心不全や狭心症の治療に使用される強心剤ジギタリスは、自心筋細胞内のカルシウムイオン濃度を高めて心筋の収縮力をアップさせる作用を持つ薬剤です。
しかしながら、ジギタリスの副作用であるジギタリス中毒を引き起こす恐れがあることから、現在は第二選択薬として使われることが多くなりました。
今回はジギタリスの副作用であるジギタリス中毒について、そのメカニズムや初期症状、治療法などを解説していきます。
強心剤に不安がある方はぜひ参考にしてください。
ジギタリスとは
ジギタリスは心臓の筋肉の収縮力を高める作用や心拍数を整える作用があり、主に心不全や心筋梗塞などを始めとする心臓の病気の治療に使用されている薬剤です。
ジギタリスはもともと植物から成分を抽出して使用していた薬剤という歴史があり、その元となるオオバコ科ジギタリス属のジギタリスは春に鐘状の花が房状にたくさん連なって咲く可愛らしい植物です。
そんな可愛らしい姿とは裏腹に、古くからヨーロッパで猛毒を含む植物として知られている一方で、あらゆる病気を治す薬剤として中世の頃からは傷薬として使用されていました。
現在使用されているジギタリスは化学的に合成された薬剤であり、心筋の細胞内のカルシウムイオン濃度を上昇させ、心臓の拍動を強めて動きを改善させる作用があります。
さらにジギタリスには心拍数を調整させる機能もあることから、心房細動の治療にも使用されます。
しかしながら、ジギタリスは治療の有効域が狭く中毒域と近いうえに、体調や併用する薬剤によっても副作用を引き起こしやすいという特徴があるため、十分に注意しながら使用していく必要があります。
ジギタリス中毒とは
ジギタリス中毒はジギタリス製剤を過剰に投与したり、腎機能の低下によってジギタリスの排泄が減ってしまったりすることで起きる中毒症状です。
他にも甲状腺機能亢進症や心筋梗塞などの病気の影響や、フロセミドなどの利尿薬やテトラサイクリンなどの抗生物質などの他の薬剤との相互作用によって引き起こされることがあります。
ジギタリス中毒の初期症状
ジギタリス中毒になると、食欲不振、悪心、嘔吐、下痢などの消化器症状や、めまい、頭痛、錯乱などの精神神経症状が初期症状として現れます。
特にジギタリス中毒で特徴的な症状として、物が黄色く見えるようになる黄視症や緑色に見える緑視症などの目の症状が起こることもあります。
これら中毒症状はカリウムとジギタリスがNa/K-ATPaseに結合することを阻害するイオンによって低カリウム血症を招いて引き起こされるケースが多いことから、ジギタリスを服用中は低カリウム血症になっていないか数値を定期的に確認することが必要です。
ジギタリス中毒になりやすい人
ジギタリス中毒になりやすい人には、まず高齢者があげられます。
高齢者は腎機能が低下し排泄が遅れてしまう方が多く、ジギタリス中毒を引き起こしやすいと考えられます。
また、他の薬との相互作用からジギタリスの血中濃度が高まることにより中毒になってしまう方もいます。
抗コリン薬や利尿薬、カルシウム拮抗薬などに加え、近年ではマクロライド系抗菌薬や抗真菌薬などでも中毒を引き起こすと報告がされています。
ジギタリス中毒の検査と治療
ジギタリス中毒が疑われる場合には、まず検査を行い、治療へと移っていきます。
ここではジギタリス中毒の検査と治療の方法を紹介していきます。
ジギタリス中毒の検査方法
ジギタリス中毒の疑いがある時には、血液検査や心電図検査で症状との関連性を確認していきます。
血液検査ではジギタリスの血中濃度を測定する他、カリウムやマグネシウム、カルシウムの異常を確認するために電解質を測定したり、クレアチニンや推算糸球体濾過量が低下していないかを調べたりしていきます。
さらに甲状腺機能のデータを採取することもあります。
これら数値を確認することにより、ジギタリスの排泄能力や代謝への影響を確認していきます。
心電図検査ではジギタリス中毒に特徴的なST部分の下降やQT間隔の短縮、T波の平低化、不整脈などの変化について観察します。
これら検査の結果と患者さんの症状を照らし合わせながら、ジギタリス中毒との関連性について診断していきます。
ジギタリス中毒の治療法
検査によりジギタリス中毒と診断された時には、速やかに原因となる薬剤の使用を中止し、ジギタリスの血中濃度を下げる薬剤を使用して治療していきます。
使用する薬剤は、ジギタリスを吸着して排出させるための活性炭や、腸管からの排出を促すための下剤、尿を増やして排出を促進させるための輸液などです。
ジギタリス中毒の症状として不整脈が見られる時にはめまいや動悸を改善するリドカインやフェニトイン、失神や徐脈を起こしている時にはアトロピンを使用することもあります。
また、電解質異常を改善するためにカルシウムやカリウム、マグネシウムを静脈注射や経口で投与し、電解質のバランスを調整していきます。
ジギタリス中毒の治療期間は通常数日~数週間ですが、重症の場合には数ヵ月に及ぶこともあり、その期間は状態により変動します。
治療後も定期的に血液検査や心電図検査を行って再発のリスクがないことを確認していきます。
ジギタリス中毒に注意が必要な薬剤
ジギタリス中毒を引き起こす可能性がある薬剤には、ジゴキシンを主成分としたジゴシンやメチルジゴキシンを主成分としたラニラピッドなどがあります。
ジゴキシンもメチルジゴキシンもどちらもジギタリスに由来する強心剤で、心臓の収縮力を強くして血液循環を整え、心不全や狭心症を治療します。
ジゴキシンは錠剤や散剤、注射液などの様々な剤型から選択できたり、ジギタリス系の薬剤の中では体外への排泄が早かったりする特徴があります。
一方、ラニラピッドはジゴキシンよりも薬剤の吸収スピードが速く、効果が現れるのが早いのが特徴です。
これらジギタリス系の薬剤はジギタリス中毒へ懸念から様々な病気の第一選択薬から除外されてはいますが、それ以降に選択される薬剤としてまだまだ使用されています。
使用する時にはジギタリス中毒を引き起こさないよう、体調や飲み合わせの薬剤に注意を払うようにしていきましょう。
ジギタリス中毒を予防するため方法
ジギタリス中毒に一度なってしまうと再発する恐れがあるため、まずはできるだけジギタリス中毒にならないように気を付けることが大切です。
もしジギタリス中毒になってしまった場合は速やかに医療機関で治療を受けてから、再発を予防していきます。
ジギタリス中毒を予防するためにも、次の4つのことを守っていきましょう。
医師の指示通りに薬剤を使用する
ジギタリスに限らず、薬剤全般に言えることですが、薬剤を使用する時には医師の指示通りに使用することが大切です。
特にジギタリスは薬剤が効く有効域が狭く、副作用を引き起こす中毒域と近いという特徴があるため、より注意が必要です。
効きにくいからと勝手に量を増やしたり、飲み忘れたからと2回分をまとめて一気に飲んだりすると、ジギタリスの血中濃度が上昇して中毒症状を引き起こしてしまいます。
ジギタリス中毒にならないためにも、1回の服用量を守ることはもちろん、飲み忘れた時には気づいた時に1回だけ飲むようにして、ジギタリスの血中濃度を急上昇させないようにしてください。
他の薬剤と併用する時には医師に相談する
ジギタリスは他の薬剤と併用することにより、中毒症状を引き起こす可能性があります。
中毒症状を引き起こす恐れがあるのは処方薬や市販薬だけでなく、カルシウムやビタミンDなどを始めとするサプリメントにも注意が必要です。
さらに、ハーブの一種であるセントジョーンズワートと一緒に服用するとジギタリスの効果が弱められてしまうとされています。
ジギタリス中毒を予防するためにも、他の薬剤と併用したい時には必ず医師に相談してから使用するようにしてください。
定期的に検査を受ける
ジギタリスは正しく服用していたとしても、体調や体質によってジギタリス中毒になってしまう可能性があります。
そのため、ジギタリスを服用している間は、血中濃度や腎機能、心臓の働きを評価する血液検査や心電図検査を定期的に受けるようにしてください。
生活習慣を整える
心臓の病気の多くは生活習慣による影響が大きいことから、体調を安定させるためには薬剤の力を借りるのに加えて、生活を整えていくことが大切です。
カロリーや塩分の過剰摂取や、喫煙や過度な飲酒を控えて心臓にかかる負担を軽減していきましょう。
また、エスカレーターではなく階段を使ったり、一駅手間で降りて歩く時間を増やしたりして適度に身体を動かす習慣も身に着けるのもよいです。
ただし、中毒症状がある場合や体調が悪い時には無理をしないようにし、自分に合ったペースで少しずつ取り入れるようにしていきましょう。
ジギタリス中毒の初期症状が現れたらすぐ医療機関へ
心不全や狭心症などの治療に使用されるジギタリスは植物が由来となって開発された強心剤で、心臓から血液を押し出す力を高める作用を持っています。
しかしながら、ジギタリスの有効域は狭く中毒域と近いという特徴を持つため、体調など些細なことが要因となって、ジギタリス中毒を引き起こしてしまうことがあります。
ジギタリス中毒の初期症状には、吐き気などの消化器症状やめまいなどの精神神経症状に加え、物が黄色く見えるなどの目の症状が現れます。
特に腎機能が低下している高齢者や、他の薬剤と併用している患者さんなどは中毒になりやすいので注意が必要です。
ジギタリス中毒が疑われる時にはすぐに医療機関で、血液検査や心電図検査を受けましょう。
ジギタリス中毒であれば血中のジギタリス濃度を下げる薬剤などを使って治療していきます。
また、ジギタリス中毒にならないためにも、薬剤の用法用量を守ることや、定期的に血液検査や心電図検査を受けて異常がないことを確認することが大切と言えるでしょう。