「炎症ってどんなメカニズムで発生するの?」
「抗TNF-α抗体薬が適応となる疾患は?」
このような疑問を持っている人は少なくないのではないでしょうか。
本記事では、炎症が生じるメカニズムや抗TNF-α抗体薬が作用するメカニズムを徹底解説。
抗TNF-α抗体薬が適応となる疾患も詳しく紹介します。
本記事を読めば、炎症や抗TNF-α抗体薬について理解を深められます。
興味がある人はぜひ最後までご覧ください。
TNF-αは炎症に関わる物質
私たちの身体は感染症や外傷などに直面すると、組織が障害されてしまいます。
この時、病原体などの有害因子を取り除いて、組織を修復するために起こる過程が炎症です。
本記事で取り上げていくTNF-αは炎症に大きく関わっている物質であり、「炎症性サイトカイン」と呼ばれています。
TNF-αは生体内で重要な役割を担っていますが、自分自身の組織に対して作用することで、いくつかの疾患を引き起こします。
抗TNF-α抗体薬は、そのようなTNF-αの過剰な働きを抑制するための薬剤です。
炎症が生じるメカニズム
TNF-αの作用を理解するためにも、まずは炎症が生じるメカニズムを見ていきましょう。
①メディエーターの放出
炎症反応のスタートは、感染症や外傷による組織の障害です。
組織が障害を受けると、免疫に関わる細胞の「マクロファージ」や「マスト細胞」が、以下のようなメディエーター(炎症を調節する物質)を放出します。
免疫細胞 | メディエーター |
---|---|
マクロファージ | 炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-1、IL-6)など |
マスト細胞 | ヒスタミン、プロスタグランジン、ロイコトリエン、血小板活性化因子など |
②炎症の拡大
マクロファージやマスト細胞から放出されたメディエーターの作用により、局所的に以下のような変化が起こります。
変化 | 目的 |
---|---|
血管の拡張 | 血流を増加させ、組織の代謝を亢進させて修復を促す |
血管透過性(血管と周囲組織との間で物質が移動する性質)の亢進 | 免疫や修復に関与する物質が、障害された組織に移動しやすくする |
これらの局所的な変化により、以下のような自覚症状がみられます。
- 発赤
- 熱感
- 腫脹
- 疼痛
以上は合わせて「炎症の4徴候」と呼ばれています。
また、マクロファージから放出された炎症性サイトカインは、局所的な作用だけでなく全身的な作用も持ちます。
代表例は以下の通りです。
- 免疫細胞「好中球」の増加
- 発熱
発熱についてはその目的が研究途中であるものの、免疫細胞の能力を高めているのではないかと考えられています。
③組織の再生・修復
炎症の拡大により組織障害の因子が排除されると、組織の再生・修復の段階へと進みます。
ここで活躍するのが、以下のような「抗炎症性サイトカイン」と呼ばれる物質です。
サイトカイン | 作用 |
---|---|
IL-10 | 免疫細胞の機能抑制 |
TGF-β | 免疫細胞の機能抑制、組織を修復する細胞「線維芽細胞」の増殖 |
抗TNF-α抗体薬が作用するメカニズム
TNF-αは、細胞表面に存在する「TNF-α受容体」(以下受容体)という場所に結合することで、炎症性サイトカインとしての作用を発揮します。
そのため、抗TNF-α抗体薬は以下のようなメカニズムで働いています。
- TNF-αを捕まえて受容体との結合を阻害する
- 受容体に既に結合しているTNF-αを引き剥がす
- TNF-αを産生する細胞を阻害する
これらのメカニズムにより、抗TNF-α抗体薬の炎症抑制作用が発揮されているのです。
抗TNF-α抗体薬が適応となる疾患:1.炎症性腸疾患
炎症性腸疾患とは、複数の原因により腸粘膜に免疫の異常が生じ、様々な消化器症状を呈する疾患です。
具体的には、クローン病と潰瘍性大腸炎が該当します。
それぞれについて見ていきましょう。
①クローン病
クローン病の好発年齢は10代後半~20代であり、消化管全域に炎症が生じます。
主な症状は以下の通りです。
- 下痢
- 腹痛
- 発熱
- 体重減少
その他、合併症として肛門病変(痔瘻)が生じる可能性があります。
クローン病に対する主な治療法は、抗TNF-α抗体薬をはじめとする薬物療法と、腸管の安静を目的とした栄養療法です。
②潰瘍性大腸炎
潰瘍性大腸炎の好発年齢は10代後半~30代前半であり、大腸全域に炎症が生じます。
主な症状は以下の通りです。
- 粘血便
- 下痢
- 腹痛
- 発熱
その他、合併症として大腸癌が生じる可能性があります。
潰瘍性大腸炎に対する主な治療法は、抗TNF-α抗体薬をはじめとする薬物療法です。
重症例や大腸癌がみられる例では、手術(大腸全摘)が検討されます。
抗TNF-α抗体薬が適応となる疾患:2.膠原病
膠原病とは、本来私たちの身を守るための免疫システムが暴走し、私たち自身の細胞や組織を攻撃することで生じる疾患です。
いくつかの疾患が膠原病に該当しますが、抗TNF-α抗体薬は以下に対して用いられます。
- 関節リウマチ
- ベーチェット病
- 若年性特発性関節炎
それぞれについて見ていきましょう。
①関節リウマチ
関節リウマチは40~50歳代の女性によくみられる疾患です。
主な症状は多発する関節炎であり、以下の場所で痛みやこわばり、変形などが生じます。
- 手指
- 手
- 足指
- 肘
- 膝
その他、以下のような全身症状がみられるケースもあります。
臓器 | 症状 |
---|---|
肺 | 間質性肺炎/肺線維症(乾いた咳や呼吸困難) |
腎臓 | 腎アミロイドーシス(腎機能低下) |
眼 | 強膜炎(疼痛、視力低下) |
心臓 | 心アミロイドーシス(不整脈、心不全) |
②ベーチェット病
ベーチェット病は30~40歳代によくみられる疾患であり、男女差はほとんどありません。
主な症状は以下の4症状です。
臓器 | 症状 |
---|---|
眼 | ぶどう膜炎(充血、疼痛、視力低下、羞明(眩しい)など) |
口腔粘膜 | アフタ性潰瘍(いわゆる口内炎) |
外陰部 | 疼痛を伴う潰瘍(口内炎と類似する症状) |
皮膚 | 結節性紅斑(疼痛を伴う硬い紅斑) |
③若年性特発性関節炎
若年性特発性関節炎とは、16歳未満に発症する原因不明の慢性的な関節炎です。
現れる症状などから、以下の3タイプに分類されます。
タイプ | 全身型 | 多関節型 | 少関節型 |
---|---|---|---|
割合 | 約40% | 約30% | 約20% |
男女比 | ほぼ1:1 | 女児に多い | 女児に多い |
好発年齢 | 1~5歳 | 1~3歳 | 1~2歳 |
関節症状 | 初期には目立たない | 5箇所以上 疼痛や朝のこわばり | 1~4箇所(膝・足など) 一部は多関節型に移行 |
関節外症状 | 数週間続く間欠熱・弛張熱(日内変動が1℃以上)、全身リンパ節腫脹、咽頭痛、肝腫大、脾腫大など | 持続する微熱、リンパ節腫脹、食欲不振、体重減少など | ぶどう膜炎など |
抗TNF-α抗体薬が適応となる疾患:3.皮膚疾患
抗TNF-α抗体薬は、以下のような皮膚疾患に対しても効果を発揮します。
- 乾癬
- 化膿性汗腺炎
それぞれについて見ていきましょう。
①乾癬
私たちの皮膚は、表皮・真皮・皮下組織の3層から成り立っています。
このうち、表皮は4層から成り立っており、以下の順に角化細胞(表皮を構成する細胞)が成熟しながら移動していきます。
(真皮側)基底層→有棘層→顆粒層→角層(表面側)
この一連の流れを「角化」と言い、角化して垢として脱落するまでに要する時間を「ターンオーバー時間」と言います。
乾癬とは、角化細胞の増殖能が亢進し、ターンオーバー時間が短縮する疾患です。
その結果、皮膚の正常な角化が障害され、銀白色の厚い鱗屑(カサカサした状態)を伴う紅斑が多発します。
紅斑は全身に発症する可能性がありますが、特に生じやすい箇所は以下の通りです。
- 頭部
- 肘
- 膝
- 臀部
また、発疹をこすると容易に?がれ、さらにこすると出血しやすい点も特徴的です。
②化膿性汗腺炎
化膿性汗腺炎とは、脇の下や鼠径部を中心として皮膚の炎症が発生する疾患です。
思春期以降に好発し、詳細な原因は判明していません。
化膿性汗腺炎では、ニキビのような隆起が生じて痛みを伴います。
膿が溜まった状態になると、悪臭を生じる可能性もあります。
抗TNF-α抗体薬が適応となる疾患:4.川崎病(急性期)
川崎病は、日本の小児科医により1967年に初めて報告された疾患です。
乳幼児にみられる原因不明の疾患であり、以下のように多彩な症状が生じます。
- 発熱
- 体幹を中心とした発疹
- 両側眼球の充血
- イチゴ舌(舌がイチゴの表面のように変化する)
- リンパ節の腫れ
川崎病の合併症として特徴的なものが、心臓に酸素を供給している冠動脈に発生する動脈瘤です。
放置した場合、様々な心疾患を引き起こす恐れがあります。
抗TNF-α抗体薬の種類
抗TNF-α抗体薬の主な種類と、それぞれが適応となる疾患は以下の通りです。
抗TNF-α抗体薬 | 適応となる疾患 |
---|---|
インフリキシマブ | 関節リウマチ、ベーチェット病、乾癬、クローン病、潰瘍性大腸炎、川崎病(急性期) |
エタネルセプト | 関節リウマチ、若年性特発性関節炎 |
アダリムマブ | 関節リウマチ、ベーチェット病、乾癬、クローン病、潰瘍性大腸炎、若年性特発性関節炎、化膿性汗腺炎 |
ゴリムマブ | 関節リウマチ、潰瘍性大腸炎 |
セルトリズマブ ペゴル | 関節リウマチ、乾癬 |
オゾラリズマブ | 関節リウマチ |
まとめ:抗TNF-α抗体薬で様々な疾患を治療しよう
TNF-αは炎症性サイトカインの一種であり、生体内で重要な役割を担っています。
しかし、自分自身の組織に作用するといくつかの疾患を引き起こしてしまいます。
TNF-αにより引き起こされる疾患は、炎症性腸疾患や膠原病などです。
抗TNF-α抗体薬で様々な疾患を治療しましょう。