「カルシウム拮抗薬が治療対象とするのはどんな病気？」
「カルシウム拮抗薬が効果を発揮するメカニズムは？」
このような疑問を持っている人は少なくないのではないでしょうか。

本記事では、カルシウム拮抗薬が用いられる疾患や、効果を発揮するメカニズムについて徹底解説。
カルシウム拮抗薬の種類や注意点も紹介します。

本記事を読めば、高血圧・狭心症・不整脈やカルシウム拮抗薬に関する理解が深まります。
興味がある人はぜひ最後までご覧ください。

カルシウム拮抗薬は高血圧や心疾患に対する治療薬

カルシウム拮抗薬は、主に高血圧や心疾患に対して用いられている治療薬です。
心疾患にも様々な種類がありますが、具体的には以下に対して使われています。

• 狭心症
• 不整脈

高血圧は様々な疾患の原因となり、狭心症では激しい痛みが伴います。
また、不整脈は時として、命にかかわることもある疾患です。
まずは、それぞれの疾患について見ていきましょう。

高血圧

高血圧について、以下の観点から解説していきます。

• 血圧の意味
• 高血圧の定義
• 高血圧が原因となる疾患

それぞれ見ていきましょう。

血圧の意味

血圧とは、血液が血管の内壁に対して与えている圧力です。
一般的には動脈での圧力を指しており、以下の式で計算されます。

血圧＝心拍出量(心臓から全身へ送られる血液の総量)×末梢血管抵抗(末梢血管での血液の流れにくさ)

心拍出量には、心臓が収縮する力や体内の血液量が反映されます。
また、末梢血管抵抗を左右しているのが末梢血管の内腔径や壁の硬さです。
内腔が狭く血管壁が硬いほど、末梢血管抵抗が上昇して血圧が高くなります。

高血圧の定義

高血圧の定義は以下のように定められています。
なお、診察室血圧とは病院で測定する血圧であり、家庭血圧とは自宅などリラックスした環境で測定する血圧です。

高血圧が原因となる疾患

高血圧が原因となる代表的な疾患とその症状は以下の通りです。

狭心症

心臓が活動するために、必要な血液を供給している血管を冠動脈と呼びます。
冠動脈に何らかの理由で狭窄が生じ、心臓が一時的な虚血(十分な血液が供給されず酸素不足の状態)に陥った状態が狭心症です。
その背景には、動脈壁が肥厚・硬化する動脈硬化があります。

狭心症は、発生するメカニズムや症状から以下の3つに分類されます。

• 労作性狭心症
• 冠攣縮性狭心症
• 不安定狭心症

以上のうち、カルシウム拮抗薬は主に労作性狭心症と冠攣縮性狭心症に対して用いられます。
この2つの疾患について見ていきましょう。

①労作性狭心症

労作性狭心症とは、労作時(運動時)に虚血が起こる疾患です。
労作時は必要とする酸素量が増えるため、本来は交感神経などの働きにより冠動脈が拡張します。

しかし、動脈硬化により狭窄している部位では冠動脈が十分に拡張しません。
その結果、心臓に十分な血液が供給されず、前胸部の絞扼感や圧迫感が生じます。
なお、労作性狭心症による虚血は可逆的であるため、3～5分ほどで症状はなくなります。

②冠攣縮性狭心症

冠攣縮性狭心症とは、冠動脈が痙攣するように収縮して虚血が起こる疾患です。
冠攣縮は動脈硬化がある場所で起こりやすく、冠動脈の狭窄や完全閉塞に繋がります。

その結果、心臓に十分な血液が供給されず、前胸部の絞扼感や圧迫感が生じます。
なお、持続時間は約数分～15分であり、労作性狭心症とは対照的に安静時に生じやすいです。

不整脈

心臓には「洞結節」・「心房」・「心室」という場所があり、心臓の拍動は洞結節の興奮を起点として起こります。
洞結節で発生した興奮は、「刺激伝導系」という経路を通って心房や心室の筋肉(心房筋・心室筋)に伝わります。

刺激を受けた心房筋・心室筋の働きにより、心房や心室がリズムよく収縮するのが正常な状態です。
このような流れで、興奮が心臓全体に正しく伝わっている状態を「洞調律」と呼びます。

そして、洞調律が妨げられた状態が不整脈です。
不整脈では収縮のリズムの乱れから動悸やめまいなどの症状が生じ、場合によっては心拍出量が低下して命にかかわる恐れも。

不整脈は、心拍数が100回/分を超える頻脈性不整脈と、50回未満となる徐脈性不整脈に大別されます。
カルシウム拮抗薬が適応となるのは頻脈性不整脈であり、特に以下の不整脈に対して用いられます。

• 発作性上室頻拍
• 心房細動

これらの疾患について見ていきましょう。

①発作性上室頻拍

発作性上室頻拍とは、刺激伝導系を本来とは逆向きに進む異常な興奮が生じる疾患です。
頻拍感のある動悸が突然起こり、重症例ではめまいや意識消失などがみられます。

発作性上室頻拍の治療として、まず行われるのが「迷走神経刺激手技」という方法です。
迷走神経の刺激により刺激伝導系の抑制が期待できるため、以下のような手技が行われています。

• Valsalva法(吸気時に息をこらえる)
• 頸動脈洞圧迫(頸部を走る動脈を圧迫する)
• 顔面浸水(冷水に顔をつける)

以上の手技でも効果がなかった場合、カルシウム拮抗薬をはじめとする薬物療法が行われます。

②心房細動

心房細動とは、心房で無秩序な電気的興奮が発生し、心拍リズムが不整になる疾患です。
高齢者や高血圧・心疾患を抱えている人によく起こり、動悸などが生じます。

心房細動では、心房内に血栓(血の塊)が生じやすい点に注意が必要です。
血栓が血流に乗って脳に到達すると、脳の広範囲を障害する心原性脳塞栓症という疾患を引き起こす恐れがあります。

カルシウム拮抗薬が作用するメカニズム

血管を構成する「血管平滑筋細胞」や心臓を構成する「心筋細胞」には、「カルシウムイオンチャネル」という部位があります。
カルシウムイオンチャネルを通してカルシウムイオンが細胞内に流入すると、血管平滑筋が収縮したり、心筋細胞が興奮したりするのです。

ここで、カルシウム拮抗薬を使用すると、カルシウムイオンチャネルが遮断されて細胞内への流入が阻害されます。
その結果、細胞内のカルシウムイオン濃度が低下して血管平滑筋が弛緩したり、心筋細胞の興奮が抑制されたりするのです。

ここからは、血管平滑筋が弛緩したり心筋細胞の興奮が抑制されたりするとどうなるのか、それぞれ見ていきましょう。

①血管平滑筋の拡張

血管平滑筋が弛緩すると末梢血管が拡張します。
その結果、末梢血管抵抗が低下するため血圧が下がります。

また、血管平滑筋の弛緩は冠動脈の攣縮を予防可能です。
そのため、冠攣縮性狭心症を予防する働きも持っています。

②心筋細動の興奮の抑制

心筋細胞の興奮が抑制されると、心筋の収縮力が低下します。
その結果、心筋が必要とする酸素量が低下するため、労作性狭心症を予防する働きを持っているのです。

また、心筋細胞の興奮の抑制により刺激伝導系の興奮も低下するため、抗不整脈作用も有しています。

カルシウム拮抗薬の種類

カルシウム拮抗薬は、ジヒドロピリジン(DHP)系薬物と非DHP系薬物に大別されます。
それぞれに該当する主な薬物と適応となる疾患は以下の通りです。

カルシウム拮抗薬の注意点

カルシウム拮抗薬の注意点について、以下の観点から解説していきます。

• 副作用
• グレープフルーツとの関係

それぞれ見ていきましょう。

カルシウム拮抗薬の副作用

カルシウム拮抗薬を服用すると、以下のような副作用が生じる可能性があります。

• 不整脈
• 血圧低下
• 心不全
• 足のむくみ
• 頭痛やめまい
• 歯肉の腫れ

作用するメカニズムについての見出しで解説したように、カルシウム拮抗薬には血管平滑筋を弛緩したり心筋細胞の興奮を抑制したりする働きがあります。
この働きが強くなり過ぎると、不整脈・血圧低下・心不全などの副作用が生じる恐れがあります。

カルシウム拮抗薬の服用中にこのような症状が生じた場合は、医療機関を受診して相談しましょう。

カルシウム拮抗薬とグレープフルーツとの関係

カルシウム拮抗薬とグレープフルーツとの関係を理解するうえで、ポイントとなる物質が「CYP3A4」です。
CYP3A4はカルシウム拮抗薬の代謝に関与しており、薬物の体内への吸収を制御しています。

また、グレープフルーツにはCYP3A4の作用を阻害する働きがあります。
そのため、カルシウム拮抗薬の服用時にグレープフルーツを摂取すると、薬物が長く体内にとどまって作用が強くなり過ぎてしまうのです。

その結果、副作用が生じやすくなると考えられています。

まとめ：カルシウム拮抗薬で高血圧や心疾患を治療しよう

カルシウム拮抗薬は、高血圧や心疾患に対して作用する治療薬です。
血管平滑筋の弛緩により高血圧・冠攣縮性狭心症に対して効果を発揮し、心筋細胞の興奮抑制により労作性狭心症・不整脈に対して効果を発揮します。

カルシウム拮抗薬にはDHP系と非DHP系があり、それぞれ適応となる疾患が異なります。
注意点に気を付けつつ、カルシウム拮抗薬で高血圧や心疾患を治療しましょう。