RAA系が働くメカニズムを徹底解説|アンジオテンシン変換酵素阻害薬について紹介

「RAA系ってどのようなシステム?」
「アンジオテンシン変換酵素阻害薬が使われている疾患は?」
このような疑問を持っている人は少なくないのではないでしょうか。
本記事では、血圧を維持するためのシステムであるRAA系について徹底解説。
アンジオテンシン変換酵素阻害薬が適応となる疾患や、副作用と付随する利点についても紹介します。
本記事を読めば、RAA系やアンジオテンシン変換酵素阻害薬について理解を深められます。
興味がある人はぜひ最後までご覧ください。
血圧とは?
血圧を一言で表すと、血液が血管内壁に対して与えている圧力のことです。
血管は、心臓から出ていく動脈と心臓に戻ってくる静脈に分けられますが、血圧と言えば一般的に動脈での圧力を指しています。
血圧を計算するための式は以下の通りです。
血圧=心拍出量(心臓から全身へ送られる血液の総量)×末梢血管抵抗(末梢血管での血液の流れにくさ)
心拍出量は、心臓の収縮力や体内の血液量から決定されます。
末梢血管抵抗は、末梢血管の内腔径や内壁の硬さにより左右される指標であり、内腔径が小さく内壁が硬いほど大きくなります。
血圧を維持するRAA系
RAA系とは、血圧を維持するために必要不可欠なシステムです。
アンジオテンシン変換酵素阻害薬が作用するメカニズムを理解するためにも、RAA系の知識は欠かせません。
まず、主な登場物質をご覧ください。
- レニン
- アンジオテンシノゲン
- アンジオテンシンⅠ
- アンジオテンシン変換酵素
- アンジオテンシンⅡ
- アルドステロン
RAA系のスタートは、何らかの理由による血圧低下や循環血漿量(血漿=血液から赤血球・白血球・血小板などを除いた液体成分)の減少です。
これらの変化を感知した腎臓は、「傍糸球体細胞」でレニンを合成し、分泌します。
分泌されたレニンが働きかけるのは、肝臓で合成されたアンジオテンシノゲンです。
その結果、アンジオテンシノゲンがアンジオテンシンⅠに変化します。
続いて登場する物質が、主に肺血管の内皮細胞(血管の内腔を構成する細胞)で合成される、アンジオテンシン変換酵素(ACE)です。
アンジオテンシン変換酵素はアンジオテンシンⅠに働きかけ、アンジオテンシンⅡに変換させます。
アンジオテンシンⅡには様々な作用があり(詳細は後述)、そのうちの一つがアルドステロン分泌の促進です。
アルドステロンは副腎という臓器から分泌され、腎臓で働いて(詳細は後述)循環血漿量・血圧を上昇させます。
ここまでの一連の流れがRAA系です。
なお、アンジオテンシンⅡが作用するまでの部分はRA系とも呼ばれています。
アンジオテンシンⅡの作用
アンジオテンシンⅡは、アルドステロンを分泌している副腎以外にも、以下の臓器に対して作用しています。
- 全身の血管
- 脳
- 腎臓
それぞれの臓器で、どのように血圧を上昇させているのか見ていきましょう。
①全身の血管
アンジオテンシンⅡには、全身の血管を収縮させる作用があります。
その結果、末梢血管の内腔径が小さくなり、末梢血管抵抗が大きくなります。
そのため、血圧の上昇に繋がるのです。
②脳
アンジオテンシンⅡは、脳内の「視床下部」という場所にも作用します。
ターゲットは視床下部で合成されるホルモンの「バソプレシン」であり、アンジオテンシンⅡの作用により合成・分泌が促進されます。
バソプレシンは「抗利尿ホルモン」とも呼ばれており、その作用は体内の水分量の増加です。
その結果、循環血漿量が増えて心拍出量も高くなるため、血圧が上昇します。
③腎臓
腎臓には、尿を生成するための経路である「尿細管」があります。
尿細管は以下のように、いくつかのエリアに区分されています。
近位尿細管→ヘンレループ→遠位尿細管→集合管
尿は尿細管を通過していくなかで、構成要素が様々な調節を受けています。
具体的には、水や電解質(ミネラル)、排泄の必要がない栄養素などが体内に再吸収されています。
ここで、アンジオテンシンⅡが作用しているのが近位尿細管です。
近位尿細管に存在する「ナトリウムイオン/水素イオン交換輸送体」という装置を活性化し、電解質である「ナトリウムイオン」と水の再吸収を促進しています。
その結果、体内の水分量が増加し、循環血漿量・血圧の上昇に繋がるのです。
アルドステロンの作用
アルドステロンは、コレステロールを原料とするステロイドホルモンの一種です。
アンジオテンシンⅡからの刺激に加えて、電解質である「カリウムイオン」の血液中の濃度上昇でも、アルドステロンの分泌が促進されます。
アルドステロンが働くのは、尿細管の最終段階である集合管です。
集合管において、「上皮型ナトリウムイオンチャネル」を増加させ、ナトリウムイオンと水の再吸収を促進します。
その結果、体内の水分量が増加し、循環血漿量・血圧の上昇に繋がるのです。
アンジオテンシン変換酵素阻害薬の作用
アンジオテンシノゲン変換酵素阻害薬は、その名の通りアンジオテンシン変換酵素の作用を阻害する薬剤です。
その結果、アンジオテンシンⅡの生成と、それに続くアルドステロンの分泌も抑制され、血圧上昇が抑えられます。
また、アンジオテンシンⅡには以下のような作用もあると考えられています。
- 心臓を肥大させる
- 腎臓を線維化する
アンジオテンシンⅡ阻害薬の投与によりこれらの作用も抑制されるため、心臓や腎臓を保護する働き(心保護作用/腎保護作用)が期待できます。
アンジオテンシン変換酵素阻害薬が適応となる疾患
アンジオテンシン変換酵素阻害薬が適応となる、代表的な疾患は以下の通りです。
- 高血圧(血圧上昇抑制による)
- 慢性心不全(心保護作用による)
- 糖尿病性腎症(腎保護作用による)
それぞれの疾患について見ていきましょう。
①高血圧
まずは、高血圧の定義を確認しましょう。
分類 | 診察室血圧(mmHg) | 家庭血圧(mmHg) | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
収縮期血圧 | 条件 | 拡張期血圧 | 収縮期血圧 | 条件 | 拡張期血圧 | |
正常血圧 | <120 | かつ | <80 | <115 | かつ | <75 |
正常高値血圧 | 120-129 | かつ | <80 | 115-124 | かつ | <75 |
高値血圧 | 130-139 | かつ/または | 80-89 | 125-134 | かつ/または | 75-84 |
Ⅰ度高血圧 | 140-159 | かつ/または | 90-99 | 135-144 | かつ/または | 85-89 |
Ⅱ度高血圧 | 160-179 | かつ/または | 100-109 | 145-159 | かつ/または | 90-99 |
Ⅲ度高血圧 | ≧180 | かつ/または | ≧110 | ≧160 | かつ/または | ≧100 |
収縮期高血圧 | ≧140 | かつ | <90 | ≧135 | かつ | <85 |
(診察室血圧:病院で測定する血圧、家庭血圧:自宅などリラックス環境で測定する血圧)
高血圧は、様々な疾患の発症リスクを高めてしまいます。
致命的となり得る、代表的な疾患は以下の通りです。
疾患 | 病態 | 症状 |
---|---|---|
脳出血 | 脳内の血管から出血する | 感覚障害や麻痺などの運動障害が生じる 出血する血管によっては重度の意識障害も |
脳梗塞 | 脳内に酸素などを供給する血管が詰まる | 感覚障害や麻痺などの運動障害、呂律が回らない構音障害などが生じる |
心筋梗塞 | 心臓に酸素などを供給する血管が詰まる | 前胸部を締め付けるような強い痛みがあり、命にかかわる危険性が高い |
大動脈解離 | 大きな血管が脆くなり内側の膜に亀裂が生じる | 突然の胸背部の激痛があり、命にかかわる危険性が高い |
②慢性心不全
心不全とは、心臓に生じた何らかの異常によって心臓のポンプ機能(血液を全身に循環させる機能)が破綻し、各臓器に十分な血液量を供給できない疾患です。
発症や進展の経過から、急性心不全と慢性心不全に分類されます。
慢性心不全の主な症状は、易疲労感や動悸、労作時(運動時)の息切れなどです。
病態が進行すると、安静時にも呼吸困難がみられるようになります。
③糖尿病性腎症
糖尿病とは、血液中のブドウ糖(ヒトが活動するエネルギー源となる糖)の濃度が慢性的に高くなる疾患であり、主に血管障害を引き起こします。
その結果、腎機能に悪影響が及んだ疾患が糖尿病性腎症です。
糖尿病性腎症は、尿検査や血液検査の結果から、以下の5つのステージに分類されます。
ステージ | 治療 |
---|---|
第1期(腎症前期) | 血糖管理、降圧治療 |
第2期(早期腎症期) | 血糖管理、降圧治療 |
第3期(顕性腎症期) | 血糖管理、降圧治療、食塩摂取制限、低タンパク食 |
第4期(腎不全期) | 血糖管理、降圧治療、食塩摂取制限、低タンパク食 |
第5期(透析療法期) | 透析療法、血糖管理、降圧治療、食塩摂取制限 |
透析療法は様々な腎疾患で導入されていますが、導入理由としては糖尿病性腎症が最も多いです。
(2022年時点で38.7%)
アンジオテンシン変換酵素阻害薬の副作用と付随する利点
アンジオテンシン変換酵素阻害薬の副作用として、代表的な症状が乾性咳嗽(痰が絡まない乾いた咳)です。
詳細なメカニズムは省きますが、投薬により「サブスタンスP」という物質の分解が抑制されるために起こります。
この副作用を逆手に取って、予防に活用されている疾患が誤嚥性肺炎です。
誤嚥性肺炎とは、食物や唾液などが気道・肺に入り込み引き起こされる肺炎であり、嚥下機能が低下している高齢者に多くみられます。
高齢者では、サブスタンスPの合成量が減少することで、誤嚥が発生しやすくなっています。
そこで、アンジオテンシン変換酵素阻害薬の作用によりサブスタンスPの量を増やし、誤嚥性肺炎の予防につなげているのです。
まとめ:アンジオテンシン変換酵素阻害薬で高血圧などを治療しよう
RAA系とは、血圧を維持するために必要不可欠なシステムです。
様々な物質が関与しており、主にアンジオテンシンⅡとアルドステロンの作用によって、循環血漿量・血圧を上昇させています。
アンジオテンシン変換酵素阻害薬は、RAA系を抑制することで血圧を下げる働きを持つ薬剤です。
高血圧の他、慢性心不全や糖尿病性腎症に対しても用いられています。
また、副作用である乾性咳嗽を逆手に取り、誤嚥性肺炎に対する予防効果も期待できます。