「亜鉛欠乏症ってどんな病気?」
「亜鉛が多く含まれている食品は?」
このような疑問を持っている人は少なくないのではないでしょうか。
本記事では、亜鉛の主な働きや体内動態、欠乏症について徹底解説。
亜鉛欠乏症の原因や、亜鉛を多く含む食品も紹介します。
本記事を読めば、亜鉛欠乏症について理解を深められます。
興味がある人はぜひ最後までご覧ください。
必須微量元素とは?
生体内には、約60種類もの元素が存在すると言われています。
このうち、糖質・脂質・蛋白質・水を構成している元素が、C(炭素)・H(水素)・O(酸素)・N(窒素)です。
また、これら以外の元素を「ミネラル(無機質)」と呼びます。
数あるミネラルのうち、ヒトが生きるために必要と考えられている元素(必須元素)は16種類です。
必須元素のうち、1日に必要な摂取量が10㎎以下のものを、「必須微量元素」と呼んでいます。
主に該当する元素は以下の通りです。
- Fe(鉄)
- Zn(亜鉛)
- Cu(銅)
- Mn(マンガン)
- I(ヨウ素)
- Se(セレン)
- Cr(クロム)
- Mo(モリブデン)
なお、1日に必要な摂取量が数百mg以上の元素を、微量元素に対して「多量元素」と呼びます。
多量元素に該当するのは、Na(ナトリウム)・K(カリウム)・Ca(カルシウム)・Mg(マグネシウム)・P(リン)です。
必須微量元素は、体重量のわずか0.02%を占めるにすぎません。
しかし、生体内の様々な反応やホルモンの作用など、生命活動において必要不可欠な役割を担っているのです。
亜鉛の主な働き
ヒトの体内では様々な化学反応が起こっていますが、反応を進めるために必要な物質が「酵素」です。
そして、酵素が活性化して作用を発揮するために欠かせないのが、本記事で紹介していく亜鉛なのです。
具体的には、以下の酵素活性に関与しています。
- DNAポリメラーゼ
- RNAポリメラーゼ
- アルカリホスファターゼ
- アルコールデヒドロゲナーゼ
- スーパーオキシドジスムターゼ
- オルニチントランスカルバミラーゼ
これらの酵素への関与を介して、亜鉛は以下のように多彩な働きを持っています。
- 身長の伸び(小児)
- 皮膚代謝
- 生殖機能
- 骨格の発育
- 味覚の維持
- 精神/行動への影響
- 免疫機能
亜鉛という元素の重要性が伝わりましたでしょうか?
亜鉛の体内動態
亜鉛の体内動態について以下の観点から解説します。
- 吸収と運搬
- 体内での分布
- 排泄
それぞれについて見ていきましょう。
①吸収と運搬
亜鉛は食物を通じて身体に取り込まれます。
主に十二指腸と空腸(小腸の前半)で吸収されますが、その吸収率はおよそ20~40%です。
なお、亜鉛の吸収は同じく必須微量元素である銅と拮抗するため、銅を過剰摂取すると亜鉛の吸収が抑制されます。
吸収された亜鉛はまず血液中に入ります。
そして、血液中で「アルブミン」や「α2-マクログロブリン」という蛋白質と結合し、全身の臓器へと運搬されるのです。
②体内での分布
亜鉛は体内の様々な臓器に分布しています。
具体的な分布割合は以下の通りです。
臓器 | 分布割合 |
---|---|
筋肉 | 60% |
骨 | 20~30% |
皮膚・髪の毛 | 8% |
肝臓 | 4~6% |
消化管・膵臓 | 2.8% |
脾臓 | 1.6% |
その他、腎臓・脳・血液・前立腺・目などにも少しずつ存在しています。
また、血液中での亜鉛の分布は以下の通りです。
組織 | 分布割合 |
---|---|
赤血球(酸素を運ぶ) | 約80% |
血清(血液の液体部分) | 約20% |
血小板(出血を止める)・白血球(免疫に関わる) | 約3% |
③排泄
体内で余った亜鉛は膵液中に分泌された後、大半が便中に排泄されます(5~10mg/日)。
一方、尿中への排泄はほとんどありません(0.5mg/日)。
その他、汗からも少量が排泄されています(0.49mg/日)。
亜鉛欠乏症とは?
亜鉛欠乏症とは、亜鉛が不足することで様々な症状を呈する疾患です。
以下の観点から解説していきます。
- 頻度
- 症状
- 治療
それぞれについて見ていきましょう。
①頻度
亜鉛の一日あたりの推奨摂取量は、成人男性で11mg、成人女性で8mgです。
しかし、厚生労働省が実施している国民健康・栄養調査によると、男女ともに50~70%が推奨量を下回る摂取量であることがわかっています。
また、国内のいくつかの地域で実施された調査から、10~30%の日本人が亜鉛の欠乏状態にあると推定されます。
亜鉛の欠乏状態にある全員に症状が生じるわけではありませんが、発症リスクがある人は少なくないと言えるでしょう。
②症状
亜鉛欠乏症の急性期と慢性期では、それぞれの以下の症状がみられます。
時期 | 症状 |
---|---|
急性期 | 四肢末端・口周囲・陰部の皮膚炎、脱毛、体重増加不良、易感染性 |
慢性期 | 味覚障害、食欲不振、成長障害、下痢、性腺発育不全、創傷治癒遅延、免疫能低下、貧血、骨粗鬆症 |
乳幼児期では皮膚炎と脱毛が、小児期では成長障害が、成人では慢性症状が主となります。
③治療
亜鉛欠乏症に対する治療法は、不足している亜鉛の補充です。
具体的には、輸液補助製剤や経腸栄養剤、酢酸亜鉛の内服などが行われます。
適切に対処すれば、治療開始後数日で症状の改善がみられます。
亜鉛補充による副作用として、みられるケースがあるのが銅欠乏症です。
白血球の減少や貧血などが生じるため、治療の際には注意しなければなりません。
亜鉛が不足する原因
亜鉛が不足する原因は、以下の4要因に大別されます。
- 摂取不足
- 吸収障害
- 需要増大
- 排泄増加
それぞれについて見ていきましょう。
①摂取不足
亜鉛の摂取不足が起こる要因としては以下が挙げられます。
- 低亜鉛母乳栄養
- 低亜鉛食
- 低栄養
亜鉛を多く含む食品については後ほど紹介します。
②吸収障害
以下のような疾患により亜鉛の吸収が障害されます。
- 腸性肢端皮膚炎
- 慢性肝障害
- 炎症性腸疾患
- 短腸症候群
それぞれの疾患について簡単に紹介します。
腸性肢端皮膚炎とは、「ZIP4」という遺伝子の異常によって起こる遺伝性疾患です。
発症率は50万人に1人と報告されており、非常に稀な疾患と言えるでしょう。
慢性肝障害とは、何らかの原因により肝機能が慢性的に低下する病態です。
原因となる代表的な疾患として、ウイルス性肝炎や脂肪肝などが挙げられます。
炎症性腸疾患とは、免疫システムの異常により慢性的に腸の炎症が起こる疾患です。
クローン病や潰瘍性大腸炎が該当し、腹痛や下痢、血便などの症状がみられます。
短腸症候群とは、クローン病などに対する小腸の切除術により、消化吸収不良を起こす病態です。
下痢や栄養不良などが引き起こされます。
③需要増大
妊婦や授乳婦では、胎児や乳児に栄養を与える必要があるため、亜鉛に限らず栄養素の需要が増大します。
推奨摂取量も高くなっており、成人女性では8mg/日であるところ、妊婦・授乳婦ではそれぞれ2mg/日・4mg/日が追加されています。
④排泄増加
亜鉛の排泄増加が起こる要因としては以下が挙げられます。
- キレート作用のある薬剤の長期服用
- 糖尿病
- 腎疾患
キレート作用とは、金属を結合させる作用のことです。
具体的には、鉄過剰症に対して用いられるデフェロキサミンメシル酸塩・デフェラシロクスや、銅過剰症に対して用いられるペニシラミン・トリエンチン塩酸塩などが該当します。
亜鉛を多く含む食品
亜鉛不足とならないためには、亜鉛を多く含む食品を積極的に摂取するのがおすすめです。
代表的な食品と、それぞれの亜鉛含有量は以下の通りです。
食品 | 亜鉛含有量(mg/100g) |
---|---|
牡蠣 | 14.0 |
豚レバー | 6.9 |
牛肩ロース | 5.7 |
牛肩肉 | 5.7 |
牛もも肉 | 4.0 |
牛レバー | 3.8 |
鶏レバー | 3.3 |
牛ばら肉 | 3.0 |
ほたて貝(生) | 2.7 |
うなぎ | 1.4 |
精白米 | 0.6 |
木綿豆腐 | 0.6 |
たらこ | 3.1 |
カシューナッツ | 5.4 |
納豆 | 1.9 |
煮干し | 7.2 |
アーモンド | 4.4 |
卵黄(生) | 3.6 |
そば | 0.4 |
プロセスチーズ | 3.2 |
パルメザンチーズ | 7.3 |
ピュアココア | 7.0 |
亜鉛過剰症
亜鉛が不足すると亜鉛欠乏症が引き起こされますが、かといって亜鉛が過剰となるのも問題です。
亜鉛過剰の原因として、サプリメントによる摂取が挙げられます。
代表的な症状は以下の通りです。
- 消化器症状(胃の不快感・悪心・嘔吐・下痢)
- 貧血
亜鉛のサプリメントを摂取する場合は、過剰摂取に十分気を付けてください。
まとめ:亜鉛を摂取して亜鉛欠乏症を予防しよう
生体内では、様々な必須微量元素が活躍しています。
その中でも、酵素活性に関与することで多くの働きを有しているのが亜鉛です。
亜鉛が不足すると、皮膚炎や成長障害などをきたす亜鉛欠乏症を発症する可能性があります。
原因として考えられるのは、低亜鉛食による摂取不足や様々な疾患による吸収障害、薬剤や基礎疾患による排泄増加などです。
亜鉛不足とならないためには、亜鉛を多く含む食品を摂取するのが有効です。
積極的に亜鉛を取り入れて、亜鉛欠乏症を予防しましょう。