「トリコモナス症」という性病をご存じでしょうか?
ウイルスや細菌ではなく、寄生虫が引き起こす性感染症です。
想像するだけで背筋がゾッとするかもしれませんが、安心してください。
トリコモナス症は治療薬を使えば完治が可能な病気です。
本記事では、トリコモナス症の感染経路や症状、そして治療薬についてわかりやすく解説しています。
世界的に蔓延する性感染症は、決して他人事ではありません。
自分には関係ないと思っている方にも、自分とパートナー、そして家族を守るためにもぜひ知っておいていただきたい情報です。
こんなに多いの!?世界中で流行する性感染症
性行為で感染する病気「性感染症(STI:Sexually Transmitted Infections)」。
ウイルス、細菌、原虫などが、性器、泌尿器、肛門、口腔などに接触することで感染する病気です。
実は他人事とは言えないほど、世界中で大流行していることをご存じでしょうか。
現在、薬剤などで治療が可能な性感染症は、梅毒、淋病、クラミジアおよびトリコモナス症の4種類です。
2020年のWHOの報告によると、その4種類だけでも年間3億4700万人の感染者がいると推計されています。
これはなんと、毎日100万人以上が感染しているということです。
さらに、4種類の性感染症の感染者数の内訳を見てみると、最も多い患者数なのが「トリコモナス症」です。
性感染症と言えば、クラミジアや淋病をイメージされる方が多いですが、「トリコモナス症」も注意が必要な性感染症です。
病名 | 世界の推計患者数 |
---|---|
トリコモナス症 | 1億5,600万人 |
クラミジア | 1億2,900万人 |
淋病 | 8,200万人 |
梅毒 | 710万人 |
トリコモナス症とは
トリコモナス症とは、肉眼では見ることのできないほど小さな「トリコモナス原虫」という寄生虫が性器内に入り込み、炎症を起こす性感染症です。
男性の場合は前立腺や精のう、尿道に寄生し、女性の場合は膣内や子宮頸管、膀胱や尿道に寄生します。
トリコモナス症が、細菌やウイルスではなく、寄生虫が性器内に入り込む性感染症であるとは知らなかった方も多いのではないでしょうか。
トリコモナス症の感染力
主な感染経路は性行為です。
トリコモナスの感染力はとても強く、1回の性行為でも高い確率で感染すると言われています。
トリコモナス症の潜伏期間は5~14日前後とされていますが、性行為から1日以上経過していれば感染したかどうか検査ができます。
また、性行為の経験のない女性や幼児でも感染者が見られることもあり、下着やタオル、便器や浴槽といった場所から感染する可能性も考えられます。
トリコモナス症の症状
【男性】
男性の場合、トリコモナスは前立腺や精のうでトリコモナスは増殖し、前立腺炎や尿道炎を生じて以下のような症状が現れます。
- 尿を出す時に痛みを感じる
- 尿道から分泌液が出る
- 尿道のかゆみ
- 尿道に違和感がある
- 尿道が熱を持ったように感じる
しかし、男性は無症状である場合が多く、感染者の70~80%は症状を自覚していないそうです。
【女性】
女性の場合、トリコモナスは腟だけでなく子宮の入口(子宮頸管)や膀胱、尿道へも感染し、以下のような症状が現れます。
- 外陰部の強いかゆみ
- 外陰部が熱をもったように感じる
- ニオイがきつい黄緑色のおりもの
- 外陰部がただれる
- 性行為の時に痛みを感じる
- 尿を出す時に痛みを感じる
女性は男性よりも症状が現れやすいですが、感染者の20~50%は症状を感じないとも言われています。
また、時間の経過とともにトリコモナス原虫が移動して卵管や子宮頸管などに炎症を起こす場合があります。
卵管や子宮頸管の炎症を放置していると卵管が詰まってしまい、不妊症や流産、早産に繋がることがあるので注意が必要です。
このようにトリコモナス症は、男女ともに症状が現れないことも多く、そのことから無自覚に感染を広げてしまう可能性が高い性感染症です。
他の性感染症は若い世代に多いのに対し、トリコモナス症は感染者の年齢層が幅広く、中高年世代にも感染者が報告されています。
これも無症状のパートナーからの感染によるものと推察されています。
症状がないからと放置せず、できるだけ早く治療を行いましょう。
トリコモナス症の検査方法
トリコモナス症の検査は、男性の場合は尿を、女性の場合はおりものなどの腟分泌物を検査します。
検査は婦人科や泌尿器科、性病科がある医療機関で受けられます。
保険適応になるか自費診療になるかは、医師の判断によって異なります。
検査結果は即日わかるものもあります。
また、忙しいなどの理由で病院を受診するのが難しい場合は、検査キットを使った郵送検査の利用もできます。
検査キットの価格は購入先によって異なり、約3,000~17,000円です。
なお、男性は女性に比べてトリコモナス原虫の検出が難しく、陰性と判定されることもあるため注意が必要です。
そのため、パートナーがトリコモナス陽性であった場合は、仮に陰性であっても同時に治療を行うことが原則とされています。
【トリコモナス症検査の種類】
鏡検法 | 顕微鏡でトリコモナス原虫を確認する検査です。 最も簡便な方法ですぐに結果が出ますが、原虫を見落としやすいという特徴があります。 |
---|---|
培養法 | トリコモナス原虫を培地で培養して検出する方法です。 判定までに時間がかかりますが、顕微鏡検査では確認できなかった場合などに用いられます |
核酸増幅法(PCR法) | トリコモナス原虫の遺伝子を増幅させて検出する方法です。 短時間で結果が出て感度も高い検査方法です。 |
トリコモナス症治療薬
トリコモナス症には「フラジール」という薬剤が治療に使用されます。
「フラジール」は、メトロニダゾールを有効成分とする薬剤で、トリコモナス原虫を駆除する働きがあります。
「フラジール」には、飲み薬(内服薬)と、膣内に挿入する膣錠があります。
男性に処方できるのは飲み薬だけですが、女性には飲み薬と膣錠の両方が処方されることもあります。
また、妊娠中の場合は膣錠のみで治療を行うこともあります。
トリコモナス症は放置して勝手に治る病気ではありません。
医療機関を受診し、必ず治療を受けましょう。
フラジールの使用方法
【飲み薬(内服薬)】
1回1錠を1日2回、10日間服用します。
【膣錠】
1回1錠を1日1回、10~14日間膣内に挿入します。
フラジールを使用して、何日で治るかは個人差があります。
通常、上記の使用方法を1クールとして、完治しているか再検査を行います。
治療クール1回で治る方が多いですが、個人差がありますので、医師の指示に従い必ず再検査を受けましょう。
また、途中で症状が治まったからと自己判断で薬剤の使用をやめてしまうと、トリコモナス原虫を完全に駆除できず、再発してしまいます。
必ず指示された通りに薬剤を使い切りましょう。
フラジールの副作用
フラジールにの主な副作用として、発疹や食欲不振、吐き気、胃不快感、暗赤色尿などが報告されています。
このような症状に気づいたら、担当の医師または薬剤師に相談してください。
トリコモナス症治療薬はドラッグストアでも買える?
トリコモナス症治療薬であるフラジールは、医師の処方箋が必要な医療用医薬品です。
現在、ドラッグストアで購入できる市販薬にトリコモナス症を治療できるお薬はありません。
似たような症状を引き起こす「カンジダ膣炎」を治療するお薬は市販薬にもありますが、トリコモナス膣炎はこの市販薬で治療できませんので、注意してください。
必ず医師の診察を受けて、治療薬を処方してもらいましょう。
治療中に性行為はしてもいい?
治療中はトリコモナス原虫がまだ存在している可能性があります。
治療中は性行為を避け、治療が終わって陰性の確認ができてから性行為をするようにしてください。
コンドームを使用した性行為でも治療中は避けましょう。
また、トリコモナス症はパートナーも同時に感染している場合が多いです。
一方が治療を終えても、パートナーが感染中で性行為によって再感染を繰り返してしまういわゆる「ピンポン感染」が続くこともあります。
そのため、パートナーと同時に治療を行い、必ず両者の陰性確認ができてから性行為を行うようにしましょう。
トリコモナス症の予防
不特定多数との性行為は避け、コンドームの着用を正しく行うことが大切です。
様々な避妊方法がありますが、トリコモナス症をはじめ、性感染症を防ぐことができるのはコンドームのみです。
また、妊娠を希望する性行為を行う場合も、事前にパートナーと一緒に性感染症検査を受けておくと安心です。
トリコモナス症から身を守るために
寄生虫によって引き起こされる性感染症である「トリコモナス症」。
症状が出にくいことから知らぬ間に感染を広げてしまう恐れがあり、誰もが感染のリスクを抱えています。
しかし本記事で紹介したように、適切な検査と治療を受ければ、完治が可能な病気です。
予防策を徹底しながら、少しでも不安に感じることがあれば、恥ずかしがらずにすぐに検査を受けましょう。
そして、もし感染が確認されたなら、必ずパートナーにも伝え、二人で一緒に治療を行ってください。
人には相談しづらい性感染症ですが、自分自身と大切な人の健康を守るために、まずは正しい知識を持つことから始めてみましょう。