肝臓は病気になってもすぐに症状が出ることが少なく、症状を感じるようになる頃には病気がかなり進行しているケースが多いことから「沈黙の臓器」と呼ばれています。
今回はこの肝臓の病気の中でも慢性化しやすいB型肝炎と治療薬について解説していきます。
肝炎とは
肝炎は肝臓に炎症が起きて肝臓が破壊されていく病気で、発症する原因には以下のようなものがあると言われています。
- ウイルスが原因となるウイルス性肝炎
- 薬物・化学物質などが原因となる薬剤耐性肝炎
- 飲酒が原因となるアルコール性肝炎
- 自身の免疫細胞が攻撃することによる自己免疫性肝炎
このように肝炎が起きる原因は様々ですが、国内で起きる肝炎の約8割はウイルス性肝炎というデータがあります。
ウイルス性肝炎にはA型・B型・C型・D型・E型の5種類があり、それぞれ特徴が異なります。
このうち急性肝炎を引き起こすことが多いのがA型・B型・E型で、慢性肝炎となりやすいのがB型・C型です。
A型肝炎ウイルスは水や食べ物から感染しますが慢性化することはほぼなく、ワクチン接種で予防することも可能です。
D型肝炎ウイルスはB型肝炎に感染している患者さんのみに感染する特殊な病気で、E型肝炎は加熱不十分の豚肉などを食べることで感染します。
肝炎の中でも特に注意が必要なのが、慢性化しやすいB型肝炎とC型肝炎です。
C型肝炎は進行すると肝臓がんとなり、肝がん患者の約7割がC型肝炎ウイルスの感染者であるとされています。
C型肝炎は過去には注射針の使い回しや輸血が原因で感染することがありましたが、現在は感染予防対策が取られたことにより、これを原因とする感染者はほとんどいないとされています。
一方でピアスやタトゥー針、覚醒剤の注射器などの使い回しによって若い世代の感染者が増えてきている病気です。
B型肝炎は血液や体液を介して感染するため、過去にはB型肝炎に感染した母親から出産時に感染したり、輸血や集団予防接種の注射器の使い回しなどで感染したりすることがありましたが、感染予防対策が取られたことから感染者は減少しました。
現在は性的接触などが原因となった感染者がほとんどとなっています。
B型慢性肝炎とB型急性肝炎の違い
肝炎には様々原因がありますが、肝炎の最も多い原因がウイルスに感染することで起きるウイルス性肝炎です。
ここではウイルス性肝炎の中でも慢性化しやすいB型肝炎について紹介していきます。
B型急性肝炎
B型肝炎はB型肝炎ウイルスに感染することで発症する肝臓の病気で、B型急性肝炎は大人が初めてB型肝炎ウイルスに感染して発症した時に起こります。
B型急性肝炎になると数週間~半年ほどの間、食欲不振や倦怠感、発熱、黄疸などの症状が現れるとされています。
さらに劇症肝炎が発症したり、D型肝炎を併発したりすると症状は重篤化し、最悪の場合は死に至る可能性もあります。
このことからも黄疸などの症状が見られた時には肝臓の病気を疑って、速やかに血液検査を受けるようにしましょう。
検査の結果に異常が見られた時には、重症化を防ぐためにも速やかに医療機関を受診してください。
軽症のB型急性肝炎の場合は特に治療をせずとも完治することがほとんどで、飲酒を控えて肝臓の負担を軽くし、黄疸が消えれば通常の生活に復帰できます。
ただし、B型急性肝炎を発症した約5~10%の患者さんはB型慢性肝炎を発症するため、治ったからと安心せずに肝臓をいたわる生活を送ることを心掛けましょう。
B型慢性肝炎
B型慢性肝炎はほとんど症状がないことが多い病気ですが、肝硬変や肝臓がんのリスクを高めるため、速やかに治療を開始することが重要です。
B型慢性肝炎の進行は人それぞれで、急速に進行する人もいれば、数十年かけて肝硬変や肝臓がんを発症させるケースもあります。
特にB型肝炎とD型肝炎を併発した場合、放置した患者さんの7割に肝硬変が生じ、年齢に関係なく死に至ることも少なくありません。
B型慢性肝炎を発症すると完治するケースは少なく、多くは長期間の治療を継続していくようになります。
服薬を始めとする治療を続けていくことで、悪化を防ぎ、傷害が起きた部分を治癒することが可能なため、完治しないからと放置せずに必ず医療機関を受診しましょう。
また、肝機能障害の度合いにより、肝移植が選択されるケースもあります。
継続してB型慢性肝炎の抗ウイルス薬を服用していたり、移植前後に肝炎免疫グロブリン製剤による治療を受けていたりする場合には、B型肝炎が発症するリスクが低下し、移植した肝臓が機能し続けるケースもあります。
B型慢性肝炎の治療薬
B型慢性肝炎は主に薬剤を用いた治療を行います。
35歳未満で肝臓傷害が軽度であれば経過観察もありますが、炎症が強い場合にはウイルスを排除するインターフェロンや核酸アナログなどの治療薬を使用します。
35歳以上ではウイルス排除よりも炎症を鎮めることを優先して治療していきます。
核酸アナログを単体で使用したり、インターフェロンと核酸アナログを併用したりする治療が選択されるケースが多いです。
しかし、治療薬の中には長期間の服用により耐性を持つウイルスを出現させてしまう薬剤もあるため、近年は耐性株が出現しにくいとされるものを使用する傾向にあります。
エンテカビル
B型慢性肝炎の第一選択薬として核酸アナログのエンテカビルがあります。
エンテカビルはB型肝炎ウイルスが増殖する際に関わるDNAポリメラーゼという酵素を阻害して、ウイルスの増殖を抑制するB型肝炎の治療薬です。
エンテカビルは高い抗ウイルス効果を持ち、これまで使用されてきたラミブジンよりも高い効果が確認されているうえ、エンテカビルに耐性を持つウイルスの出現頻度は低いというメリットがある治療薬です。
ただし、頭痛や倦怠感、上気道感染症、下痢などの副作用の他に、乳酸アシドーシスや肝障害といった重大な副作用も報告されています。
さらに妊婦は相対禁止、高齢者や15歳未満の子どもが服用する時には注意が必要です。
エンテカビルは1日1回の経口投与ですが、食事の影響を受けやすく、吸収率が低下するため、食事の2時間後かつ次の食事の2時間前の空腹時に服用するようにしましょう。
ベムリディ
ベムリディも核酸アナログ製剤の1つで、エンテカビルと同様にB型慢性肝炎の第一選択薬となっています。
ベムリディもB型肝炎ウイルスの増殖を抑制する効果があり、その効果はこれまで使用されてきた治療薬よりも高いのが特徴です。
さらに長期服用による耐性もなく、腎機能障害や骨障害などのリスクも低いというメリットがあります。
主な副作用には吐き気や下痢、便秘などの胃腸障害があり、重大な副作用として腎不全や乳酸アシドーシスなどを引き起こす可能性もあります。
妊婦が相対禁止されている他、リファンピシン投与中やセントジョーンズワートが含まれる食品を摂取している場合は、ベムリディの使用は禁止です。
ベムリディも1日1回の服用で、タイミングに関しては医師の指示通りにしてください。
注意点としては、量を変えたり、中止したりすると症状の悪化や薬剤が効きにくくなる恐れがあるため、勝手な自己判断をするのは避けましょう。
違和感がある時や不安がある時には、医師や薬剤師に相談してください。
インターフェロン
インターフェロンはサイトカインと呼ばれる物質の1つで、主にウイルスに対する感染防御に重要な働きをしています。
インターフェロンが体内の細胞膜にある受容体にくっつき、ウイルスの遺伝子を壊す物質やウイルスのタンパク質合成を阻害する物質が作られ、ウイルスの増殖を防ぎます。
B型慢性肝炎の治療ではこのインターフェロンを皮下注射して、B型肝炎ウイルスを駆除していきます。
一方で、インターフェロンの治療には副作用が強いというデメリットがあります。
発熱や悪寒、関節痛などのインフルエンザ様症状、頭痛や不眠、抑うつなどの精神神経症状の他、消化器症状、皮膚症状など様々な副作用が起こる恐れがあり、インターフェロンの投与の期間である24~48週は副作用と付き合う必要があります。
インターフェロンのかかる費用は3割の保険適用で1本あたり約2,500~12,000円で、週3回の注射の必要があるため、月額に換算すると約3~15万円となります。
ただし、B型肝炎にかかる費用は医療費助成制度の対象となっており、世帯の所得額によって1~2万円に軽減されます。
インターフェロンに限らず、B型肝炎の治療であれば適用されるので、制度を上手に利用していきましょう。
B型慢性肝炎治療の第一選択薬はエンテカビルとベムリディ
肝臓の細胞が破壊される肝炎の原因にはアルコールや薬剤などもありますが、最も多いのがウイルスによる肝炎です。
肝炎ウイルスにはA型・B型・C型・D型・E型の5種類がありますが、中でも慢性化しやすいB型とC型には注意が必要です。
B型肝炎にはB型急性肝炎とB型慢性肝炎があり、B型急性肝炎は大人が初めてB型肝炎ウイルスに感染した時に発症する病気です。
軽症であれば治療せずとも完治するケースがほとんどですが、悪化したり劇症肝炎を発症したりすると死に至る可能性もあります。
このB型急性肝炎の患者さんのうち5~10%はB型慢性肝炎を発症し、B型慢性肝炎が進行すると肝硬変や肝臓がんを引き起こすため、ウイルスを排除したり、炎症を抑制したりする治療をしていきます。
B型慢性肝炎の治療には核酸アナログであるエンテカビル、ベムリディに加えて、インターフェロンなどが使用されます。
B型慢性肝炎の治療にかかる費用は医療費助成制度の対象なので、治療の際には負担を軽減するためにも制度を利用していきましょう。