亜鉛はアミノ酸からのタンパク質再合成やDNAの合成など、新しい細胞が作られる器官や組織において欠かせない栄養素の1つです。
亜鉛が不足すると低亜鉛血症となり、成長が止まったり味覚障害になったりする他、免疫力の低下や脱毛など体内で様々障害を引き起こすことがあります。
今回はこのような低亜鉛血症を治療する亜鉛の薬剤ノベルジンを中心に、効果や副作用などを解説していきます。
さらにノベルジン以外の亜鉛の薬剤や、亜鉛を不足させない生活についても紹介しますので、亜鉛でお悩みの方はぜひ参考にしてください。
亜鉛とは
人間が生きていくために必要な栄養素は炭水化物・タンパク質・脂質・ビタミン・ミネラルに分類され、今回話題となる亜鉛はミネラルという微量栄養素の1つです。
亜鉛は筋肉や骨、臓器、髪の毛など身体の様々なところに存在し、タンパク質やDNAの合成、酵素の働きに作用して身体の機能を維持する役割を担っています。
このように身体にとって重要な働きを持つ亜鉛が不足すると、次のような悪影響が起こる恐れがあります。
- 成長が止まる
- 味覚障害が起きる
- 髪の毛が抜ける
- 下痢になる
- 爪に異常が出る
- 男性器の発育が抑制される
- イライラや抗うつ状態になる
- 感染症にかかりやすくなる
亜鉛は食事から摂取することができる栄養素ですが、汗や便などから排出されたり、アルコールによって消費したりします。
激しい運動をする人や飲酒をする人、栄養が十分に摂れていない人は亜鉛不足になりやすいので注意してください。
もし、先ほど紹介したような症状が現れた時には低亜鉛血症の可能性があるため、速やかに医療機関を受診して治療を始めましょう。
亜鉛の薬剤ノベルジンとは
正常な場合の血清亜鉛濃度が80~130μg/dLであるのに対して、60~80μg/dL未満であると潜在性亜鉛欠乏症、60μg/dL未満であると亜鉛欠乏症と診断されます。
低亜鉛血症になった時には、亜鉛を充足させるためにノベルジンを始めとする亜鉛の薬剤を使用して治療していきます。
ここではノベルジンの効果や副作用について触れていきます。
ノベルジンの効果
ノベルジンは酢酸亜鉛水和物を主成分とする亜鉛の薬剤で、体内に亜鉛が不足することが原因で起きる低亜鉛血症の他、銅輸送蛋白の遺伝子変異によって肝臓や脳などの全身に銅が蓄積してしまう肝レンズ核変性症やウィルソン病の治療にも使用されます。
ノベルジンには「ノベルジン錠25mg」「ノベルジン錠50mg」という白色の錠剤や「ノベルジン顆粒5%」という顆粒の剤型があります。
低亜鉛血症の治療には通常、成人や体重30kg以上の小児であれば、亜鉛に換算して1回25~50mgを1日2回服用し、最大で1回50mgを1日3回まで増量することが可能です。
服用するタイミングは胃痛などの副作用を避けるために食後に服用するようにしてください。
亜鉛の薬剤の服用を開始して1ヵ月以内に効果が出る人は半数ほどいますが、基本的には約3~6ヵ月継続して飲む必要があります。
特に症状を放置していた人や高齢者は、効果が出るまで時間がかかりやすいと言われていることからも、根気強く服用を続ける必要があります。
ノベルジンの副作用
ノベルジンの主な副作用は吐き気や便秘、下痢などの胃腸症状、リパーゼやアミラーゼの増加などがあり、重篤な副作用として銅欠乏症や鉄欠乏性貧血、汎血球減少、神経障害などの報告があります。
銅欠乏症や鉄欠乏性貧血は、亜鉛を長期的に大量服用すると銅と鉄の吸収が阻害されてしまうことが原因で起こることから、亜鉛を服用中は銅や鉄の数値も測定して欠乏しないように注意を払うことが大切です。
もし、銅や鉄が欠乏する場合は、服用する亜鉛の量を減らしたり、銅や鉄を補充したりします。
ノベルジンは妊婦や授乳婦、小児、高齢者、肝機能障害のある方が使用する時には、副作用が起きやすいために十分注意してください。
また、ポラプレジンクやキレート剤を始めとする様々な薬剤に影響を与えて効果を強めたり、反対に弱めたりしてしまうことから、他の薬剤と併用する時には医師や薬剤師に相談するようにしましょう。
鉄分を多く含む食べ物との相性もよくないため、ノベルジンを服用中はひじきやアサリなどは避けるとよいでしょう。
ノベルジン以外の亜鉛の薬剤
ノベルジン以外にも亜鉛の薬剤は複数あり、効果や適応となる病気が少しずつ異なります。
ここではノベルジン以外の主な亜鉛の薬剤を紹介していきます。
酢酸亜鉛水和物
酢酸亜鉛水和物を主成分とするのは先発薬のノベルジンの他に、酢酸亜鉛錠という名前のジェネリック医薬品が複数の製薬会社から販売されています。
酢酸亜鉛錠も基本的にはノベルジンと同じ特徴を持ち、低亜鉛血症や肝レンズ核変性症、ウィルソン病の治療に使用されています。
ノベルジンは他の亜鉛の薬よりも薬価が高いため、低亜鉛血症の治療において、費用を抑える目的で他の薬剤が処方されるケースもあります。
ポラプレジンク
ポラプレジンクを主成分とする亜鉛の薬剤には、先発薬であるプロマック顆粒やプロマックD錠に加え、ジェネリック医薬品のポラプレジンク顆粒やポラプレジンクOD錠があります。
ポラプレジンクは亜鉛の薬剤ではありますが、胃粘膜を修復する作用があることから胃潰瘍を治療する薬剤とされています。
そのため、低亜鉛血症に対する保険適用はありませんが、亜鉛を補充する効果があることやノベルジンの薬価が非常に高いことを理由に、ポラプレジンクを処方するケースもあります。
ただし、ポラプレジンクは1日量である150mg中に亜鉛が34mgしか含まれていないため、亜鉛欠乏が強い場合には十分な量を補充できないという問題点もあります。
ポラプレジンクを主成分とするプロマックDの副作用には、便秘や吐き気などの消化器症状、好酸球増多、白血球減少、血小板減少などがあり、稀に肝機能障害や銅欠乏などの重篤な副作用を引き起こす恐れもあるので注意しましょう。
そのため、妊婦は相対禁止、授乳婦や14歳未満の子ども、高齢者は注意して使用する必要があります。
また、ペニシラミン製剤やレボチロキシンナトリウムと併用すると効果が弱まる可能性があるため、併用する必要がある場合には医師や薬剤師に相談しましょう。
ヒスチジン亜鉛水和物
低亜鉛血症の治療薬として、ヒスチジン亜鉛水和物を主成分としたジンタスが2024年3月26日に販売承認され、亜鉛の薬剤の選択肢が広がりました。
ヒスチジン亜鉛水和物を主成分とした薬剤は先発薬であるジンタス錠25mgとジンタス錠50mgの2種類で、ジェネリック医薬品の販売はまだありません。
ヒスチジン亜鉛水和物の適応は低亜鉛血症のみで、成人であれば亜鉛に換算して1回50~100mgを1日1回服用します。
これまでの亜鉛の薬剤は1日2~3回服用する必要がありましたが、ヒスチジンは1日1回飲むだけなので飲み忘れにくいメリットがあります。
ヒスチジン亜鉛水和物の副作用には下痢や吐き気などの消化器症状、鉄欠乏性貧血などがあり、重大な副作用として銅欠乏症や汎血球減少、神経障害なども報告されています。
しかしながら、ヒスチジン亜鉛水和物にはノベルジンと比較しても亜鉛による消化器への副作用の影響は小さく、吐き気などが起こる可能性も比較的少ないと言われています。
ヒスチジン亜鉛水和物も妊婦は相対禁止、授乳婦や14歳未満の子ども、高齢者は注意して使用してください。
テトラサイクリン系抗生物質やキノロン系抗菌剤などの薬剤とヒスチジン亜鉛水和物は互いに影響を受けやすいため、他の薬剤と併用する時には医師や薬剤師に相談しましょう。
また、鉄分を多く含む食品との食べ合わせにも注意が必要です。
亜鉛を不足させない生活のポイント
亜鉛を十分に摂取しているつもりでも、生活習慣によっては分解されたり、排出されたりして体内の亜鉛不足を招きます。
例えば、アルコールを分解する酵素を機能させるためには亜鉛が必要なため、アルコールを大量摂取してしまうと多くの亜鉛を消費することになります。
これは喫煙も同じで、タバコを吸った時に発生する活性酸素を体内から除去するためにも亜鉛が消費されます。
さらに激しいスポーツをしている人は汗から大量に亜鉛が流れ出てしまったり、加工食品を頻繁に食べる人は食品添加物と亜鉛が結合して体外に排出されてしまったりします。
このように様々な要因による亜鉛の消費や排出によって、亜鉛を十分摂っているつもりでも亜鉛不足に陥っている可能性があります。
しかしながら、亜鉛は肉や魚、穀物など多種多様な食品に含まれている栄養素であるため、一汁三菜のようなバランスの取れた食事を心掛ければ、しっかり摂取できます。
亜鉛不足が不安な時には、牡蠣や豚レバー、牛肉、卵、納豆など亜鉛を多く含む食材を意識して摂取することで亜鉛を補充することができるでしょう。
亜鉛の薬ノベルジンは低亜鉛血症の治療薬
亜鉛は人間にとって必須のミネラルであり、筋肉や骨、臓器、髪の毛など身体の様々な箇所で、タンパク質やDNAの合成、酵素の働きに作用して身体の機能を維持しています。
亜鉛が不足すると低亜鉛血症となり、味覚障害が起きたり、髪の毛が抜けたり、感染症にかかりやすくなったりすることの他に、子どもであれば成長が止まってしまう可能性もあるため注意が必要です。
このような低亜鉛血症を治療する薬剤として亜鉛を補充するノベルジンが使用されます。
ノベルジンは低亜鉛血症に加え、肝レンズ核変性症やウィルソン病の治療薬でもありますが、銅欠乏症や鉄欠乏性貧血などの副作用のリスクもあるため、用法用量を守って正しく服用していきましょう。