長年にわたり多くの人が苦しんできた脱毛症。
最新の研究成果により、脱毛症に対する新たな解決策が提示される日が近いかもしれません。
シンガポールの科学技術研究庁(A*STAR)の研究チームが、毛髪の成長に必要なエネルギーの仕組みと女性の加齢に伴う変化について明らかにしました。
この研究が、脱毛症治療に革命をもたらすかもしれません。
新たに分かった脱毛症の原因
脱毛症は年齢や性別を問わず、多くの人に影響を与えている問題です。
薄毛や抜け毛は美容上の問題に留まらず、精神的な苦痛を伴うことも少なくありません。
特に女性の場合、加齢に伴う髪の毛のボリュームの減少が深刻なストレス要因となることがあります。
これまでの研究では、脱毛症の主な原因として遺伝的要素やホルモンバランスの変化が挙げられてきました。
しかし、今回の研究はそれらに加えて「エネルギー代謝」が髪の毛の健康に深く関与していることを示しました。
この発見は、既存の治療法が十分にカバーしていない新たな視点となります。
毛髪成長のエネルギー消費量が半端ではない
研究チームは、髪の毛の成長がエネルギーを大量に消費することを強調しています。
具体的には、髪の毛1gを成長させるために約670kJものエネルギーが必要とされるそうです。
この量は、両腕と両足を使った6分間の激しい運動に匹敵します。
髪の毛を作る細胞は他の体細胞と比較して活発で、急速に増殖し、バイオマスを生成します。
このプロセスには、エネルギー生産の中心である「ミトコンドリア」が重要な役割を果たしています。
しかし、加齢や生活習慣の変化によってミトコンドリアの働きが低下すると、髪の毛の成長に必要なエネルギーが不足し、抜け毛や薄毛が進行することがわかりました。
ミトコンドリアと活性酸素の関係
ミトコンドリアは細胞内でエネルギーを生産する工場のような存在ですが、その過程で活性酸素という副産物を生み出します。
活性酸素は適度な量であれば細胞の健康を保つ役割を果たしますが、過剰になると細胞にダメージを与える原因となります。
研究チームは毛包内に「火の輪(ring of fire)」という新たな領域を発見しました。
これは活性酸素の主な発生源であり、これが毛髪の成長を阻害する直接的な要因である可能性が指摘されています。
女性に特化した脱毛症研究の意義
従来の研究は男性型脱毛症に焦点を当てていました。
しかし、今回の研究では女性に多い加齢性脱毛症に特化したアプローチが取られました。
この違いはとても重要です。
女性の薄毛は男性とは異なる進行パターンになっています。
男性の場合、頭頂部や前頭部が影響を受けやすいのですが、女性の場合は髪の毛全体のボリュームが減少する傾向があります。
このため、女性の脱毛症を理解するには、ホルモンや遺伝だけでなく、代謝や細胞レベルの変化にも注目する必要があります。
新しい治療法の可能性
今回の研究は、将来的に脱毛症治療の新しい選択肢に影響を与えるかもしれません。
研究者たちは、ミトコンドリアの代謝をサポートし、活性酸素の生成を抑えるローションやクリームの開発に期待を寄せています。
これらの製品は、髪の毛の成長を促進するだけでなく、毛包の寿命を延ばすことで、より長期間にわたる改善効果を得られると考えられています。
男性型脱毛症と女性型脱毛症の違い
男性型脱毛症(AGA)は、額の生え際や頭頂部が薄くなっていくのが特徴です。
一方で、女性型脱毛症では頭頂部を中心に髪の毛のボリュームが減少することが一般的です。
男性の場合、毛が完全に失われることが多いのに対し、女性の場合は髪の毛の密度が低下し、全体的に薄く見える傾向があります。
このため、女性の薄毛は「拡散型脱毛」とも呼ばれます。
男女共通の脱毛症の原因
男性型脱毛症の主な原因は、男性ホルモンの一種であるジヒドロテストステロン(DHT)の増加です。
このホルモンが毛包に作用し、髪の毛の成長期を短縮させてしまいます。
一方、女性型脱毛症では女性ホルモンのエストロゲンの減少が影響を及ぼします。
エストロゲンは毛髪の成長を促進し、髪の毛の密度を保つ働きがありますが、更年期を迎えるとその分泌が減少するため、薄毛が進行しやすくなります。
女性型脱毛症の原因
女性型脱毛症の場合、今回の研究でわかったエネルギー代謝の低下以外では、ホルモンの変化が主な要因とされています。
以下のような状況が影響を及ぼします。
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更年期
エストロゲンが減少し、髪の毛が細くなる。 -
妊娠・出産
ホルモンバランスの急激な変化で一時的な脱毛が起こる。 -
甲状腺機能低下症
甲状腺ホルモンの不足が髪の毛の成長を妨げる。
また、髪の毛の成長には、たんぱく質、亜鉛、鉄分などの栄養素が欠かせません。
よって、栄養が足りないと毛包の働きを低下させ、脱毛を引き起こす場合があります。
過度なダイエットや偏った食事は、女性型脱毛症のリスクを高めると言えます。
精神的なストレスもまた脱毛症の一因です。
慢性的なストレスは自律神経を乱し、血行不良を引き起こします。
そのため頭皮への栄養供給が不足し、髪の毛の健康が損なわれるのです。
女性型脱毛症の診断方法
薄毛が気になる場合、専門家による診断が重要です。
以下の方法で状態が評価されます。
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視診
頭皮の状態を直接確認する。 -
血液検査
ホルモンバランスや栄養状態をチェックする。 -
毛包の顕微鏡検査
毛包の大きさや毛髪の成長サイクルを調べる。
診断を受けることで脱毛症の原因が特定され、治療プランが立てられるので不安も取り除けるでしょう。
日常生活でできる女性型脱毛症の対策
髪の毛の健康には、バランスの取れた栄養摂取が欠かせません。
以下の栄養素を積極的に取り入れましょう。
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たんぱく質
髪の毛の主成分であるケラチンを形成。
肉や魚、卵、大豆製品などに豊富。 -
鉄分 血液を通じて毛包に酸素を運ぶ。
レバーやほうれん草、貝類などがおすすめ。 -
亜鉛
細胞の生成をサポート。
牡蠣や牛肉、ナッツ類に含まれる。
また、正しいヘアケアとして頭皮を清潔に保つよう心がけましょう。
過剰な熱を避けるためにドライヤーやヘアアイロンの使用は控えた方が良いです。
逆に、血行を促進し、毛包への栄養供給をサポートできる頭皮マッサージはおすすめです。
女性型脱毛症の治療法
女性型脱毛症の治療法は、症状や原因に応じて変わります。
進行を遅らせるだけでなく、毛髪の再生を目指す治療も可能です。
以下のような薬剤や治療法があります。
ミノキシジル
ミノキシジルは、毛包への血流を促進することで髪の毛の成長を促します。
女性用は低濃度での処方で、頭皮に直接塗布するタイプが一般的です。
使用開始後3~6ヵ月で効果を実感する人が多いものの、継続して使う必要があります。
スピロノラクトン
スピロノラクトンは抗アンドロゲン薬として知られ、ホルモンの影響による脱毛を抑える効果があります。
更年期以降の女性に使用されることが多いです。
フィナステリド
男性型脱毛症の治療に用いられるフィナステリドも、一部の女性に処方されることがあります。
ただし、妊娠中や授乳中の女性には使用できません。
植毛治療
薬物療法で改善が見られない場合、植毛治療も選択肢に入ります。
自分の健康な毛髪を脱毛部位に移植する方法で、自然な仕上がりが期待できます。
ただし、費用が高額であることや外科的手術のリスクがあるため、慎重な検討が必要です。
ホルモン補充療法
更年期に関連した脱毛症の場合、エストロゲン補充療法が有効とされています。
女性ホルモンの減少による影響を軽減し、髪の毛の密度を回復させる可能性があります。
ただし、副作用やリスクを考慮して医師と相談しなければいけません。
年齢による女性型脱毛症の違い
20代女性が脱毛症を訴えるケースは稀ですが、それでも長期間の過度なダイエットや不規則な食生活が続いた結果、髪の毛が薄くなったという事例もあるそうです。
この場合は特にたんぱく質や亜鉛の摂取が不足しており、さらにストレスも要因として挙げられます。
栄養指導とストレス管理を行えば、回復する見込みはあるでしょう。
40代女性の場合、ホルモンバランスの変化が主要因となることが多いと言います。
更年期の兆候とともに脱毛が進行する場合は、エストロゲン補充療法と併せて、ミノキシジルの使用ができます。
脱毛が進行する速度が緩やかになったり、見た目にも改善が見られたりするケースもあります。
このケースは、ホルモン療法の有効性を示すものです。
60代以上になると、髪の毛の全体的なボリュームが失われることが一般的になります。
この年齢層では、老化による頭皮の血流不足や栄養吸収力の低下が原因となることがあります。
まとめ
脱毛症の治療に向けた取り組みは新たな段階に入りました。
今回の研究は、髪の毛の成長に関するエネルギー代謝の重要性を強調し、それを基盤にした新しい治療法の可能性を示しています。
ミトコンドリアと活性酸素の関係をさらに解明することで、脱毛症治療の未来が大きく変わるかもしれません。
特に女性の場合は、ホルモンバランスが崩れることだけでなく、エネルギー代謝の低下が薄毛に関与しているのかもしれません。