世の中には、子どもが錠剤を上手く飲み込めず、困った経験をした保護者の方は多いのではないでしょうか。
上手く飲み込んでもらうためにはそのコツを教えなければいけませんよね。
そんな保護者の困りごとを解決しようと動き出したのは、イギリスのエヴェリーナ・ロンドン小児病院。
なんと、子どもに錠剤の飲み方を教える学校を立ち上げたのです!
今回は、そんな「ピルスクール」の取り組みをご紹介していきます。
錠剤は砕いてはダメ?
子どもが錠剤を飲めない場合は、砕いて粉状にして飲ませる方法を思い浮かべる方も多いと思います。
薬剤を砕いてもいいか気になるところですが、実際には錠剤の種類によって対応が異なります。
全ての錠剤が砕けるわけではなく、むしろ砕くことで薬剤の効果が変わってしまうものもあります。
そのため、子どもが飲んでいる薬剤がどの種類に該当するのか、しっかりと確認することが重要です。
以下で、錠剤の主な種類について見ていきましょう。
それぞれの錠剤には特定の用途や特徴があり、それによって砕いても良いかどうかが決まります。
口腔内崩壊錠
口腔内崩壊錠は、名前の通り口の中で自然に崩れるように作られた錠剤です。
唾液で溶ける設計なので、基本的に噛んで飲んでも問題ありません。
この錠剤は水がなくても服用できるため、特に子どもや高齢者にとって便利と言えます。
チュアブル錠
チュアブル錠は、噛み砕いて飲むことを前提に作られている錠剤です。
そのため、砕いて服用することには全く問題ありません。
このタイプの錠剤は通常、粒が大きくても簡単に噛み砕けるようになっているので、飲みにくさを感じることは少ないでしょう。
素錠
素錠は、薬剤の有効成分を添加剤と一緒に圧縮して作られた錠剤です。
砕くことによって薬剤の効果に大きな影響はないので、砕いて飲むことも可能です。
ただし、粉末状にすると味やにおいが強くなることがあるため、飲みやすさを考慮する必要があります。
糖衣錠
糖衣錠は、錠剤を飲みやすくするために表面が糖でコーティングされたものです。
糖衣があることで、薬剤の苦味や独特のにおいが抑えられています。
砕いてしまうとこの糖のコーティングが失われ、薬剤の苦味やにおいが強く出ることがあります。
そのため、なるべく砕かずにそのまま飲む方が良いでしょう。
徐放錠
徐放錠は、薬剤の成分が体内でゆっくりと放出されるように設計された錠剤です。
砕いてしまうと薬剤が一度に体内に吸収され、持続的な効果が得られなくなるため、砕いてはいけないタイプの薬剤です。
徐放錠を砕いて服用すると、薬剤の効き目が急激に現れる可能性があり、副作用のリスクも高まることがあります。
腸溶錠
腸溶錠は腸で溶けるように設計された錠剤で、胃では溶けないように保護されています。
これを砕いてしまうと胃で溶けてしまい、胃への刺激が強くなるだけでなく、薬剤の効果が正しく発揮されません。
そのため、この錠剤も砕いてはいけません。
このように、砕いていい錠剤と、砕いてはいけない錠剤があります。
もし子どもが錠剤を苦手とするなら、医師や薬剤師に相談すると良いでしょう。
子どもが対象の「ピルスクール」とは?
エヴェリーナ・ロンドン小児病院が2023年5月に発表した新しい取り組みが、医療界で注目を集めています。
それは、子どもたちが液体薬から錠剤へスムーズに移行するためのプログラム、「ピルスクール」です。
各専門家が指導
このプログラムは、小児病院に入院している子どもたちや、外来で治療を受けている患者さんを対象に、液体薬から錠剤へ切り替えるサポートを行うものです。
錠剤の方が様々な面で便利であり、これにより治療がより効率的かつ経済的になると期待されています。
錠剤を飲むことに慣れていない子どもたちにとって、飲み方を習得するのは難しいこともあるでしょう。
しかし、ピルスクールでは医療専門家(看護師、薬剤師、薬剤師技術者、遊びの専門家)が指導を行い、子どもが楽しく安全に錠剤を飲み込めるようサポートしていると言います。
錠剤に切り替えるメリット
液体薬ではなく錠剤が飲めるようになると、多くのメリットがあります。
まず、錠剤は液体薬よりも持ち運びや保管が簡単で、間違った投薬のリスクが低くなります。
これは特に長期的に薬を服用しなければならない患者さんにとって重要なポイントです。
液体薬は量を正確に測る必要があるため、投薬ミスが起きやすいのですが、錠剤はあらかじめ決められた量を服用するだけなので、このリスクが大幅に減少するというわけです。
また、錠剤は液体薬に比べて費用が安いため、経済的な負担も軽くなります。
長期間にわたる治療を必要とする患者さんや家族にとって、錠剤は大きなコスト削減に繋がります。
医療機関にとっても、液体薬の保存や管理にかかる手間が削減されるため、コストパフォーマンスが向上するメリットがあるのです。
ピルスクールが対象とする子どもたち
ピルスクールの対象となるのは3歳以上の子どもです。
液体薬を使用しているものの、今後錠剤薬が飲めないと困る子どもや、砕いた錠剤を服用している子どもが対象となります。
ただし、嚥下に問題がない子どもであり、医師や薬剤師が錠剤服用に適していると判断した場合に限られます。
プログラムでは、子どもが楽しみながら、自然に錠剤を飲む感覚を身に付けられるよう工夫された方法が取り入れられています。
子どもたちは少しずつ錠剤に慣れていき、最終的には問題なく飲み込めるようになります。
このトレーニングを通じて、子どもたちは薬剤を飲むことに対する不安感を克服していくのです。
3mmのお菓子を使って練習開始
エヴェリーナ・ロンドン小児病院の「ピルスクール」では、子どもたちが錠剤を飲み込む方法を学び、訓練する環境が整えられています。
病院の薬剤プロジェクトマネージャーであるアジア・ラシェド博士によれば、最初は約3mmの小さなお菓子を使って練習を始め、徐々に錠剤と同じ大きさ、約1cmから1.5cmのサイズにまで慣らしていくといいます。
ピルスクーでは、子どもたちが食べ物を飲み込む時の頭の角度や安心感を与えるためのヒントが教えられ、安心して訓練ができるよう工夫されています。
錠剤を飲む練習の際には、水やジュース、ヨーグルトなどの柔らかい食べ物と一緒に飲み込む方法が試され、様々なタイプのカップやボトルが使われることもあります。
子どもたちは自分が一番飲みやすい方法を見つけられ、自然に錠剤に慣れていくことができるのです。
実際の成功事例:ジェームズ君のケース
このプログラムの成功事例として、ケント出身の8歳のジェームズ・ニコルズ君が挙げられます。
ジェームズ君は腎臓移植を受けた後、一生薬を服用しなければならない状況にあります。
彼は5歳の時にエヴェリーナ・ロンドン病院に入院していた際、この「ピルスクール」の試験プログラムに参加しました。
ジェームズ君の母親であるサマンサ・ニコルズさんは、錠剤が飲めるようになって生活が大きく変わったと語っています。
液体薬は多くの量を飲まなければならず、味も良くないため、服用するのが難しかったそうです。
しかし、錠剤に切り替えたことで、ジェームズ君はストレスなく薬を服用できるようになり、毎日の薬剤の管理が大幅に改善されたとのことです。
また、サマンサさんは錠剤の利便性についても述べています。
錠剤を一週間分、あらかじめパックに整理しておけるため、薬剤の管理がより安全かつ簡単になったと言います。
その結果、ジェームズ君も以前より安心して生活できるようになったそうです。
研究結果からの有効性
2019年に行われた実行可能性調査では、3歳から14歳までの子ども30人を対象に、錠剤の飲み方を教える授業が行われました。
その結果、26人の子どもが錠剤を飲み込む方法を身につけ、24人が液体薬の代わりに錠剤の処方を受けて無事に退院しました。
錠剤の有効性を示すものであり、患者さんとその家族にとっても大きなメリットがあることが確認されたとのことです。
ラシェド博士は、「液体薬は味が良くないため、子どもたちが飲みたがらないことがよくあります。しかし、錠剤であればその問題が解消され、投薬ミスも減少します」と述べ、錠剤のメリットを強調しています。
さらに、錠剤は液体薬に比べて保存や携帯がしやすいため、外出時にも便利です。
家族の子どもの薬剤を管理する負担が軽くなるのはありがたいですね。
経済的効果と今後の展望
この「ピルスクール」のプログラムは、経済的な面でも大きな効果を上げています。
調査によると、錠剤への切り替えにより、24人の患者さんが1年間錠剤の処方を受けることで、医療機関は約3万ポンドのコストを削減できることが判明しました。
これは医療機関にとっても家族にとっても非常に大きなメリットです。
さらに、錠剤を使うことで患者さんが自分で薬剤を管理できるようになるため、小児科から成人の科へスムーズに移行できるのもメリットです。
一番小さい患者さんは3歳半で、彼らも錠剤を飲めるようになりました。
これからも、エヴェリーナ・ロンドン病院のピルスクールは、多くの子どもたちとその家族をサポートしていくことでしょう。
この取り組みは、患者さんや家族にとっても大きな支えとなり、今後さらに広がりを見せていくと考えられます。
まとめ
ピルスクールができたことで、子どもにも家族にも、そして病院にもメリットがもたらされましたね。
大きくなったら自然に錠剤が飲めるようになるとは言え、やはり早いうちから飲めるようになった方が便利ではあります。
色々な工夫がありますが、誤魔化しではなく、きちんと錠剤を飲めるようになる方法を教えることには、大きな意義があると思います。