テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの最新研究では、健康な女性の乳房組織にも乳がんに特徴的な染色体異常を持つ細胞が存在することが明らかになりました。
この発見は、がんの遺伝的起源に関する従来の考え方に新たな視点をもたらすと言えるでしょう。
また、乳がんの早期検出方法や診断のあり方に大きな影響を与えるかもしれません。
健康な乳房組織に見られる染色体異常
健康なのに、乳がん細胞と似た細胞があると知ると、不安になるかもしれません。
しかし、大切なのは正しい知識を身に着けることです。
無知から来る不安や焦りをなくし、間違った情報を信じてしまわないようにするためにも、今回の研究内容をしっかり理解していきましょう。
染色体異常の発見
今回の研究では、健康な女性49名の乳房組織を調査し、そのうちの約3%の細胞に染色体の増減、いわゆる異数性が見られることが判明しました。
この異数性は加齢とともに増加する傾向があり、高齢の女性ほど異常細胞が多く蓄積されていることがわかりました。
これらの異常は浸潤性乳がんに典型的に見られるものであり、健康な乳房組織で見つかるのはとても興味深い発見です。
研究者であるナビン博士は、「正常な細胞には23対の染色体があると長らく信じられてきましたが、この研究はその前提に疑問を投げかけます」と語っています。
正常な組織における細胞の遺伝的な情報も含め、細胞を再評価しなければならないでしょう。
さらに、乳房組織内で見られる異数性細胞は、その分布や割合が人によって異なることも明らかになっています。
この発見により、乳房の健康状態がそれぞれの遺伝的背景や環境要因にどのように影響されるかについて、より詳しくわかるかもしれません。
年齢との関係
異数性細胞の頻度は女性の年齢と強く相関しており、特に高齢者でその傾向が顕著でした。
染色体10q、16q、22がなくなっていることなどが一般的な変化として報告されています。
これは、浸潤性乳がんにしばしば見られる変化です。
この変化について調査を進めれば、がんの発症が加齢によってどのように影響を受けるのか、より詳しいことがわかるのではないでしょうか。
また、年齢以外の要因、例えば生活習慣やホルモンの変化がこれらの異数性細胞の増加にどのように関係しているかについても、さらなる研究が必要です。
閉経後のホルモン変化が乳房組織に与える影響を探れれば、がんリスクを予測する手がかりとなるかもしれません。
乳房上皮細胞の特徴
研究では、特に乳房上皮細胞に焦点が当てられました。
上皮細胞は体内外の表面を覆う細胞であり、がんの発生源とされることが多いです。
今回の分析では、これらの細胞の約3.19%が異数性を示し、その多くが浸潤性乳がんに共通する遺伝的特徴を持つことが確認されました。
この結果は、乳房上皮細胞の遺伝的安定性ががんのリスクと密接に関連していることを示唆しており、がん予防の新たな方法の手がかりとなるかもしれません。
細胞レベルでの遺伝子マッピング
今回の研究は、ナビン博士が以前に作成した「ヒト乳房細胞アトラス」に基づいて行われました。
アトラスには「地図帳」という意味があります。
このアトラスは、714,000個以上の細胞を解析し、乳房組織の正常細胞の遺伝子マップになっています。
このデータを活用することで、正常な乳房組織における染色体異常のパターンがより詳しく明らかになりました。
このアトラスを用いた研究により、正常細胞内での小さな遺伝的変化を高い精度で特定できるようになりました。
そしてこのデータは、乳がんの発症メカニズムを解明するための重要な基盤となります。
ER陽性と陰性の細胞系統
研究では、エストロゲン受容体(ER)の有無によって異なる遺伝子特性を持つ細胞系統が特定されました。
一方の系統はER陽性乳がんに類似した遺伝的特徴を示し、もう一方はER陰性乳がんと一致する特徴を持っていました。
これらの異なる細胞系統の発生に影響を与える因子、例えばホルモン環境や遺伝的背景についての研究が進めば、より患者さんに合った乳がん治療が見つかる可能性があります。
他の臓器への応用可能性
上皮細胞は乳房以外の臓器にも広く分布しているため、今回の研究結果が他の臓器にも当てはまる可能性があります。
例えば、肺や消化管などの組織にも類似した異数性細胞があるかもしれません。
このような視点から、将来的にはがん研究全般に対する影響が期待されています。
また、これらの異数性細胞が他の臓器でどのように振る舞うのかを調査することで、がんの全体像をより深く理解する手がかりになるでしょう。
長期的な研究の必要性
異数性細胞ががん化するリスクを評価するためには、さらに長期にわたる研究が必要です。
がんの予防や治療戦略を改善するためには、これらの細胞がどのようにしてがんに進行するのかを理解する必要があるでしょう。
例えば、異数性細胞が特定の条件下でがん細胞へと進化するプロセスを明らかにすることで、がんの初期段階での介入ができるようになるかもしれません。
また、この知見は新しい治療薬の開発にも繋がる可能性があります。
乳がん検診での偽陽性のリスクは?
今回の研究結果は、乳がんの早期検出における課題を浮き彫りにしました。
乳がん診断では、正常な乳房組織細胞が浸潤性乳がん細胞と誤って分類される可能性があります。
このような偽陽性は、不必要な治療や患者さんの心理的負担を招く可能性があるため、慎重に判断しなければいけません。
研究者たちは、分子診断法の精度を高めるための取り組みを続けています。
具体的には、乳管内癌(DCIS)や生検を活用した新しい検出法の開発に注力しており、この分野でのさらなる進展が期待されています。
マンモグラフィ検査と偽陽性
マンモグラフィ検査は、乳がん検診の中心的な手段として世界的に広く用いられています。
しかし、その精度には限界があり、時には誤った結果が生じることがあります。
今回わかった研究でも、実際にはがんではないのに、がんと診断されてしまうリスクがありそうです。
では、マンモグラフィ検査で偽陽性となった場合、その後の乳がん発生リスクは本当に高くないのでしょうか。
もう少し詳しく見ていきましょう。
偽陽性とは何か
マンモグラフィ検査で「偽陽性」というのは、検査で「異常あり」と診断されたものの、詳しい精査を行った結果、乳がんではないことが判明したケースを指します。
偽陽性は、患者さんに大きな心理的負担を与えるだけでなく、医療システム全体にも影響を及ぼします。
偽陽性がもたらす影響
偽陽性の結果が出ると、患者さんは必要のない検査や治療を受ける可能性があり、これがさらなる不安やストレスを引き起こします。
また、こうした経験が次回以降の検診参加率に悪影響を及ぼすことも懸念されています。
乳がん検診は、乳がんによる死亡率を減少させられる大切な機会ですが、偽陽性は検診に懐疑的になる人を増やしてしまうことにもなるでしょう。
偽陽性と乳がんリスクの関係
スウェーデン・ストックホルムで行われた大規模な研究では、偽陽性結果が乳がんのリスクにどのように影響するかを長期的に分析しました。
この研究には、1991年から2017年にかけてマンモグラフィ検診を受けた40歳から74歳の女性59万3886人のデータが含まれています。
研究の概要は以下の通りです。
- 対象期間:1991年から2017年
- 対象者数:59万3886人
- スクリーニング回数:延べ263万5668件
- 偽陽性経験者数:4万5213人
この研究は、偽陽性となった女性が、その後乳がんを発症するリスクがどのくらい高まるのかを調査したものです。
結果は、偽陽性になった女性の乳がん発症リスクは、偽陽性にならなかった女性と比較して約1.6倍高いことが判明しました。
この差は、年齢や乳腺密度といった個人の特性によってさらに影響を受けることが示されています。
若年層と高齢者層の偽陽性率の違い
若年層(40-49歳)の女性は乳腺密度が高いため、マンモグラフィの読影が難しく、偽陽性結果が出やすい傾向があります。
一方、高齢者層(60-75歳)の女性は乳腺密度が低いため、偽陽性結果が出た場合でも何らかの組織的変化が進行している場合があると言います。
たとえ結果が陰性であっても、偽陽性が出るからには何らかのリスクが潜んでいる可能性があります。
検診には不安もありますが、自分のためになることです。
検診が推奨される年齢の40歳からは、定期的に乳がん検診をすることをおすすめします。
まとめ
乳がんも含め、がんは治る病気になってきました。
しかし、やはりがんであると宣告されれば、ショックを受ける人は多いです。
がんに関して新しいことが見つかれば、そこからより安全で負担の少ない治療法が確立されるかもしれません。
まだまだ人間の身体はわからないことだらけですが、こうして研究が日々行われていくことで、将来また誰かを救ってくれるのでしょう。
今後は、研究結果と元に具体的な検査方法の改定や、予防法に繋がることを期待しましょう。