5-HT3受容体拮抗薬は過敏性腸症候群の治療や、抗がん剤治療の副作用である吐き気を抑えるために使われる薬剤ですが、耳慣れない名前のためにどんな作用があるのか不安に感じている方もいるのではないでしょうか。
今回は過敏性腸症候群の治療に使われる5-HT3受容体拮抗薬イリボーにフォーカスし、その効果や作用機序について解説していきます。
併せて、5-HT3受容体拮抗薬以外の過敏性腸症候群の治療薬や治療のために生活で気を付けたいことを紹介していきます。
過敏性腸症候群とは
過敏性腸症候群は消化器に疾患が見当たらないのに、腹痛を伴う下痢や便秘を慢性的に繰り返す病気で、別名IBSとも呼ばれています。
過敏性腸症候群4つの症状タイプ
過敏性腸症候群は主に「下痢型」「便秘型」「混合型」「分類不能型」の4タイプに分類され、タイプごとに症状が少し異なるという特徴があります。
タイプ名 | 主な症状 |
---|---|
下痢型 | 腹痛、水っぽい下痢、粘液がついた便が出る、頻?にトイレに行くなど |
便秘型 | 腹痛、便が出にくい、便秘を繰り返す、コロコロした小さな便が出るなど |
混合型 | 腹痛、便秘と下痢を繰り返すなど |
分類不能型 | 他の型に当てはまらない、おならが頻?に出る、膨満感があるなど |
多くの型で腹痛とともに排便障害に悩まされることが多く、症状がひどい時には外出が難しくなってしまうケースがあるほどです。
また、過敏性腸症候群の腹痛は睡眠時には起こらなかったり、排便後に緩和したりすることが多いというのが特徴の1つにあります。
過敏性腸症候群の原因
過敏性腸症候群の原因ははっきりとは分かっていませんが、食事やストレスを始めとする様々要因が関連しているのではないかと考えられています。
例えば、小腸で吸収されにくい炭水化物を含む小麦や乳製品、豆類、チョコレートなどを食べると腸内でガスが発生し、お腹に刺激を与えることが分かっています。
他にも早食いや、長時間の空腹の後の食事も腸に負担を与えるため、過敏性腸症候群を引き起こすのではないかと言われています。
また、不安や緊張などのストレスを感じることにより交感神経が優位になることで腸がバランスを崩したり、感染性の胃腸炎がきっかけになったりと、原因の特定が非常に難しいのが過敏性腸症候群なのです。
過敏性腸症候群の治療
過敏性腸症候群の治療には、生活習慣の改善と薬物療法を併用していくのが一般的です。
生活習慣の改善においては、規則正しい生活やストレスの緩和、食事を整えるなどをしていきます。
薬物療法においては、腸の運動を調節する薬剤や腸内環境を整える薬剤、腹痛を緩和する薬剤、下痢止め薬などを使用します。
中でも過敏性腸症候群の症状を緩和する薬剤として5-HT受容体拮抗薬を使用するケースが多くなっています。
5-HT3受容体拮抗薬とは
5-HT3受容体拮抗薬は主に抗がん剤治療の副作用である吐き気を抑える制吐剤として使用されていますが、その中のイリボーという内服薬は過敏性腸症候群の治療薬として使用されています。
ここでは過敏性腸症候群の治療に使用する5-HT3受容体拮抗薬イリボーを中心に解説していきます。
作用機序や効果
過敏性腸症候群で起こる腹痛や便秘、下痢などは、神経伝達物質であるセロトニンが腸の動きを活発化したり、セロトニンによる刺激が脳に伝わったりすることで引き起こされます。
このセロトニンが5-HT3受容体に作用して、これら症状を引き起こすのを阻害する働きをする薬剤が5-HT3受容体拮抗薬です。
5-HT3受容体拮抗薬を服用することで、過剰なセロトニンを抑制して、過敏性腸症候群による腹痛や便秘、下痢などの症状を改善していきます。
5-HT3受容体拮抗薬であるイリボーは飲み始めてから約2日で便の回数が減り始め、約1週間で腹痛が改善し始めたという報告があがっています。
「なかなか効かない」とすぐに薬剤をやめてしまうのではなく、効果を十分に感じるためにも飲み続けることが大切と言えるでしょう。
副作用と注意点
5-HT3受容体拮抗薬の副作用には吐き気や便秘、腹部膨満感などの消化器症状、発疹や蕁麻疹などが現れる皮膚症状などがあります。
重篤な副作用として、稀ではありますがアナフィラキシーショックや虚血性大腸炎などの報告があります。
加えて、お腹の張りや3日以上排便のないひどい便秘、腹痛などが長期間続いた時には腸閉塞が起きている可能性があるため、速やかに医師や薬剤師に相談してください。
さらに5-HT3受容体拮抗薬は妊婦は相対禁止、高齢者・子ども・授乳婦は注意して服用する必要があります。
飲み合わせに関しても、CYP1A2阻害剤や三環系抗うつ剤、フェノチアジン系薬剤を始めとする様々な薬剤で血中濃度の上昇や便秘などの副作用を強める可能性があるとされているため、他の薬剤と併用を希望する際には必ず医師や薬剤師に相談しましょう。
また、5-HT3受容体拮抗薬はセロトニンを阻害するため、うつ病になりやすいのではないかと不安になる方もいるようですが、精神を安定させるのは脳で分泌されるセロトニンです。
腸内で分泌されるセロトニンではないので、基本的に心配はいらないとされています。
5-HT3受容体拮抗薬以外の過敏性腸症候群の治療薬
過敏性腸症候群の治療には、5-HT3受容体拮抗薬以外の薬剤が選択される場合があります。
ここに挙げる薬剤は5-HT3受容体拮抗薬とは作用が異なり、中には併用することが可能なものもあります。
合成高分子化合物
合成高分子化合物はポリカルボフィルカルシウムなどを主成分とした、消化管内の水分量を調整して便の形や硬さを整える作用がある薬剤です。
下痢の時には便の水分を吸収して水様便になるのを防ぎ、反対に便秘の時には腸による水分の吸収を抑制して便を柔らかくして便通を改善するため、下痢型・便秘型を問わず使用できます。
比較的安全性が高いとされていますが、副作用として便秘や下痢、腹痛などの消化器症状や、発疹やかゆみなどの皮膚症状が現れる可能性があります。
また、術後イレウス、高カルシウム血症、腎結石などの患者さんへの使用は禁忌となっているため注意が必要です。
合成高分子化合物にはコロネルやポリフルといった製品が製造されています。
トリメブチンマレイン酸塩
トリメブチンマレイン酸塩は消化管平滑筋に作用する薬剤で、消化管の運動が過剰な時には抑制し、鈍っている時には働きを促すという消化管の運動を調節する効果があります。
過敏性腸症候群の便秘型・下痢型・混合型にも効果があるとされ、比較的安全な薬剤と言われています。
主な副作用には下痢や便秘などの消化器症状、蕁麻疹やかゆみなどの皮膚症状が報告されており、稀に肝機能障害を引き起こす可能性があるため、黄疸などの症状が現れた場合には速やかに医療機関を受診してください。
トリメブチンマレイン酸塩が配合されたセレキノンという製品は処方薬だけでなく、「セレキノンS」として市販薬も販売されています。
ただし、セレキノンSは医師から過敏性腸症候群と診断されて治療を受けた経験がある方しか購入できない点には注意してください。
整腸剤
整腸剤は腸内に善玉菌を増やして腸内環境を整える効果のある薬剤です。
即効性はないため効かないと勘違いされやすいですが、どのタイプの過敏性腸症候群にも効果があるとされています。
整腸剤は安全性が高く、飲み合わせに問題がある薬剤もないため、取り入れやすい点がメリットです。
ミヤBMやビオフェルミンなどの製品があり、同じ成分が配合された薬剤は市販で購入することも可能です。
過敏性腸症候群の治療に向けた生活改善
ここまで過敏性腸症候群の治療に使われる5-HT3受容体拮抗薬などの薬剤を解説してきましたが、薬剤だけではなく、腸に優しい生活を送ることも治療の1つと言えます。
過敏性腸症候群においてまず大切なのは、食生活と整えることです。
暴飲暴食はしない、アルコールは控えるなどの一般的なことに加え、1回に食べる量を減らして回数を増やすなどのお腹に負担がかかりにくい食事法を取り入れるのも有効な場合があります。
他にも、特定の炭水化物を避けて小腸に過剰な水分が増えないようにしたり、大腸でガスを発生させないようにしたりする低FODMAP食を試してみるのも良いかもしれません。
また、ストレスを溜めない生活を送るのも重要となります。
睡眠や休息をしっかり取り、気分転換に散歩や軽い運動をして身体を動かしてみるとよいでしょう。
気分がスッキリするのに加えて自律神経のバランスも整い、コンディションが上がるのを実感できるでしょう。
ただし、過敏性腸症候群は少しのきっかけで発症するデリケートな病気です。
生活を整えながら、辛い時には5-HT3受容体拮抗薬などの治療薬を使用して上手に乗り切っていきましょう。
5-HT3受容体拮抗薬は過敏性腸症候群の治療薬
過敏性腸症候群は消化器に疾患がないのに腹痛を伴う下痢や便秘を慢性的に繰り返す病気で、明確な原因は分からないというのが特徴にあります。
そして、この過敏性腸症候群の便秘や下痢、腹痛などを改善する薬剤が5-HT3受容体拮抗薬です。
5-HT3受容体拮抗薬はセロトニンが5-HT3受容体に作用して腸の蠕動運動を過剰にするのを抑制する作用があり、飲み始めてから数日で効き始めると言われています。
さらに、過敏性腸症候群の治療には、5-HT3受容体拮抗薬以外にも合成高分子化合物やトリメブチンマレイン酸塩、整腸剤などが使用されるケースもあります。
また、過敏性腸症候群を改善するためには生活習慣を整えることも重要です。
規則正しい生活でストレスを溜めないことはもちろん、腸に負担のかかりにくい食生活を送ることも大切です。
過敏性腸症候群は原因が分かりにくく、少しの刺激で発症する厄介な病気です。
心身ともに調子を整えながら、自分に合った治療法を見つけていきましょう。