グリチルリチン製剤には抗炎症作用や免疫調整作用、肝細胞増殖作用といった様々な働きがあり、注射薬・内服薬・外用薬に使用されています。
今回はグリチルリチン製剤の中でも肝臓疾患の治療に使われる治療薬にフォーカスして解説していきます。
グリチルリチン製剤の効果や副作用に加え、グリチルリチン製剤が配合された製品を知りたい方はぜひ参考にしてください。
グリチルリチン製剤とは
まずはグリチルリチン製剤がどんな薬剤なのか、効果や副作用・禁忌などを解説します。
グリチルリチン酸とは
グリチルリチン製剤の主成分であるグリチルリチン酸は、生薬である甘草の根に多く含まれる成分です。
甘草はマメ科カンゾウ属の多年草で、中国の東北部や中央アジア、南ヨーロッパの乾燥地帯に生息しています。
海外では古くから薬剤として使用されており、日本にも奈良時代~平安時代に唐に派遣された遣唐使によって伝えられました。
甘草の根に含まれるグリチルリチン酸は砂糖の100~200倍もの強い甘味があり、これが甘草という名前の由来にもなっています。
グリチルリチン酸の甘味は様々な食品にも使用され、根から抽出したエキスは日本国内では味噌や醤油などに、海外ではキャンディーや飲み物などに配合されています。
さらにグリチルリチン酸の抗炎症作用・免疫調整作用・肝細胞増殖作用などは医薬品としても利用され、風邪薬や塗り薬、肝臓の治療薬などの多種多様な薬剤に配合されているのです。
グリチルリチン製剤の効果
グリチルリチン酸を主成分としたグリチルリチン製剤には湿疹や皮膚炎を抑える効果と、肝臓の炎症を抑えて、肝臓で異常に大量の瘢痕組織が形成される肝組織の線維化を抑制する効果があります。
これらのことから、グリチルリチン製剤は肝臓を保護して肝機能を改善させる「肝庇護薬」とされ、慢性肝炎などの治療に使用されています。
肝庇護薬には、インターフェロンや核酸アナログのような肝炎ウイルスを攻撃する働きはありませんが、肝臓の機能を正常化することで肝硬変や肝臓がんへの進行を抑える効果があります。
副作用・禁忌
グリチルリチン製剤は吐き気や腹痛などの消化器症状の副作用に加え、ごく稀に血中のアルドステロンホルモンが増えていないのに低カリウム血症や高血圧などが起きる「偽アルドステロン症」や、主に骨格筋を構成する筋細胞が融解・壊死してしまう「横紋筋融解症」などの重篤な副作用を引き起こすことがあります。
むくみや尿量減少、体重増加は偽アルドステロン症、脱力感や筋肉痛、麻痺は横紋筋融解症の初期症状の恐れがあるため、違和感がある時には医師や薬剤師に相談してください。
これらの副作用が懸念されることから、アルドステロン症やミオパチー、低カリウム血症の方はグリチルリチン製剤を使用してはいけません。
さらに、高血圧の方や高齢者、心臓や腎臓に病気を抱えている方の使用にも注意が必要であり、副作用を引き起こさないためにも短期間の服用が推奨されています。
また、グリチルリチン酸を多く含む甘草は様々な漢方薬に配合されています。
グリチルリチン製剤と漢方薬を併用する時には、必ず成分を確認し、不安がある時には薬剤師に相談するとよいでしょう。
グリチルリチン酸の一覧
グリチルリチン製剤は主に肝臓疾患を治療する肝庇護薬として使用されている薬剤ですが、グリチルリチン酸には抗炎症作用や免疫調整作用もあるため、それ以外の多種多様な薬剤に配合されています。
ここでは、グリチルリチン酸が配合されている様々な製品を種類別に紹介していきます。
肝庇護薬
ここまでお話してきた通り、グリチルリチン酸には肝臓を保護して肝機能を正常化する働きがあるため、肝臓疾患の治療に使用されています。
グリチルリチン製剤を始めとする肝庇護薬には、肝炎が肝硬変や肝臓がんに進行するのを抑制する効果があると言われています。
肝庇護薬としてのグリチルリチン製剤の製品には、強力ネオミノファーゲンシー静注やヒシファーゲン配合静注などの注射薬と、グリチロン配合錠やネオファーゲンC配合錠などの内服薬があります。
慢性肝炎の治療では、強力ネオミノファーゲンシー静注を1日1回40~60mlを静脈内に注射または点滴静注し、症状によって最大1日100mlまで増量することが可能です。
内服薬のグリチロン配合錠であれば1回2~3錠を食後に1日3回服用していきます。
副作用はどちらの剤型でも起こる可能性がありますが、特に注射薬の方が出やすいとされているため、より注意を払うようにしてください。
風邪薬
グリチルリチン酸には抗炎症作用に加えて、鎮痛・去痰・鎮咳・抗アレルギー作用などがあることから、喉の痛みや腫れを緩和するとして風邪薬に利用されることがあります。
市販薬としては、大正製薬のパブロンセレクトTや、アリナミン製薬のベンザブロックIPプレミアム、第一三共ヘルスケアのルルアタックCXなどに配合されています。
これら商品は薬局やドラッグストアで購入できる身近な薬剤ですが、グリチルリチン酸の過剰摂取には気を付ける必要があります。
グリチルリチン酸を多く含む甘草は甘味が強い割に低カロリーであるため、ダイエット食品などにも利用されています。
グリチルリチン酸を摂取し過ぎると偽アルドステロン症などの副作用を引き起こす恐れがあるので、知らず知らずのうちに取り過ぎにならないよう、飲み合わせには注意しなければなりません。
外用薬
グリチルリチン酸は抗炎症作用があるため、塗り薬を始めとした多種多様な外用薬にも配合されています。
例えば、市販薬の池田模範堂のムヒアルファSやポケムヒSなどの虫刺され薬、久光製薬のエアーサロンパスジェットα、ロート製薬のメンソレータムメディカルncなどに炎症を抑える目的としてグリチルリチン酸が使用されています。
他にも、肌荒れを改善するあせもクリームやハンドクリーム、痔の痛みやかゆみを抑える目的としてグリチルリチン酸が配合されている製品があります。
また、グリチルリチン酸には円形脱毛症の改善にも効果が期待できることから、大正製薬のリアップX5チャージなどの発毛剤にも使用されています。
肝臓に優しい生活を送るために
肝臓は人間の臓器の中で最も大きく、栄養の代謝・有害物質の解毒・胆汁の分泌などの重要な働きを担っています。
大切な役割があるのにも関わらず、肝臓は損傷しても自覚症状が現れにくく、症状が現れた時にはかなり病気が進行していることから、沈黙の臓器という異名を持っています。
肝臓が肝炎や脂肪肝になると肝硬変や肝臓がんへ進行していくため、健康診断などでできるだけ早く肝臓の異常に気付き、治療を開始することが大切と言えます。
また、肝臓疾患の予防や進行を抑えるためには、肝臓に良い生活を心掛けることも重要です。
ここでは肝臓に負担をかけない生活のポイントを3つ紹介していきます。
アルコールを控える
肝臓はアルコールを分解する働きを持つ臓器であり、飲酒したアルコールの約9割を肝臓が処理しています。
アルコールを飲めば飲むほど肝臓の負担が増え、過剰摂取が続くと肝臓に中性脂肪が溜まって脂肪肝となり、アルコール肝炎や肝硬変へと症状が進行していきます。
こういった理由からも、肝臓に負担をかけないように節酒や禁酒をすることが大切です。
脂肪肝などの比較的軽い症状であればアルコールの摂取量を減らしたり、休肝日を週2日ほど設定したりするとよいでしょう。
もし、肝硬変など肝臓の状態が悪化しているのであれば、きっぱりと禁酒をしましょう。
食事はバランス良く控えめに
食事から摂取した過剰なエネルギーは肝臓で中性脂肪として蓄えられ、脂肪肝を引き起こします。
脂肪肝は肝硬変や肝臓がんへと進行してしまうことから、脂肪肝を招かないように食事は腹八分目を心掛けましょう。
特にお菓子やジュースなどの甘い食べ物やご飯・麺などの主食に多く含まれる糖質、揚げ物や肉の脂に多く含まれる脂質は中性脂肪として蓄えられやすいので、取り過ぎには注意してください。
また、肝臓が働くためにはビタミンやミネラルが欠かせません。
機能が落ちている肝臓はビタミンを蓄える力が低下しているため、より意識してビタミンを取り入れる必要があります。
肝臓をいたわるためにも、主食・主菜・副菜がバランス良く揃った食事を心掛けるようにしましょう。
適度な運動を習慣化する
運動は肝臓に蓄積した中性脂肪を減らし、脂肪肝や肝炎の改善が期待できます。
1日約30分のウォーキングや水泳などの有酸素運動を行い、身体を動かすことを習慣化しましょう。
運動をして筋肉が増えると代謝が良くなって脂肪が燃焼されやすくなりますが、一度にきつい運動を長時間行うと足や腰などに負担がかかってしまう可能性があるため、まずは軽い運動から始めていくとよいでしょう。
また、肝機能に異常があると診断された方は、医師に運動しても問題ないことを確認してから始めるようにしてください。
グリチルリチン製剤は肝臓の病気を治療する薬
グリチルリチン製剤は生薬の甘草に多く含まれるグリチルリチン酸を主成分とした薬剤で、抗炎症作用・免疫調整作用・肝細胞増殖作用などがあります。
グリチルリチン酸には肝臓を保護して肝機能を正常化する働きがあることから肝庇護薬として肝臓疾患の治療に使用されている他、風邪薬や虫刺されなど様々な薬剤に配合されています。
しかしながら肝臓は沈黙の臓器と呼ばれ、病気になっても気付きにくいのが特徴の1つです。
肝臓の病気にならないためにも、定期的に健康診断を受診して健康状態を確認しつつ、肝臓に優しい生活を送ることが大切です。
暴飲暴食を避けて飲酒もほどほどにし、運動を習慣化して、肝臓の負担を軽減していきましょう。