥大症について、以下の観点から解説していきます。

前立腺と尿道の位置関係
症状
病期
メカニズム
治療法

それぞれについて見ていきましょう。

①前立腺と尿道の位置関係

前立腺とは、精液の液体成分の約5～10％を占めている、前立腺液を分泌している臓器です。
サイズは栗の実大であり、約18gの重さがあります。

続いて、男性の尿道についてです。
腎臓で血液が濾過されて尿が作られた後、尿管という管を通って膀胱に貯められます。
なお、膀胱に貯留される尿量は、一般的な成人で300～500mLです。

その後、尿は尿道を通って排泄されます。
男性の尿道はS字状に走行しており、長さは15～20㎝です。
また、前立腺部尿道・膜様部尿道・海綿体部尿道の3区域から成り立っています。

ここで、前立腺は膀胱の下に位置しており、前立腺部尿道を取り囲んでいます。
前立腺肥大症について理解するために、位置関係をしっかり把握しておきましょう。

②症状

前立腺肥大症は、前立腺の肥大により尿道が狭窄し、様々な尿路症状が生じる疾患です。
具体的には、以下のような症状がみられます。

残尿感(排尿後も尿が残っている感覚)
頻尿(起きている間の排尿回数が8回以上)
尿意切迫感(我慢できないほどの強い尿意)
夜間頻尿(就寝中、排尿のために1回以上起きなければならない)
尿線途絶(排尿中に尿の流れが途中で止まる状態)
尿勢低下(尿の勢いが弱くなる状態)
尿閉(尿が全くorほとんど出せない状態)

なお、前立腺肥大の程度と、症状の強さは必ずしも相関しないと言われています。

③病期

前立腺肥大症では、病期の進行により以下のような症状がみられます。

病期	第1期(膀胱刺激期)	第2期(残尿発生期)	第3期(慢性尿閉期)
主な症状	・尿道や膀胱への圧迫/刺激による、頻尿や夜間頻尿・下腹部の不快感や圧迫感	・悪化する頻尿や排尿困難・残尿の増加により、膀胱炎などの感染症が起こりやすい	・慢性的な尿閉により、腎機能が低下・溢流性尿失禁(膀胱内圧の上昇による、少量ずつの失禁)

第3期まで進行すると、残尿量が150mLを超えるケースも少なくありません。

④メカニズム

前立腺肥大症にて尿路が狭窄するメカニズムは、以下の3つから説明されます。

交感神経系の亢進による機能的閉塞
副交感神経系の抑制による機能的閉塞
前立腺肥大による機械的閉塞

機能的閉塞と機械的閉塞を併発することで、前立腺肥大症が発症・進行していきます。

交感神経系と副交感神経系は、自律神経系を構成している神経システムです。
興奮・緊張状態で亢進するのが交感神経系であり、リラックス状態で亢進するのが副交感神経系です。

交感神経系が亢進すると、「ノルアドレナリン」という神経伝達物質が放出されます。
ノルアドレナリンは、前立腺に存在する「α1受容体」という部位に結合し、前立腺を構成する「平滑筋」を収縮させます。
その結果、尿道が狭窄するのです。

また、副交感神経系が亢進すると、「cGMP」という神経伝達物質が放出されます。
cGMPの前立腺における作用は、平滑筋の弛緩による尿道狭窄の抑制です。
しかし、「PDE5」という物質が何らかの理由で活性化していると、cGMPが分解されてしまいます。
その結果、尿道狭窄が抑制されなくなるのです。

最後に、前立腺肥大による機械的閉塞についてです。
前立腺の細胞には5α還元酵素が多く存在しており、精巣から放出されたテストステロンがジヒドロテストステロンに変換されます。

そして、ジヒドロテストステロンには、前立腺の細胞の増殖を促進する作用があります。
その結果、前立腺が肥大して尿道が機械的に狭窄するのです。

⑤治療法

前立腺肥大症の治療は、薬物療法が中心です。
発症するメカニズムを踏まえて、以下の3剤が使用されています。

α1受容体拮抗薬(交感神経系の亢進による機能的閉塞に対して)
PDE5阻害薬(副交感神経系の抑制による機能的閉塞に対して)
5α還元酵素阻害薬(前立腺肥大による機械的閉塞に対して)

「アボルブ」などの5α還元酵素阻害薬は即効性に乏しいものの、前立腺の肥大が顕著なケースで有効性が高いです。

薬物療法では対処できない難治例や重症例では、手術療法が検討されます。
経尿道的前立腺切除術(TURP)により、前立腺を削り取って尿道狭窄の解除を試みます。

5α還元酵素阻害薬が適応となる疾患：2.男性型脱毛症

男性型脱毛症について、以下の観点から解説していきます。

髪の毛の周期
メカニズム
治療法

それぞれについて見ていきましょう。

①髪の毛の周期

ヒトの髪の毛は、基本的に成長期もしくは休止期のどちらかに該当しています。

周期	状態	期間	割合
成長期	新しい髪の毛が生え、太く・長く成長する	約2～6年	全体の90%
休止期	髪の毛の成長が止まり、抜け落ちていく	約3～4ヵ月	全体の10％

②メカニズム

ジヒドロテストステロンは、「男性ホルモン感受性毛包」に存在する受容体に結合することで、「毛母細胞」の増殖を抑制します。
その結果、周期のうち成長期が短縮し、休止期に該当する髪の毛の割合が増加します。
そして、十分に成長期を過ごせない髪の毛が細く・短くなっていき、最後には抜けてしまうのです。

なお、男性ホルモン感受性毛包は、主に前頭部・頭頂部に存在しています。
そのため、男性型脱毛症では前頭部・頭頂部に脱毛がみられます。

③治療法

男性型脱毛症に対する治療法は、薬物療法が中心です。
「フィナステリド」や「デュタステリド」といった、5α還元酵素阻害薬が第一選択薬(原則はじめに使う治療薬)です。
その他、「ミノキシジル」という外用育毛剤も用いられています。

ミノキシジルについて少し補足しておきましょう。
ミノキシジルには主に以下の働きがあり、男性型脱毛症に対して治療効果を発揮しています。

直接的作用	毛包に直接作用して毛母細胞の増殖を促し、休止期から成長期への移行を促進する
間接的作用	毛包周囲の毛細血管を拡張して血流を改善し、栄養や酸素の供給量を増やして、発毛を促進する

薬物療法以外の治療法として挙げられるのは、自毛植毛術やLED・低出力レーザー照射などです。
自毛植毛術は、薬物療法の効果が乏しい場合に行われます。
また、LED・低出力レーザー照射は、副作用が少ない点がメリットです。