「私たちの身体はどうやって異物から守られているの?」
「免疫抑制薬はどんな時に使用される?」
このような疑問を持っている人は少なくないのではないでしょうか。
本記事では、細胞性免疫と液性免疫のメカニズムを徹底解説。
免疫抑制薬の種類や適応となる疾患についても詳しく紹介します。
本記事を読めば、免疫システムや免疫抑制薬について理解を深められます。
興味がある人はぜひ最後までご覧ください。
免疫に関わるリンパ球の種類
私たちの身体には、異物から身を守るための免疫システムが備わっています。
免疫には様々な細胞が関わっていますが、代表的なものが以下のような「リンパ球」です。
- T細胞
- B細胞
- NK細胞
それぞれのリンパ球について見ていきましょう。
①T細胞
T細胞は役割によって以下のように細分化されます。
細胞 | 主な役割 |
---|---|
Th1細胞 | CTLやNK細胞などの活性化 |
Th2細胞 | アレルギー反応や寄生虫の排除に関与 |
Th17細胞 | 炎症反応の促進 |
Tfh細胞(濾胞性ヘルパーT細胞) | B細胞の抗体産生を補助 |
CTL(細胞障害性T細胞) | ウイルス感染細胞や腫瘍細胞の破壊 |
Treg細胞(レギュラトリーT細胞) | 過度な免疫反応の抑制 |
また、T細胞は元々、免疫能を持たない2種類の「ナイーブT細胞」として存在しています。
ナイーブT細胞は、「樹状細胞」から異物を見せてもらうこと(抗原提示)で、免疫能を持つ「エフェクターT細胞」へと進化を果たすのです。
進化の詳細は以下の通りです。
ナイーブT細胞 | エフェクターT細胞 |
---|---|
CD8陽性T細胞 | CTL |
CD4陽性T細胞 | Th1細胞、Th2細胞、Th17細胞、Treg細胞、Tfh細胞 |
②B細胞
B細胞は、免疫システムにおいて欠かせない抗体を産生するリンパ球です。
より厳密には、Tfh細胞の補助を受けて「形質細胞」へと進化し、抗体産生を行っています。
抗体は、それぞれ異物に対する特異性を有しています。
そして、対象に結合することで以下の作用を発揮するのです。
作用 | 概要 |
---|---|
オプソニン化 | 「好中球」「マクロファージ」などの免疫細胞による異物除去を助ける |
中和 | 感染性や毒性を失わせる |
補体の活性化 | 補体(病原体排除のため働く物質)を活性化する |
その他、B細胞は抗原提示する能力も有しており、後述する「液性免疫」において中心的な役割を果たしています。
③NK細胞
NK細胞とは、「ナチュラルキラー細胞」の略称です。
その名前からもわかる通り、ウイルスに感染した細胞や、腫瘍細胞の破壊を得意としています。
特に、ウイルス感染においてはCTLが活性化するまでに数日が必要です。
そのため、ウイルス感染の初期に免疫システムの中心となって活躍しています。
2種類の免疫システム
私たちが持つ免疫システムには、異物に対して作用するメカニズムが異なる、以下の2種類があります。
- 細胞性免疫
- 液性免疫
それぞれの免疫システムについて見ていきましょう。
①細胞性免疫
細胞性免疫は、CD4陽性T細胞とCD8陽性T細胞が、樹状細胞から抗原提示されスタートします。
抗原提示によりCD4陽性T細胞はTh1細胞へと進化し、サイトカイン(免疫・炎症に関与する物質)と呼ばれる「IFN-γ」や「IL-2」を産生します。
IL-2の作用は、CD8陽性T細胞がCTLへと進化し増殖するのを促進することです。
そして、CTLがウイルス感染細胞や腫瘍細胞を破壊していきます。
この一連の流れが細胞性免疫のメカニズムです。
②液性免疫
CD4陽性T細胞が樹状細胞から抗原提示を受けると、一部はTfh細胞へと進化し、リンパ節と呼ばれる場所に滞在します。
その後、樹状細胞が抗原提示した異物と同じものを、B細胞が捕まえてTfh細胞に対して抗原提示するのです。
二度にわたり抗原提示を受けたTfh細胞は、B細胞が増殖し、形質細胞へと進化するのを補助します。
そして、形質細胞から産生される抗体が、様々な作用を通して異物の除去に働きます。
この一連の流れが液性免疫のメカニズムです。
免疫抑制薬の種類
免疫抑制薬とは、先に挙げた2種類の免疫システムを阻害する薬剤です。
作用するポイントの違いなどから3種類に分類されます。
具体的には以下の通りです。
分類 | 代表的な薬剤 |
---|---|
カルシニューリン阻害薬 | シクロスポリン、タクロリムス |
代謝拮抗薬 | メトトレキサート、レフルノミド、アザチオプリン |
アルキル化薬 | シクロホスファミド |
カルシニューリン阻害薬は、主にIL-2の産生を阻害します。
そのため、細胞性免疫に対する抑制作用が中心です。
なお、タクロリムスはIL-2以外にも様々なサイトカインを抑制するため、液性免疫に対する抑制作用も期待できます。
一方、代謝拮抗薬やアルキル化薬はDNAの合成を阻害する働きを持っており、T細胞やB細胞の増殖を抑制します。
そのため、液性免疫に対しても強い抑制作用を発揮できるのです。
免疫抑制薬が適応となる疾患
免疫抑制薬が適応となるのは、免疫システムを抑えなければならないケースです。
具体的には、以下のような疾患が該当します。
- 移植拒絶反応/GVHD
- 重症筋無力症
- 膠原病
移植拒絶反応やGVHDは、移植してきた細胞に対する免疫システムの攻撃です。
重症筋無力症や膠原病は自己免疫疾患に該当し、抗体が自分自身の細胞・組織に結合することで症状が生じます。
そのため、これらの疾患は免疫システムの抑制により治療効果が期待できるのです。
なお、DNAの合成を阻害する働きを利用して、メトトレキサートやシクロホスファミドは悪性腫瘍に対しても用いられています。
免疫抑制薬という観点からは外れるため詳しい解説は行いませんが、いずれも抗悪性腫瘍薬として重要な薬剤です。
①移植拒絶反応/GVHD
私たちの身体では、酸素を運ぶ赤血球や免疫に関わる白血球、出血時に血を止める血小板など、様々な血球が働いています。
これらの血球が産生される場所は、複数の骨の内部に存在する「骨髄」です。
骨髄では、あらゆる血球に進化できる「造血幹細胞」から、各々の機能を持つ血球に進化していきます。
そんな骨髄で何らかの疾患が発生すると、正常に血球を産生できません。
その結果、過剰に産生された、もしくは不足した血球により様々な障害が生じます。
このような状況で行われる治療法が、造血幹細胞を注入して骨髄の機能を入れ替える「造血幹細胞移植」です。
具体的には、以下の疾患に対して適応となっています。
- 急性骨髄性白血病
- 急性リンパ性白血病
- 慢性骨髄性白血病
- 骨髄異形成症候群
- 悪性リンパ腫
- 多発性骨髄腫
- 再生不良性貧血
- 慢性肉芽腫症
- Chediak-Higashi症候群
- 重症複合免疫不全症
- 毛細血管拡張性失調症
造血幹細胞移植には、「自家移植」と「同種移植」という2つの方法があります。
自家移植とは、疾患が落ち着いている時期に患者本人から予め採取しておき、自分自身に再度移植する方法です。
一方、同種移植では造血幹細胞を、「ドナー」と呼ばれる人から提供してもらいます。
ここで、今回着目したいのが同種移植におけるデメリットです。
同種移植では、患者さんの体内にもともといたリンパ球が、ドナーから提供された造血幹細胞を異物と判断し、攻撃してしまう可能性があります。
このことを「移植拒絶反応」と呼び、移植拒絶反応が起こると造血幹細胞移植は成功しません。
また、ドナーから造血幹細胞が移植される際には、ドナー由来のリンパ球が紛れて入ってくるケースがあります。
この時、ドナー由来のリンパ球により患者さんの細胞・組織が異物と判断され、攻撃されることを「GVHD(移植片対宿主病)」と呼びます。
GVHDは発生する時期から急性GVHDと慢性GVHDに分類され、それぞれの主な症状・経過は以下の通りです。
分類 | 時期(移植後) | 症状 | 経過 |
---|---|---|---|
急性 | ~100日 | 黄疸・皮疹・下痢 | 多くは軽快する |
慢性 | 100日~ | 眼/口の乾燥・呼吸障害・皮膚の硬化・爪の変形 | 長引くケースが多い |
ここで、免疫抑制薬であるシクロスポリンやタクロリムスには、リンパ球の働きを抑制する作用があります。
そのため、移植拒絶反応/GVHDに対して効果を発揮できるのです。
②重症筋無力症
重症筋無力症は、主に「抗アセチルコリン受容体抗体」という自己抗体の働きにより、以下のような症状をきたす疾患です。
- 眼瞼下垂/複視(眼の筋肉の筋力低下により、まぶたが落ちる/物が二重に見える)
- 全身の筋力低下(重症例では呼吸に関わる筋肉の麻痺)
- 易疲労感(疲れやすい)
以上の症状のうち、眼瞼下垂や複視が最初にみられるケースが多いです。
また、症状は朝よりも夕方に出現しやすく、運動により増悪し休息により改善します。
それでは、重症筋無力症が起こるメカニズムを見ていきましょう。
私たちが生きていくうえで必要不可欠である筋肉は、基本的に神経から刺激を受けて動いています。
神経が筋肉に向けて刺激を伝えている、神経と筋肉の間を「神経筋接合部」と呼びます。
神経が筋肉に刺激を伝えるにあたって、重要な役割を果たしているのが「アセチルコリン」という物質です。
神経の末端から神経筋接合部に放出されたアセチルコリンは、筋肉の末端にある「アセチルコリン受容体」という場所に結合することで、筋肉に対して刺激を伝えます。
その結果、刺激を受けた筋肉が収縮するのです。
そして、重症筋無力症においてよく産生されている抗アセチルコリン受容体抗体には、アセチルコリンとアセチルコリン受容体の結合を阻害する作用があります。
そのため、筋肉が神経から十分な刺激を受けられず、筋力低下が生じてしまうのです。
ここで、免疫抑制薬であるタクロリムスには、抗アセチルコリン受容体抗体の産生を抑制する働きがあります。
そのため、重症筋無力症に対して治療効果を発揮できるのです。
③膠原病
膠原病は、自分自身の細胞や体内に存在する抗体を標的とする自己抗体により、自己の組織や臓器が障害される自己免疫疾患です。
「結合組織」という組織を中心に炎症が起こり、以下のような症状が共通してみられます。
場所 | 症状 |
---|---|
関節 | 炎症による痛み・こわばり・変形など |
肺 | 間質性肺炎/肺線維症(肺に線維化が起こり乾いた咳や呼吸困難が生じる)、 肺高血圧症(肺に流れ込む動脈の圧力が上昇して心臓に負担がかかる) |
腎臓 | 腎機能低下による蛋白尿や血尿 |
手指 | Raynaud現象(指先の色が正常→白→紫→赤→正常と変化する、低温にさらされたりストレス・緊張状態になったりすると起こりやすい) |
皮膚・粘膜 | 疾患ごとに様々な症状 |
膠原病には様々な疾患が該当し、それぞれ特徴が異なります。
各疾患にて陽性となる自己抗体と、主要な症状は以下の通りです。
疾患 | 自己抗体 | 主要な症状 |
---|---|---|
関節リウマチ | リウマトイド因子 抗CCP抗体 | 多発する関節炎 間質性肺炎/肺線維症 腎症状 |
全身性エリテマトーデス | 抗dsDNA抗体 抗Sm抗体 | 関節炎 皮膚・粘膜症状 腎症状 |
全身性強皮症 | 抗Scl-70抗体 抗セントロメア抗体 | Raynaud現象 間質性肺炎/肺線維症 肺高血圧症 |
多発性筋炎/皮膚筋炎 | 抗Jo-1抗体 抗MDA5抗体(皮膚筋炎のみ) | 筋力低下 間質性肺炎/肺線維症 皮膚症状(皮膚筋炎のみ) |
混合性結合組織病 | 抗U1-RNP抗体 | Raynaud現象 肺高血圧症 |
ベーチェット病 | 特異的な自己抗体なし (好中球を主体とした炎症) | ぶどう膜炎(眼の炎症) アフタ性潰瘍(口内炎) 外陰部潰瘍(口内炎と類似) 結節性紅斑(硬く痛い紅斑) |
以上の膠原病のうち、関節リウマチに対してはメトトレキサートやレフルノミドが、ベーチェット病に対してはシクロスポリンが主に用いられています。
その他の膠原病に対しては、アザチオプリンが適応となります。
まとめ:免疫抑制薬で移植拒絶反応や自己免疫疾患に対処しよう
私たちの身体を異物から守るための免疫システムには、細胞性免疫と液性免疫があります。
これらの免疫システムを抑制する働きを持つのが、カルシニューリン阻害薬・代謝拮抗薬・アルキル化薬といった免疫抑制薬です。
免疫抑制薬が適応となるのは、移植拒絶反応やGVHDの他、重症筋無力症や膠原病などの自己免疫疾患です。
免疫抑制薬を適切に使用し、これらの疾患に対処しましょう。