「B型慢性肝炎ってどんな病気?」
「B型慢性肝炎の治療薬はどうやって作用しているの?」
このような疑問を持っている人は少なくないのではないでしょうか。
本記事では、肝臓の主な働きやB型慢性肝炎について徹底解説。
B型慢性肝炎の治療薬である、Peg-IFNや核酸アナログ製剤が作用するメカニズムも紹介します。
本記事を読めば、B型慢性肝炎やその治療薬について理解を深められます。
興味がある人はぜひ最後までご覧ください。
肝臓の主な働き
肝臓は、横隔膜に接して右上腹部に存在する臓器であり、重さは全体重のうち約2.5%を占めています。
流入する血流量が多く、心臓から拍出される血液のうち、約25%が肝血流として流れ込んでいます。
肝臓の働きは多岐にわたりますが、主なものは以下の3つです。
- 代謝
- 解毒
- 胆汁生成
それぞれ簡単に見ていきましょう。
①代謝
肝臓は、体内における代謝の中心的な役割を担っており、様々な物質を貯蔵・合成・分解しています。
代表的な物質と、代謝の異常により引き起こされる症状は以下の通りです。
代謝物質 | 異常時の代表的な症状 |
---|---|
糖 | 糖尿病・低血糖 |
蛋白質 | 浮腫・出血しやすい |
脂質 | 脂肪肝(肝臓に脂肪が過剰蓄積した状態) |
ビタミンD | 骨軟化症(骨がもろくなる) |
ホルモン | 手掌紅斑(手のひらが赤くなる)、女性化乳房(男性の乳房が肥大) |
②解毒
肝臓は、人体にとって有害な物質の分解や排出を行っており、解毒器官としても活躍しています。
解毒される主な物質は以下の通りです。
- 毒素
- アンモニア
- 薬物
- アルコール
これらの中でも、アンモニアの代謝は特に重要です。
アンモニアには中枢神経系(脳など)を傷害する作用があり、蓄積すると肝性脳症という病態を引き起こします。
肝性脳症では、意識障害や異常行動などの様々な精神・神経症状がみられ、重篤なケースも少なくありません。
そこで、肝臓では「尿素回路(オルニチン回路)」というシステムにより、アンモニアを「尿素」という物質に変換しています。
尿素は人体に無毒であり、尿から排泄されます。
③胆汁生成
胆汁とは、肝臓で絶えず生成されている黄褐色の液体です。
主要な役割として以下の2つがあります。
- 小腸における脂肪の消化・吸収を促進する
- 肝臓内の老廃物を肝臓外に排出する
肝臓で生成された胆汁は、胆嚢という臓器に入り濃縮・貯蔵されます。
その後、「コレシストキニン」という消化管ホルモンの働きにより胆嚢が収縮し、胆汁が十二指腸に放出されます。
肝炎の原因
肝炎を一言で表すと、肝臓を構成する細胞(肝細胞)で炎症が起こる疾患です。
原因として、代表的なものは以下の通りです。
- 肝炎ウイルス(A型~E型の5種類)
- 肝炎ウイルス以外のウイルス(単純ヘルペスウイルス、EBウイルス、サイトメガロウイルスなど)
- 自己免疫疾患(自己免疫性肝炎など)
- アルコール摂取過多
- 薬物(抗菌薬、解熱鎮痛薬など)
以上のうち、日本において最も多い原因が肝炎ウイルスです。
肝炎の分類
肝炎は、その経過から急性肝炎と慢性肝炎に分類されます。
急性肝炎では、以下のような症状が生じます。
- 全身倦怠感
- 食欲不振
- 悪心/嘔吐
- 発熱
- 筋肉痛
- 黄疸
- 褐色尿
- 肝腫大
- 腹痛
なお、急性肝炎の原因により生じる症状は左右されます。
急性肝炎は一般的に自然治癒する傾向にありますが、1~2%の症例で劇症肝炎に進行します。
劇症肝炎とは、急性肝炎における症状が高度に持続し、意識障害も認められる病態です。
一方、慢性肝炎とは肝臓の炎症が6ヵ月以上持続している病態であり、急性肝炎が慢性化するケースもあります。
日本においては、原因の70%強がC型肝炎ウイルス、20%弱がB型肝炎ウイルスです。
本記事では、B型肝炎ウイルスによる慢性肝炎にフォーカスしていきます。
B型慢性肝炎とは?
B型慢性肝炎について、以下の観点から解説していきます。
- ウイルスの構造と増殖方法
- 感染経路
- 症状
- 経過
- 治療薬
それぞれ見ていきましょう。
①ウイルスの構造と増殖方法
B型肝炎ウイルスに限らず、ウイルスの構造を一言で表すと、「核酸(遺伝情報を伝達する物質)を入れたカプセル」です。
核酸には「DNA」と「RNA」の2種類がありますが、B型肝炎ウイルスはDNAを有しています。
そして、「カプシド」というタンパク質の殻がDNAを包んでいます。
先ほどと同様に、B型肝炎ウイルスに限った話ではありませんが、ウイルスは自分自身だけの力で増殖できません。
そのため、増殖するためにはヒトの細胞を利用する必要があり、B型肝炎ウイルスの場合は肝細胞を利用しています。
具体的には、肝細胞が正常に活動するためのシステムを利用し、カプシドを合成したりDNAを複製したりしています。
②感染経路
B型肝炎ウイルスの感染経路は、成人と乳幼児で異なります。
まず、成人が感染する主な原因は以下の通りです。
- 性行為
- 針刺し事故(主に医療従事者)
- 薬物中毒者による注射器の使い回し
- ピアスの穴あけ
- 輸血(近年は事前に検査をするためほとんどみられない)
B型肝炎ウイルスに感染した成人のうち、約20~30%が急性肝炎を発症します。
その後、数%が慢性肝炎へと移行します。
一方、乳幼児が感染する主な原因は出産による母子感染です。
感染した乳幼児のうち、90%以上が無症候性キャリア(感染しているものの症状が現れていない状態)として経過します。
その後、約10~15%が慢性肝炎に移行します。
移行時の年齢は10~30歳代であるケースが多いです。
③症状
B型慢性肝炎では、長期間にわたる全身倦怠感や食欲不振などが認められます。
しかし、無症状のまま進行するケースも多く、半数近く存在すると考えられています。
そのため、健康診断などを受けた際に、肝機能の異常(ASTやALTの上昇)を指摘されて発見されることが少なくありません。
④経過
慢性肝炎は、肝細胞の炎症が長期間持続している状態です。
炎症により肝臓に損傷が発生すると、修復する過程でコラーゲンなどの過剰な蓄積が起こり、線維化が進行します。
その結果、慢性肝炎から肝硬変に移行したり、肝細胞癌を発症したりする可能性があります。
肝硬変とは、非可逆的に肝機能が低下した病態です。
進行すると以下のような症状がみられます。
- 黄疸(眼球結膜や皮膚が黄色に変化する)
- 腹水(腹腔内に体液が過剰に貯留し、腹部が膨満する)
- 浮腫
- 肝性脳症
さらに、肝硬変自体も肝細胞癌の発症リスクを高めます。
肝細胞癌まで進行すると、薬物療法のみでの根治は困難です。
手術により肝切除や肝移植を行ったり、癌細胞に流れ込む血流を止める「TACE」という治療法を行ったりします。
⑤治療薬
B型慢性肝炎の治療薬には以下の2種類があります。
薬剤 | Peg-IFN | 核酸アナログ製剤 (エンテカビル、テノホビルなど) |
---|---|---|
投与経路 | 注射 | 経口 |
治療期間 | 24~48週間 | 原則として長期間継続 |
副作用 | 高頻度(詳細は後述) | 稀にあり(頭痛や倦怠感など) |
妊娠中の投与 | 原則として不可 | 危険性は否定できないが可 |
非代償性肝硬変(進行が進んだ肝硬変)への投与 | 禁忌(してはいけない) | 可能だが経過観察が必要 |
治療中止後の効果持続 | 肝炎が既に沈静化していたら持続しやすい | 再燃しやすい |
Peg-IFNの副作用として、最も高頻度に現れるのがインフルエンザ様症状です。
発熱・頭痛・関節痛といった症状が、60~95%の患者さんでみられます。
その他、5~10%の患者さんでは抑うつなどの精神神経症状がみられ、出現時はすぐに医療機関を受診する必要があります。
B型慢性肝炎治療薬が作用するメカニズム
Peg-IFNと核酸アナログ製剤では、B型慢性肝炎に対して効果を発揮するメカニズムが異なります。
それぞれが作用するメカニズムについて見ていきましょう。
①Peg-IFN
Peg-IFNは、肝細胞の表面の存在する「受容体」という場所に結合します。
そして、タンパク質を生成するために必要な遺伝情報「mRNA」を、分解できる酵素を細胞内に送り込みます。
mRNAが酵素の働きにより分解されると、B型肝炎ウイルスはタンパク質を生成できなくなり、カプシドの合成ができません。
その結果、B型肝炎ウイルスの増殖が抑制されるのです。
②核酸アナログ製剤
核酸アナログ製剤とは、B型肝炎ウイルスがDNAを複製する際に材料となる、「ヌクレオチド」に類似した構造を持つ物質です。
Peg-IFNとは異なり、直接的に肝細胞内へ侵入します。
侵入した核酸アナログ製剤は、B型肝炎ウイルスがDNAを複製する際に、ヌクレオチドと間違われて取り込まれます。
その結果、B型肝炎ウイルスのDNAが正常に複製されなくなり、増殖が抑制されるのです。
まとめ:Peg-IFN や核酸アナログ製剤でB型慢性肝炎を治療しよう
肝炎とは肝細胞に炎症が起こる疾患であり、経過から急性肝炎と慢性肝炎に分類されます。
原因は様々ですが、最も高頻度であるのが肝炎ウイルスです。
Peg-IFNや核酸アナログ製剤は、B型慢性肝炎に対する治療薬です。
B型慢性肝炎が進行すると、肝硬変や肝細胞癌の原因となります。
使い方に気を付けつつ、Peg-IFN や核酸アナログ製剤でB型慢性肝炎を治療しましょう。