心臓がポンプのように収縮・弛緩をして血管に圧力をかけることによって、血液は絶えず心臓から送り出されて血管を巡って酸素や栄養素を全身に届けています。
この血管にかかる圧力を血圧と言い、強さが数値で評価されます。
基準よりも血圧が強いと高血圧、低いと低血圧とされ、場合によっては様々な症状が現れたり、重大な病気の引き金となったりすることがあります。
今回は血圧が低い状態になる低血圧にフォーカスし、低血圧の種類や症状、低血圧治療薬について解説していきます。
また、日常生活でも取り入れやすい低血圧改善を目指すための生活習慣も紹介しますので、低血圧でお悩みの方はぜひ参考にしてください。
低血圧とは
血圧は最高血圧と最低血圧の2つの数値を測って状態を確認していきます。
最高血圧は血液を送り出すために心臓が収縮して強い圧力がかかっている状態の数値を指し、最低血圧は血液を溜め込んで心臓が拡張している状態の時の数値を言います。
また、俗称として最高血圧を「上」、最低血圧を「下」と呼ぶことがあります。
血圧の基準
診察室血圧の正常値は最大血圧が140mmHg未満・最低血圧が90mmHg未満であり、それより高いと高血圧と診断されます。
一方、低血圧の基準については臨床医によって見解が異なる場合もありますが、WHOの定めた世界基準では最高血圧100mmHg以下・最低血圧60mmHg以下とされています。
基本的に血圧が低いと心臓や血管にかかる負担が少ないというメリットがあることから、測定した数値が低血圧の範囲であったとしても、体調に問題なければ治療の必要はないとされています。
ただし、何からの困った症状が現れている場合には、低血圧治療薬などを使用して改善していく必要があります。
低血圧で起こる症状
低血圧であると心臓が血液を送り出す力が通常より弱いため、各臓器へ送られる血液量が減り、様々な症状を引き起こす可能性があります。
低血圧で起こる可能性がある症状で最も多いのが、立ち眩み、めまい、倦怠感、頭が重い、食欲減退などです。
また、急に立ち上がることによって下半身の静脈に大量の血液が集まり、心臓の血液が減少することが原因となって急激な血圧の低下を引き起こし、失神してしまうこともあります。
また、低血圧を伴う別の病気を患っている可能性もあります。
朝起き上がれなくなる起立性調節障害や、甲状腺ホルモン不足による甲状腺機能低下症、場合によっては心筋梗塞や肺塞栓症などの緊急性の高い疾患を伴うケースもあるので注意してください。
低血圧の種類
一般的に男性よりも女性の方が血圧が低い傾向にあるため、低血圧の症状で悩まされるのも女性の方が多いと言われています。
低血圧が起きる原因はいくつかあり、その原因ごとに分類されています。
本態性低血圧
一次性低血圧とも呼ばれる本態性低血圧は、特定の病気や薬、食事などの特定の原因がないのにも関わらず慢性的に血圧が低い状態で、遺伝的な体質によるケースが多いのが特徴です。
特に若いやせ型の女性に多く、低血圧症のおよそ9割の人がこの本態性低血圧に分類されていますが、困った症状がなければ特に治療の必要性もないとされています。
症候性低血圧
二次性低血圧とも言われる症候性低血圧は、他の病気や薬剤などが原因となる低血圧症です。
特に心臓病や糖尿病、ホルモンバランスの異常、癌の末期、ケガや手術による大出血などによって引き起こされることがあります。
起立性低血圧
起立性低血圧は急に立ち上がったり起き上がったりした時に、下半身に溜まった血液が心臓に戻りにくくなったことが原因となって急激に血圧が下がってしまう状態です。
健康な人であれば、急に血圧が下がったとしても自律神経によって反射的に血圧を戻しますが起立性低血圧症の方は、この調整がうまくできず低血圧症の状態になってしまいます。
起立性低血圧には原因が分からない特発性起立性低血圧症と、原因が特定できる二次性起立性低血圧症に分類されます。
特発性起立性低血圧症は起立性低血圧の約2割を占めており、立ち眩みやめまいなどが起き、ひどい時には失神してしまうこともあります。
起立性低血圧は高齢者や自律神経がうまく働いていない方などがなりやすいと言われていますが、特に二次性起立性低血圧症の場合には糖尿病や心筋症が隠れていたり、服用している薬剤の影響によるものだったりするケースもあります。
食事性低血圧
食事性低血圧は、食後の消化のために胃に血液が集まり心臓に戻りにくくなることで起きる低血圧症で、食後にだけ血圧が急激に低下するという特徴があります。
食後に倦怠感や胃もたれや眠気などを感じ、症状が強いと立ち眩みや失神をしてしまうこともあります。
特に寝たきりの高齢者に見られやすい食事性低血圧を予防するためにも、一度に食べる量を減らして回数を増やしたり、水分を多く摂ったりするなどの工夫をしてください。
低血圧の低血圧治療薬
ここまでお話してきた通り、低血圧は心臓や血管にかかる負担が少ない体質のため、特に症状に悩んでいなければ治療の必要はありません。
しかしながら、低血圧のせいでめまいや失神などを起こし生活に支障が出ているのであれば、医療機関を受診して適切な治療を受けるようにしましょう。
ここでは低血圧の治療に使用される治療薬を3つ紹介していきます。
エホチール
エホチールはエチレフリン塩酸塩を主成分とした低血圧治療薬で、交感神経を刺激して心筋の収縮力をアップさせ、全身に送り出す血液量を増やして血圧を上げる作用があることから起立性低血圧や急性低血圧症などの治療に使用されます。
成人であれば1回0.2~1mlを皮下注射・筋肉注射・静脈内注射で投与していきます。
副作用には頭痛、動悸、吐き気、胸の苦しさなどが報告されていることから、心不全を患っている方には使用できません。
メトリジン
メトリジンはミドドリン塩酸塩を主成分とした低血圧治療薬で、動脈に直接働きかけて末梢血管を収縮させ血圧を上げる作用を持つ薬剤であることから、心臓や脳の血管にはほとんど作用しないという特徴があります。
成人であればミドドリン塩酸塩に換算して1日4mgを2回に分けて内服しますが、症状によっては1日8mgまで増量することが可能です。
主な副作用には頭痛、吐き気、腹痛などに加え、発疹やかゆみ、鳥肌などの皮膚症状が現れる場合があります。
また、褐色細胞腫や甲状腺機能亢進症、パラガングリオーマの患者さんは使用禁止とされている他、高血圧や重篤な血管障害・腎機能障害・心臓障害などがある場合は注意して使用する必要があります。
リズミック
リズミックはアメジニウムメチル硫酸塩を主成分とした低血圧治療薬で、間接的に交感神経を刺激して血圧を上げる作用を持つ薬剤です。
本態性低血圧や起立性低血圧、透析の時の血圧低下を改善させる効果があります。
本態性低血圧や起立性低血圧の治療で使用する時には、成人であればアメジニウムメチル硫酸塩1日20mgを2回に分けて服用します。
主な副作用には動悸や頭痛、吐き気などが報告されており、褐色細胞腫や高血圧症など複数の病気で使用禁止とされているので、持病がある方は必ず医師に相談してください。
また、ドロキシドパやノルエピネフリンは血圧が必要以上に上昇させてしまう可能性があるため、併用には注意が必要です。
低血圧の改善を目指すための生活習慣とは
低血圧は低血圧治療薬だけでなく、日常生活を整えることも大切とされています。
血圧が低くてしんどい思いをしている人は、血圧を調整するために少しずつ生活に取り入れてみてください。
血液によい食事を心掛ける
低血圧でしんどい時には、特に筋肉や血液を作るタンパク質と、血液の流れをスムーズにするビタミンEを意識して摂取しましょう。
タンパク質は肉や魚、豆類などに、ビタミンEはアーモンドなどのナッツ類に多く含まれています。
また、血液の量を増やすために水分をしっかり補給することも、血圧を調整する助けになるとされています。
低血圧の人が食べてはいけないものはありませんが、アルコールは血管を拡張させる作用を持つため、血圧が下がってしまう可能性があります。
お酒を飲む時には水分補給に気を配り、体調が優れない時にはお酒は控えるようにしましょう。
運動を取り入れて筋肉を鍛える
本態性低血圧症はやせ型で筋肉が不足していたり、疲労を感じやすかったりする虚弱体質の方が多いことから、筋肉を鍛えることが低血圧症の改善に繋がるケースも多くあります。
また、運動には血流を良くするというメリットもあります。
いきなり激しい運動を行う必要はなく、ストレッチやウォーキング、水中ウォーキングなどの無理のない運動から始めていきましょう。
カフェインや塩分を摂る
コーヒーや紅茶などに含まれるカフェインには交感神経を刺激する作用や毛細血管を拡張させる作用があり、心臓の働きを活発にして血圧を上昇させたり、血流を良くしたりします。
また、塩分に含まれるナトリウムにも血圧を上げる働きがあります。
食事性低血圧の方は食後の血圧低下を和らげるために食事に取り入れるとよいでしょう。
ただし、カフェインは眠れなくなったり、ナトリウムは高血圧を引き起こしたりするリスクもあるため、取り過ぎには注意が必要です。
低血圧治療薬でしんどい症状を改善しよう
心臓や血管に負担をかけにくいとされる低血圧は、困った症状がなければ治療する必要はありません。
しかしながら、低血圧が原因となる立ち眩みやめまい、倦怠感などの症状で悩んでいる場合には、医療機関を受診して治療していきましょう。
低血圧の改善にはエホチールやメトリジン、リズミックなどの低血圧治療薬を使用した治療に加え、血液によい食事を摂ったり、運動を取り入れたりして体質を改善していくこともおすすめです。