胃の症状を改善する薬剤には様々な種類があり、その効果や作用機序は異なります。
同じ胃腸薬の仲間であっても作用が真逆となるケースもあるので、選ぶ際にはどのような効果をもたらす薬剤なのかを知っておく必要があります。
今回は胃腸薬の中でも胃粘膜局所麻酔薬ストロカインの作用機序や併用禁忌などの注意点、販売中止となった理由を解説していきます。
併せて、ストロカイン以外の胃粘膜局所麻酔薬も紹介しますので、胃腸薬を選ぶ際の参考にしてください。
胃粘膜局所麻酔薬ストロカインとは
胃の内壁は胃液から組織を守る役割を持つ粘液で覆われていますが、胃腸の消化管運動が活発になりすぎると、胃酸の分泌が増えて潰瘍や胃腸炎が悪化したり、胃や腸、食道などの消化管が痙攣したりしてしまいます。
このような状態の時に胃粘膜局所麻酔薬を使用し、過剰な消化管運動を抑えて症状を緩和します。
ここでは、この胃粘膜局所麻酔薬であるストロカインについて解説していきます。
作用機序
胃粘膜局所麻酔薬であるストロカインは主成分であるオキセサゼインにより、神経細胞膜のNa+チャネルを抑制し、神経の活動電位発生を抑える作用によって知覚神経の求心性電動を抑制する薬剤です。
この作用によって、消化管に局所的に麻酔がかけられ、過剰な消化管運動や胃酸の分泌などを抑制することができます。
ストロカインは効き目が素早く現れるのが特徴の胸痛や腹痛、下痢を和らげる効果がある薬剤であるため、食道炎、胃炎、胃・十二指腸潰瘍、過敏性大腸症などの治療に使用されます。
ひどい症状の時に短期間使用するのが基本のため、長期連用は避けます。
用法・用量
ストロカインは成人であれば、通常1日3~8錠(15mg~40mg)を3~4回に分けて4時間以上の間隔を空けて服用しますが、薬剤の量に関して年齢や症状の強さにより変わることもあります。
飲むタイミングについては医師の指示に従うようにしてください。
服用時は、口に薬剤を含んだら速やかに水で飲み込みましょう。
口の中に放置したり、?んだりすると口内が痺れてしまう可能性があります。
副作用と禁忌
ストロカインの服用中は便秘や食欲不振などの胃腸症状、頭痛、めまい、眠気などの副作用が起こる可能性があります。
妊娠中の方はストロカインが相対禁止とされており、加えて薬剤の影響を受けやすい授乳中の方や15歳未満の子ども、高齢者の使用には注意を払う必要があります。
また、ストロカインは消化管症状の自覚症状を麻酔で和らげる薬剤であるため、長期連用はせず、長くとも1週間ほどの使用に留めましょう。
ストロカインと併用禁忌の薬剤は指定されてはいませんが、他の薬剤と併用する可能性がある時は飲み合わせについて薬剤師に相談するようにしてください。
ストロカインが販売中止となった理由とは
ストロカインの剤型は錠剤と顆粒の2種類がありましたが、需要低下を理由として2020年4月に顆粒の販売が中止となりました。
それ以降は錠剤のストロカインのみが製造されており、現在も販売が続けられています。
ストロカイン以外の胃粘膜局所麻酔薬
これまでストロカインを中心に解説してきましたが、ストロカイン以外にも胃粘膜局所麻酔薬は存在し、使用されています。
ここからはストロカインとそれ以外の成分の胃粘膜局所麻酔薬の効果や、処方薬と市販薬を紹介していきます。
ストロカイン
ここまで紹介してきたストロカインはオキセサゼインという成分が配合された胃粘膜局所麻酔薬です。
オキセサゼインが配合された市販薬としてエーザイから「サクロンQ」が販売されていますが、安全性が重視されているため処方薬とは成分量に違いがあり、効果はやや穏やかです。
サクロンQを飲むタイミングは、食事に関係なく、胃に症状を感じた時に服用することが可能とされていますが、次に飲む時は4時間以上の間隔を空けるようにしてください。
スルカイン
ピペリジノアセチルアミノ安息香酸エチルを主成分とするスルカインはストロカインと同じく、胃の粘膜に麻酔をかけて痛みを緩和したり、消化管運動を抑制したりする効果のある薬剤で、胃炎による胃痛や胃部不快感、吐き気などの治療に使用されます。
ピペリジノアセチルアミノ安息香酸エチルが単独で配合されている薬は市販薬では販売されていませんが、乗り物酔いによる吐き気止めとして、エスエス製薬から「アネロンニスキャップ」や大正製薬の「センパア」などには薬剤の成分の一部として配合されています。
主な副作用として便秘や下痢などの胃腸症状が報告され、過敏症の方は使用禁止、妊娠中の方も相対禁止とされています。
また、服用には口内の痺れを防ぐためにも、速やかに水で飲み込むようにしてください。
キシロカインビスカス
キシロカインビスカスはリドカイン塩酸塩液が主成分の胃粘膜局所麻酔薬で、主に表面麻酔として使用する液剤です。
内視鏡検査の際の口腔内や咽喉頭、食道部などの麻酔薬として使用される他、胃切除後障害の症状であるダンピング症候群の緩和などにも使用されます。
リドカインの副作用には眠気やめまい、嘔吐、蕁麻疹などの症状が現れることがあり、重大な副作用としてアナフィラキシーショックや血圧低下、チアノーゼ、意識障害などを引き起こす可能性があります。
副作用の観点からも呼吸器疾患がある方や重篤な肝障害、腎障害がある方の使用には注意が必要です。
また、妊娠中の方は相対禁止となり、幼児・小児、高齢者の使用は慎重投与とされています。
キシロカインビスカスのようなリドカインを主成分とした胃腸薬の市販薬はありませんが、かゆみ止めなどの外用薬にはリドカインが配合された製品が販売されています。
胃に症状がある時に考えられる病気
胃もたれや胃痛、食欲不振などの症状があったとしても、一時的であればそれほど心配は要りませんが、症状が強かったり継続したりする時には大きな病気が隠れている可能性もあります。
症状がいつもと違うと感じた時や、薬剤を飲んでも改善が見られない時には医療機関を受診するようにしましょう。
感染性胃腸炎
感染性胃腸炎は食べ物や水を介して細菌やウイルスに感染してしまう病気で、吐き気や腹痛、下痢などの症状を引き起こします。
感染性胃腸炎を発症させる細菌やウイルスには様々な種類があり、カキなどの二枚貝が原因となるノロウイルスや子どもで症状が見られることの多いロタウイルス、病原大腸菌に分類されるO157、動物性食品からの感染することの多いサルモネラなどがあります。
これら感染性胃腸炎の特効薬はなく、感染した時には吐き気止めや整腸剤などを使用する対症療法を行い、脱水症状にならないように十分な水分補給をすることが大切です。
石鹸での手洗いや調理器具の消毒が感染性胃腸炎の予防となり、万が一感染してしまった時には細菌やウイルスが大量に含まれる嘔吐物や便を適切に処理する必要があります。
胃潰瘍
胃潰瘍は胃酸の過剰分泌により胃の粘膜の下にある筋層まで傷ついてしまう病気です。
胃で炎症が起きるため、みぞおちや背中などに痛みを感じたり、胃もたれや吐き気などを引き起こしたりします。
胃潰瘍は強いストレスが続いた時に発症するケースもありますが、主な原因はピロリ菌によるものと言われています。
ピロリ菌は5歳くらいまでに経口感染する井戸水などに含まれる細菌ですが、口移しで与えた離乳食からも感染するのが特徴です。
また、非ステロイド性抗炎症薬や抗血栓薬などの内服薬が原因となる薬剤性の出血性潰瘍も多いので、長期間服用する場合には注意が必要です。
胃潰瘍の治療は胃酸を抑える薬剤を使用したり、重症化した時には手術をしたりします。
また、完治してもピロリ菌が胃の中にいると再発の恐れがあるため、抗菌薬などでピロリ菌を除菌します。
胃がん
胃がんは胃の粘膜細胞が何らかの原因で変異してがん細胞となり、増殖して大きくなっていくことで進行する病気です。
初期段階では自覚症状がほとんどなく、進行していくと胃の痛みや胸焼け、吐き気、食欲不振などを感じ、大腸や膵臓などの他の臓器に広がっていきます。
胃がんに限らずがんの進行度合いは「ステージ」で分類され、ステージごとの標準治療と本人の希望や身体の状態などを加味して、医師と治療方針を決めていきます。
現在、胃がんの原因については解明されていませんが、ストレスや過度の飲酒、喫煙やピロリ菌への感染などがリスクを高めると考えられています。
がんは早期発見・早期治療がとても大切です。
健康診断を定期的に受けて身体の状態を確認し、違和感がある時には早めに医療機関を受診しましょう。
胃粘膜局所麻酔薬ストロカインで胃の症状を和らげよう
胃粘膜局所麻酔薬は過剰になりすぎた胃の動きを抑える薬剤で、胸痛や腹痛、下痢を和らげる作用があり、食道炎、胃炎、胃・十二指腸潰瘍、過敏性大腸症などの治療薬として使われています。
胃粘膜局所麻酔薬にはオキセサゼインが主成分となったストロカインや、ピペリジノアセチルアミノ安息香酸エチルを主成分とするスルカインなど複数の種類の薬剤があり、内視鏡検査の麻酔薬や乗り物酔い止めとしても使用されることがあります。
どの薬剤も副作用の面からも長期連用をするのは避け、用法用量を守ることが大切です。
また、胃粘膜局所麻酔薬を飲んでも症状が改善されない場合は、他の病気が原因となっている可能性があるため、放置せず医療機関を受診しましょう。