パーキンソン病で起こる「すくみ足」の治療薬として使用されるのがドロキシドパという薬剤で、パーキンソン病の他にも起立性低血圧やシャイドレーガー症候群などの症状改善にも用いられています。
今回はこのドロキシドパを中心にパーキンソン病やすくみ足について解説に加えて、ドロキシドパ以外のパーキンソン病の薬剤、すくみ足の日常生活における対処法なども紹介していきます。
パーキンソン病とすくみ足
まずはパーキンソン病という病気の原因や症状と、すくみ足について学んでいきましょう。
パーキンソン病とは
パーキンソン病は大脳の下にある中脳の黒質ドパミン神経細胞が減ることによって、身体がうまく動かせなくなったり、震えが起きたりする病気です。
筋肉がこわばって動作が遅れるために協調運動がしにくくなり、バランスを崩して転倒しやすくなる他、しゃべりにくくなったり、食べ物を飲み込みにくくなったりします。
パーキンソン病は中枢神経系の疾患の中では比較的多い病気で、40歳以上であれば約250人に1人の割合で発症するのに対し、80歳以上になると約10人に1人が発症する高齢者が発症しやすいと言われています。
すくみ足とは
すくみ足はパーキンソン病で見られる運動症状の1つで、歩行の意思があるのにも関わらず、なかなか足を前に踏み出せなくなって歩行が困難になる症状です。
パーキンソン病患者の半数以上の方に見られるすくみ足は、次のような状況下で発生しやすいと言われています。
- 歩行を開始する時
- 方向を変えようとする時
- 狭い場所を歩こうとする時
- 考え事をしながら歩いている時
すくみ足の多くは薬剤が切れた時間帯に発生するケースが多いですが、最も発生頻度の高い方向転換時のすくみ足は薬剤が効いている時にも発現します。
すくみ足は急に症状が現れて数秒から数分ほど継続することがあり、転倒や事故の危険性を高めるため、ドロキシドパなどの治療薬と対処法を用いて症状を改善させていきます。
パーキンソン病のすくみ足治療薬ドロキシドパ
歩行が困難になり日常生活でのリスクを高めるパーキンソン病のすくみ足は、ドロキシドパを始めとする治療薬で改善していきます。
ドロキシドパを主成分とする薬剤には先発薬のドプスOD錠、ドプス顆粒に加え、ジェネリック医薬品のドロキシドパカプセルなどの製品があります。
ドロキシドパの効果
パーキンソン病は脳内の神経伝達物質であるドパミンが減少することによって起こる病気ですが、この時ドパミンから変換されて生成されるノルアドレナリンも同時に不足してしまいます。
このノルアドレナリンが不足することで、すくみ足や立ち眩みなどの症状が現れます。
ドロキシドパは体内にある酵素によってノルアドレナリンに変換される作用があり、脳内に不足しているノルアドレナリンを補充する働きを持っています。
これにより、パーキンソン病で見られるすくみ足や立ちくらみなどの症状を改善することができるのです。
さらにノルアドレナリンには血圧を上げる作用もあるため、起立性低血圧や血液透析の患者さんの立ちくらみやふらつきの改善にもドロキシドパが使用されるケースもあります。
ドロキシドパの用法用量
パーキンソン病のすくみ足などに対してドロキシドパを使用する時には、ドロキシドパに換算して1日1回100mgを服用して、徐々に量を増やして最適量を見定めていきます。
年齢や症状の強さによって服用量は異なりますが、最大量は1日900mgまでとなっています。
また、高齢者などで嚥下機能に問題がある場合には、口内で崩壊するドプスOD錠を選択するとよいでしょう。
ドロキシドパの副作用
ドロキシドパの副作用には頭痛や幻覚、不安などが現れる精神神経系症状、吐き気や食欲不振、胃部不快感などの消化器症状、血圧上昇や動悸、不整脈などの循環器症状が現れる可能性があります。
このような副作用があるため、妊婦は使用禁止、高血圧や動脈硬化、心臓病などの方は慎重に使用していく必要があります。
また、交感神経刺激作用があるイソプレナリンなどのカテコールアミン製剤との併用は禁止、三環系抗うつ薬や抗ヒスタミン薬などを始めとする複数に薬剤で飲み合わせに注意が必要とされています。
ドロキシドパ以外のパーキンソン病の薬
主にドロキシドパはすくみ足を改善するための薬剤であり、パーキンソン病自体を治療する薬剤は他にいくつか種類があります。
ここではドロキシドパ以外のパーキンソン病の治療薬を紹介していきます。
レボドパ
レボドパは脳内でドパミンに変化する作用を持つ、脳内のドパミンを補充する薬剤です。
レボドパはパーキンソン病に対する標準的な治療薬という位置付けで、レボドパだけではすくみ足などの改善が難しくなってきた時に、これまで解説してきたドロキシドパを使用していきます。
レボドパが効く時間は5~6時間くらいとされ、朝・昼・夕の1日3回服用し、脳内のドパミンの量を安定させていきます。
パーキンソン病に最も高い効果があると言われている一方で、5年以上の長期服用を続けると薬剤の効く時間がだんだん短くなってくるというデメリットがあるので注意が必要です。
このような理由からも、パーキンソン病の改善を薬剤だけに頼るのではなく、日常生活にリハビリや対処法を取り入れるなどの工夫をする必要があると言えるでしょう。
ドパミンアゴニスト
化学構造はドパミンと大きく異なるのにも関わらず、ドパミン受容体に結合してドパミンと同じような働きをするのがドパミンアゴニストです。
レボドパと比較して効果が穏やかな一方で、24時間継続するほど効果時間が長いという特徴があります。
そのため、レボドパと併用して、レボドパの効果が下がる夜間から明け方にかけてドパミンアゴニストに効果を補助してもらうなどの使い方もされます。
ドパミンアゴニストは長期間使用しても効果時間が短くなるなどのデメリットはありませんが、眠気や幻覚などの副作用は出やすくなる点には注意が必要です。
アメル
ドパミンとアセチルコリンが互いに拮抗し合うことを利用して、アセチルコリンの働きを抑制しドパミンの作用を強めて、パーキンソン病における手足の震えや筋肉のこわばりを改善させる効果を持つ薬剤がアメルです。
このような作用を持つアメルは抗コリン薬に分類され、パーキンソン病の治療の他に、抗精神病薬などの使用が原因で起こるパーキンソン病と似たパーキンソニズムという症状を改善するために使用されることもあります。
パーキンソン病のすくみ足の対処法
パーキンソン病の症状の1つであるすくみ足は、転倒などのリスクを高める厄介な症状です。
すくみ足で困ることを減らすためにも、これまで紹介してきたドロキシドパやレボドパなどの治療薬の使用に加え、日常生活での対処法を身に着けておくとよいでしょう。
すくみ足の対処法
パーキンソン病になると自分でリズムを刻むのが難しくなり、歩行に悪影響を与えるため、メトロノームなどでリズムを取りながら歩く練習をするとよい効果が期待できます。
理想は60秒で約100回とされていますが、個人に合った速さに調整に調整するとよいでしょう。
また、歩き方にも意識を配ることが大切です。
すくみ足になると歩幅が狭くなることから大股で歩くことを意識したり、次の一歩へ繋げるために踵から着地したりすると、すくみ足が起きにくくなります。
さらに目印があると歩きやすいため、自宅でのトレーニングとして床にテープなどを貼って歩く練習をするのもおすすめです。
ただし、これらリハビリは人によって合う・合わないがあります。
様々な対処法を試しながら、自分に合ったものを見つけていきましょう。
すくみ足を予防する運動
すくみ足の対処法を行うためには、柔軟性や筋力が必要です。
踵から着地するためにはアキレス腱の柔軟性、次の一歩へ繋げるためには片足を上げて身体を支えるための筋力がなければなりません。
そのため、アキレス腱のストレッチや、筋力を養うために支えを掴みながら片足を上げる運動などを習慣化しましょう。
すくみ足が現れた時の対処法
様々な治療や対処をしていても、すくみ足が起きることがあるでしょう。
このような時に慌てて歩こうとすると、上半身と下半身の動きのバランスが取れずに転倒してしまう可能性があるため、まずは焦らず落ち着くことが大切です。
近くに支えになるものがあれば、掴んでバランスを取ります。
そこで深呼吸をして気持ちが落ち着いたら、自分に合った対処法を行います。
もし、誰かと一緒に歩いている時であれば、介助してもらうのも一つの手段です。
すくみ足の時には転びやすい後方介助を避け、前方介助や側方介助で歩行を手伝ってもらいましょう。
すくみ足はドロキシドパや対処法で改善していこう
パーキンソン病は脳のドパミンが減少することで、身体がうまく動かせなくなったり、震えが起きたりする病気です。
すくみ足はパーキンソン病によってドパミンが減少することで、ドパミンから変換されるノルアドレナリンも同時に不足してしまうことで現れる症状です。
このノルアドレナリンを補充する働きを持つのがドロキシドパで、パーキンソン病の基本的な治療薬であるレボドパの補助的な立ち位置にある薬剤です。
ドロキシドパは血圧を上げたり、立ち眩みなどにも効果を示したりするため、低血圧の治療にも使用されることがあります。
すくみ足を改善していくためには、ドロキシドパを始めとする治療薬を使用する他に、対処法を身に着けておくことも大切です。
筋力や柔軟性を高めたり、リズムや目印を取り入れたりしながら、自分に合ったすくみ足の対処法を見つけておきましょう。