出産は人生最大の転換点の一つであり、その体験は女性にとって一生忘れられない瞬間となります。
しかし、「出産の質」は一体何によって決まるのでしょうか。
今回は、今まであまり取り上げられなかった出産時の体位に焦点を当ててみます。
ボン大学病院の研究チームが驚くべき調査結果を発表し、医療現場に大きな波紋を投げかけています。
妊婦さんは出産時の体位を自分で選べない?
2024年11月、Archives of Gynecology and Obstetrics誌に掲載された研究は、出産時の体位が母親の満足度をどう変えるかについて、これまでにない深い調査を行いました。
約800人の母親を対象とした大規模な調査から、驚くべき事実が浮かび上がってきたのです。
調査結果で最も目を引いたのは、出産姿勢の「自己決定権」の重要性です。
驚くべきことに、母親の4分の3以上が横向きまたは仰向けで出産していたにもかかわらず、その40%が姿勢を自分で選べなかったことが判明しました。
この結果は、女性の出産の根幹に関わる問題を浮き彫りにしています。
医療スタッフの指示と女性の本音
研究の筆頭著者であるナディーン・ショルテン教授は興味深い指摘をしています。
母親たちが姿勢を自由に選べなかった最大の理由は、医療スタッフからの指示でした。
特に、産科医が最も推奨する体位は従来の仰向け姿勢。
しかし、皮肉なことに、その仰向け姿勢を自発的に選んだ女性は、出産に対してより高い満足度を示したのです。
CTGモニタリングや硬膜外麻酔など、医学的な必要性から特定の体位を強いられた女性は、強い不満を感じていることも明らかになりました。
これは、女性の自己決定権と尊厳に関わる課題を提起しているといえるでしょう。
文化的背景と出産体位の自由化
西洋諸国では長い間、仰向け姿勢が標準的とされてきました。
日本でも同じでしょう。
これには、産科医が女性と胎児に対して処置しやすいメリットがあります。
一方で、世界の様々な文化では、座位やしゃがみ込む姿勢など、より自然な体位での出産が一般的だと言います。
ブリジット・ストリゼック教授は、医学的な観点から、特定の体位が女性に有利な場合があることを認めつつ、重要なポイントを指摘しています。
女性たちが自分の出産体位を十分に理解し、納得できるようなコミュニケーションの重要性を強調したのです。
変革への第一歩
ショルテン教授は、この研究の最大の目的は、出産における女性の主観的満足度を高めることだと明言しています。
そのための第一歩は、医療スタッフの意識改革。
女性が自分の希望をより明確に伝え、理解してもらえる環境づくりが求められているのです。
アクティブバースとフリースタイル出産を知ろう!
女性の自由意志で出産時の体位を決められるならば、具体的にはどのような体位が良いとされているのでしょうか。
ここからは、「新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版」の情報をもとに、出産の体位に関するアクティブバースとフリースタイル出産について深く掘り下げてみましょう。
仰臥位の普及とその背景
仰臥位は現在最も一般的な分娩体位ですが、その歴史をたどると18世紀フランスの宮廷医、フランソワ・モリソーによる導入が起源とされています。
それ以前は、座位や立膝位といった重力を活用する体位が主流でした。
しかし、仰臥位は医療者にとって処置が行いやすいという利点から急速に広まりました。
この背景には、権威ある宮廷医による影響も大きかったとされています。
そして、この体位以外の方法で出産をするのが、アクティブバースやフリースタイル出産です。
アクティブバースとは?
アクティブバースとは、従来の受動的な出産スタイルではなく、女性自身が主体的に出産に臨む革新的なアプローチです。
医療介入を最小限に抑えながら女性の自然な力を最大限に引き出す方法として、世界中で注目を集めています。
従来の医療モデルでは、医療者中心の画一的な出産スタイルが主流でした。
しかし、アクティブバースは女性一人ひとりの身体の感覚と直感を大切にし、それぞれの出産を尊重する形の出産です。
フリースタイル出産とは?
フリースタイル出産は、アクティブバースの最も先進的な形態の一つと言えるでしょう。
産婦自身が「産む力」を最大限に発揮できるよう、自由に身体を動かし、自分にとって最も快適な出産方法を見つけ出すことを目指します。
従来の分娩室のイメージを根本から覆すこのアプローチは、女性の身体的、精神的な可能性を大きく広げています。
医療技術の進歩と女性の自己決定権の尊重が融合した、21世紀の出産モデルと言えるでしょう。
フリースタイル出産のメリット
フリースタイル出産の最大の特徴は、出産する妊婦さん自身が分娩中の体位や動きを自由に選べる点にあります。
以下で、その具体的なメリットを見ていきましょう。
妊婦さんの主体性を尊重できる
フリースタイル出産では、出産する人が自分の身体の状態や感覚に基づいて体位や動きを選択できます。
分娩が自分自身のコントロール下にあるという感覚を得られ、不安の軽減や自己肯定感の向上に繋がるのが最大のメリットです。
また、医療者に対する依存を避け、自身の体力や能力を信じることができるため、ポジティブな出産となるでしょう。
痛みの緩和と分娩の進行を助けられる
特定の体位を選択することで、陣痛の痛みを和らげたり、分娩の進行を助けることできます。
それぞれの体位のメリットとデメリットは後で詳しく書きますが、例えば、四つん這いの体位は骨盤の自由度を高め、胎児の回旋を促進します。
一方、立位や蹲踞位は重力を利用することで胎児の下降をスムーズにし、分娩時間が短縮できます。
母体への負担軽減
フリースタイル出産では、出産する人が自分にとって最も快適な体位を選べるため、身体への負担が最小限に抑えられます。
仰臥位のように大動脈を圧迫して血流を妨げるリスクを避けられるだけでなく、適切な姿勢を取ることで背中や骨盤へのストレスが軽減されます。
自然分娩の促進
フリースタイル出産は、身体の自然な動きを尊重するものなので、分娩過程全体をよりスムーズに進められます。
胎児の回旋や下降を自然に促すことができ、場合によっては薬剤や医療器具による介入が不要となることもあります。
フリースタイル出産のデメリット
一方で、フリースタイル出産にはいくつか課題もあります。
以下に具体的なデメリットを挙げます。
医療者の介助が難しい場合がある
出産する人が自由に体位を変えられることは利点である一方で、医療者にとっては分娩の進行状況を把握しにくい場合があります。
特に、胎児心音のモニタリングや緊急時の処置が難しくなる場合があります。
例えば、四つん這いや側臥位では赤ちゃんが出てくる様子が見えにくいため、迅速な対応が求められる場面で不便を感じることがあります。
分娩の進行が遅れる可能性
すべての体位が分娩に適しているわけではなく、不適切な体位を選択することで分娩の進行が遅れる場合があります。
例えば、膝胸位や側臥位では胎児の下降が十分に促されないことがあり、分娩が長引く原因となることがあります。
そのため、場合によっては母体の疲労やストレスが増加するリスクがあります。
体力の消耗
立位や蹲踞位のように重力を活用する体位は分娩を助ける反面、母体の体力を消耗することもあります。
長時間の分娩では筋肉疲労や脱水症状が懸念され、結果として分娩に必要なエネルギーが不足することがあります。
医療施設の環境に依存
フリースタイル出産を実現するためには、医療施設が適切な設備やサポート体制を整えていることが重要です。
しかし、すべての施設が自由な体位をサポートしているわけではありません。
一部の施設では仰臥位が標準とされており、その他の体位に対応するための分娩台や医療者の訓練が不十分な場合があります。
それぞれの体位のメリットとデメリット
アクティブバースでは、様々な出産体位で赤ちゃんを産めます。
従来の仰臥位から、立位、膝胸位、側臥位、座位、蹲踞位、四つん這いまで、女性は自分の身体が最も快適と感じる姿勢を選ぶことができます。
ここからは、より具体的な体位のメリットとデメリットを見ていきましょう。
仰臥位
メリットとして、医療処置がしやすい点や足への圧迫が少ないことが挙げられます。
一方で、デメリットには娩出力が低下しやすい点や、大動脈への圧迫による血流の減少などが含まれます。
これらの問題が、他の分娩体位の再評価へとつながっています。
立位
立位は子宮収縮が改善されやすく、胎児の重力による下降を助ける体位です。
分娩第1期における陣痛緩和や子宮動脈の血流改善といった利点があります。
ただし、母体が疲労しやすく、会陰保護が難しい点が課題です。
また、立位では分娩第3期における出血量が増加する可能性も指摘されています。
膝胸位
膝胸位は、子宮による下大静脈への圧迫を軽減し、会陰裂傷を防ぎやすい体位です。
また、過強陣痛を抑える効果も期待できます。
しかし、疲労のしやすさや赤ちゃんを抱きにくい点が欠点として挙げられます。
側臥位
側臥位は、会陰裂傷のリスクを減らすとともに、母体がリラックスしやすいという利点があります。
しかし、娩出力が低下しやすく、分娩時に介助者のサポートが必要になることが課題です。
日本におけるフリースタイル出産の現状
日本国内ではフリースタイル出産の実施は徐々に増えつつありますが、医療機関による対応にはばらつきがあります。
一部の病院では、妊婦が自由に体位を選べる環境を整備していますが、多くの医療施設ではまだ仰臥位が主流です。
フリースタイル出産の普及には、医療者の教育とサポート体制の強化が不可欠です。
また、各体位のメリットとデメリットを正確に伝え、患者さんが自身の身体に最適な選択を行えるようにしなければならないでしょう。
加えて、自然分娩の良さを尊重しつつ、必要に応じた医療的介入のバランスを取ることが課題となります。
まとめ
今まで、出産時には医師の指示に従って体位を決めるものとされてきました。
日本でも、ドラマの出産シーンは仰向けですから、これが当たり前と思っている人も多いのではないでしょうか。
しかし、実際に出産するのは女性です。
医学的に問題がないなら、女性の声に耳を傾け、その選択を尊重することも大切です。
また、妊婦さんに、仰向け以外の体位でも良いことを教える必要もあるでしょう。