「ウイルスってどんな病原体？」
「抗ウイルス薬の外用薬が使われている疾患は？」
このような疑問を持っている人は少なくないのではないでしょうか。

本記事では、ウイルスの構造や増殖するメカニズムを徹底解説。
外用抗ウイルス薬が適応となる、ヘルペスウイルス感染症についても紹介します。

本記事を読めば、ウイルスの特徴や外用抗ウイルス薬を用いる疾患について理解を深められます。
興味がある人はぜひ最後までご覧ください。

抗ウイルス薬とは？

抗ウイルス薬とは、ウイルスにより引き起こされる感染症に対して用いられる薬剤です。
幅広い細菌感染症に対して効果を発揮する抗菌薬と異なり、抗ウイルス薬は特定のウイルスに対してのみ治療効果が期待できます。

ただし、全てのウイルスに対して抗ウイルス薬が開発されているわけではありません。
有効な抗ウイルス薬が存在する主なウイルスは以下の通りです。

• インフルエンザウイルス
• ヘルペスウイルス
• サイトメガロウイルス
• B型肝炎ウイルス
• C型肝炎ウイルス
• HIV

これらを除く多くのウイルス感染症において、治療の中心は対症療法です。

ウイルスの特徴

抗ウイルス薬について理解するためには、ウイルスとはどのような病原体であるのか押さえておかなければなりません。
ここからは、ウイルスの構造と増殖するメカニズムについて見ていきましょう。

ウイルスの構造

ウイルスの構造を一言で表すと、「核酸(遺伝情報を伝達する物質)を入れたカプセル」です。
「DNA」や「RNA」という核酸を、「カプシド」というタンパク質の殻が包んでいます。
核酸とカプシドは、合わせて「ヌクレオカプシド」と呼ばれており、ウイルスにおける基本構造です。

ウイルスの種類によっては、脂質の膜である「エンベロープ」により、ヌクレオカプシドが包まれているものもあります。
さらに、一部のウイルスにおいては、エンベロープ上に糖タンパク質の「スパイク」を有しています。

ウイルスが増殖するメカニズム

基本的には自分だけの力で増殖できる細菌とは異なり、ウイルスには自己増殖能がありません。
そのため、ウイルスが増殖するためにはヒトの細胞を利用する必要があります。

ウイルスの増殖過程のスタートは、ヒトの細胞を覆っている「細胞膜」への吸着です。
吸着したウイルスは、ヒトの細胞が持つ「エンドサイトーシス」という機能により、そのまま細胞内に取り込まれます。

エンベロープを有するウイルスの場合は、エンベロープが細胞膜と融合することにより、ヌクレオカプシドのみ細胞内に取り込まれます。

細胞内に侵入したウイルスが次に行うのは、カプシドから核酸を取り出す「脱殻」です。
取り出された核酸を鋳型として、同じ遺伝情報を持つ核酸が複製されます。
また、増殖したウイルスを構成するために必要なタンパク質も合成されます。

その後、複製された核酸とタンパク質の部品が組み合わされ、ウイルスの増殖が完了です。
完成した新たなウイルスは、ここまで利用してきた細胞を飛び出して、別の細胞でさらに増殖を重ねていきます。

抗ウイルス薬のターゲット

ウイルスが増殖するメカニズムを踏まえて、抗ウイルス薬は以下の5点をターゲットとしています。

• 吸着/侵入阻害
• 脱殻阻害
• 核酸合成阻害
• タンパク質合成阻害
• 放出阻害

このうち、ほとんどの抗ウイルス薬は核酸合成阻害とタンパク質合成阻害により、治療効果を発揮しています。
吸着/侵入阻害には抗HIV薬の一部が、脱殻阻害と放出阻害には抗インフルエンザウイルス薬の一部が該当します。

外用抗ウイルス薬の種類

抗ウイルス薬のほとんどは内服薬です。
しかし、以下の薬剤では外用薬も開発されています。

• アシクロビル(商品名：ゾビラックス)
• ビダラビン(商品名：アラセナA)

これらはいずれも、ヘルペスウイルスに対する治療薬です。
そのため、核酸合成阻害タンパク質合成阻害をターゲットとしています。

ヘルペスウイルスとは？

ヘルペスウイルスとは、核酸がDNAでありエンベロープを有しているウイルスです。
治療後も体内に残り続けて、再び活性化することで再発するという特徴があります。

ヘルペスウイルスには以下の9タイプがあり、それぞれ引き起こす疾患が異なります。

外用抗ウイルス薬が適応となる疾患

様々なヘルペスウイルス感染症の中で、外用抗ウイルス薬は以下の疾患に対して用いられています。

• 口唇ヘルペス
• 性器ヘルペス
• 帯状疱疹(軽症の場合)

それぞれの疾患について見ていきましょう。

①口唇ヘルペス

口唇ヘルペスとは、主にHSV-1の再活性化により口唇に水ぶくれをきたす疾患です。
ヘルペスウイルスにより引き起こされる感染症の中で、成人において最も多くみられます。

HSV-1が再活性化する主な原因として、以下の3つが挙げられます。

• 発熱
• 日光への曝露
• ストレス

口唇ヘルペスに対する基本的な治療法は、アシクロビル・ビダラビンの外用です。
重症例では抗ヘルペスウイルス薬の点滴が行われます。

②性器ヘルペス

性器ヘルペスとは、性行為の2~10日後に外陰部の皮膚・粘膜症状をきたす性感染症です。
主にHSV-2への感染が原因となりますが、近年ではHSV-1によるものも増加しています。

性器ヘルペスの主要な症状として、男性では亀頭・包皮に、女性では陰唇・会陰部に痛みを伴う小さな水ぶくれがみられます。
初発だけでなく再発もよくみられますが、再発時は軽症であるケースが多いです。

性器ヘルペスの治療法は、基本的には抗ヘルペスウイルス薬の経口投与です。
再発時の軽症例に対しては、アシクロビルの外用薬が用いられます。

③帯状疱疹

帯状疱疹とは、時に激しい痛みを伴うこともある帯状に集まった水ぶくれが、片側性に発生する疾患です。
小児期に水痘(水ぼうそう)に罹患し、その後神経細胞に潜伏感染していたVZVが再活性化と発症します。

再活性化の主な原因は以下の通りです。

• 疲労やストレス
• 悪性腫瘍
• HIV感染症
• ステロイド長期投与

帯状疱疹に対する治療法は、基本的には抗ヘルペスウイルス薬の経口投与です。
軽症例の場合、アシクロビルやビダラビンの外用が行われます。

ただし、患者さんが50歳以上の症例では、治癒後にも痛みが残るケースが少なくありません。
この痛みは「帯状疱疹後神経痛」と呼ばれており、神経に不可逆的な変性が生じるために起こると考えられています。

抗ヘルペスウイルス薬の外用は行いませんが、帯状疱疹に関連する疾患として、注意すべきものがRamsay Hunt症候群です。
顔面の運動を司る顔面神経にてVZVが再活性化することで、顔面神経麻痺が起こり、以下のような症状がみられます。

• 額のしわ寄せができない
• 目を閉じられない
• 耳介(耳たぶ)の水ぶくれ
• 内耳障害(難聴・めまい)

このうち、内耳障害に関しては、顔面神経の付近を通っている内耳神経の障害により生じます。

外用抗ウイルス薬の副作用

アシクロビルやビダラビンの副作用として、考えられるものは以下の通りです。

• 塗布部位の刺激感
• 接触性皮膚炎
• 痒み
• 赤みのある発疹

以上の他、稀ではあるものの塗布部位の痛みや乾燥、灼熱感などが生じる可能性もあります。
外用抗ウイルス薬の塗布部位に何らかの症状が生じた際は、それ以上の悪化を防ぐためにも医療機関を受診し、医師に相談しましょう。

外用抗ウイルス薬の使い方

アシクロビルとビダラビンはいずれも、発病初期に近いほど高い治療効果が期待できます。
そのため、ビダラビンに関しては原則として発症から5日以内、アシクロビルに関してもなるべく早期に使用を開始する必要があります。

また、外用抗ウイルス薬を7日間使用し、改善の兆しがないor悪化している場合は、他の治療に切り替える必要があるので医療機関を受診しましょう。

まとめ：外用抗ウイルス薬でヘルペスウイルス感染症を治療しよう

抗ウイルス薬とは、一部のウイルス感染症に対して用いられている治療薬です。
外用薬として使われている薬剤には、アシクロビルとビダラビンがあります。

アシクロビルとビダラビンはいずれも、ヘルペスウイルス感染症に対する治療薬です。
副作用を使い方に気を付けつつ、口唇ヘルペスや性器ヘルペス、帯状疱疹を外用抗ウイルス薬で治療しましょう。