病気などにより寝たきりになっている患者さんや高齢者に起こりやすい褥瘡は、一般的に床ずれと呼ばれている傷です。
褥瘡は進行すると治るまで時間がかかるため、早期発見と迅速な治療が重要とされています。
今回は褥瘡のメカニズムや、治療薬として使用される褥瘡・皮膚潰瘍治療剤の種類や使い分け方について解説します。
薬剤によって目的や効能が異なるので、しっかり理解して効果的に治療していきましょう。
褥瘡とは
床ずれとも呼ばれる褥瘡は、寝たきりなどが原因で身体の一部が長時間圧迫されることで起こる疾患です。
この「長時間の圧迫」は一概に何時間と決まってはおらず、時間と圧力の大きさによって異なるのが褥瘡の特徴です。
褥瘡のメカニズム
健康な時には、姿勢を変えたり寝返りをうったりして自然と長時間同じ場所に圧力がかからないように体位を変えています。
しかし、寝たきりなどで身体を動かすのが難しい方は、同じ場所が圧迫され続けて皮膚の細胞に酸素と栄養素が行き渡らなくなり、組織が損傷して褥瘡ができてしまいます。
褥瘡の進行段階は次のようになっています。
- 表皮の炎症
- 真皮に及ぶ潰瘍
- 皮下脂肪に及ぶ潰瘍
- 筋肉・骨に及ぶ潰瘍
潰瘍の範囲が深ければ深いほど治療は困難になるため、できるだけ早期発見して治していくことが大切です。
特に潰瘍が深く細菌による化膿や組織の壊死が疑われる時には、放置すると全身症状が悪化する恐れがあるため、すぐに医療機関を受診してください。
深い褥瘡は治癒までに表面の色が黒色・黄色・赤色・白色の順に変化するという特徴があります。
黒色期は黒くなった壊死組織が体表に残っている状態で、この壊死組織を取り除き、深部壊死組織や不良肉芽が見えるようになるのが黄色期です。
ここから肉芽組織が成長して治ってくると赤色期となり、周りの皮膚と段差がなくなり傷がふさがる白色期を経て治っていきます。
また、褥瘡と似た症状に皮膚潰瘍がありますが、褥瘡が体重の圧迫が原因となるのに対して、皮膚潰瘍は傷や病気などが原因で細胞が死んでしまう病気です。
褥瘡も皮膚潰瘍一部と捉える考え方もあります。
褥瘡になりやすい人となりやすい場所
特に寝たきりで栄養状態が悪かったり、排泄物や汗で皮膚がふやけていたり、摩擦などの刺激が繰り返されていたりする方は、褥瘡ができやすいと言われています。
また、糖尿病などが原因で痛みやしびれを感じにくい方も要注意です。
姿勢や寝ている向きによって異なりますが、主に骨が突き出ている部分は圧迫されやすく、褥瘡ができやすいと言われています。
例えば、後頭部や耳、肩、ひじ、肩甲骨、お尻の仙骨部、ひざ、かかと、くるぶしなどは圧迫されやすので、注意深く見守ってこまめに体制を変えていくようにしましょう。
褥瘡の治療について
褥瘡になってしまった時には、放置せずに医療機関を受診することが大切です。
褥瘡は特定の診療科ではなく、皮膚科や形成外科、外科、内科など様々なところで専門医がいるため、まずは近くの医療機関で診察できるかを確認してみましょう。
褥瘡の治療には、褥瘡・皮膚潰瘍治療剤などの塗り薬やドレッシング材を使用した保存的治療、物理治療、手術などの外科的治療などがあり、進行具合や状態によって選択されます。
症状が重い時には外科手術を行い壊死した皮膚を取り除いたあと、消毒・洗浄して細菌を洗い流し、傷を覆うドレッシング材や褥瘡・皮膚潰瘍治療剤などの塗り薬を塗布して治療していきます。
褥瘡・皮膚潰瘍治療剤の種類と使い分け
褥瘡に使用される治療薬には様々種類があり、効能が大きく異なります。
ここでは褥瘡の治療で使用されることの多い褥瘡・皮膚潰瘍治療剤をピックアップして紹介していきます。
ゲーベンクリーム
ゲーベンクリームはスルファジアジン銀クリームを主成分とする褥瘡・皮膚潰瘍治療剤で、細菌感染の抑制や壊死組織の除去などを目的に使用されます。
主に浸出液が少ないケースの黒色期から黄色期に選択され、1日1回患部に直接塗布またはガーゼにのばして貼付してから上に包帯をして使用していきますが、翌日塗布する際には前日の薬剤を洗い流すなどして取り除いてから塗りましょう。
ゲーベンクリームの副作用には発疹や接触皮膚炎などの皮膚症状の他、光線過敏症や化膿性感染症、貧血、血小板の減少が現れる可能性があり、皮膚壊死や間質性肺炎、汎血球減少などの重大な副作用も報告されています。
また、新生児や妊婦への使用は禁忌とされており、乳幼児や小児、授乳中の方への使用は注意が必要です。
ユーパスタ
浸出液が過剰なケースの黒色期から白色期に使用されるユーパスタは、精製白糖・ポビドンヨード軟膏が主成分の褥瘡・皮膚潰瘍治療剤です。
ゲーベンクリームが浸出液の少ないケースで使用されるのに対し、ユーパスタは液体を吸収する作用があることから浸出液が多い時に選択されるのが特徴と言えます。
ユーパスタもゲーベンクリームと同じように直接塗布かガーゼにのばして貼付して使用しますが、どちらの薬剤も長期間の使用は避け、感染症の危険性がなくなったら中止します。
ユーパスタの副作用は皮膚疼痛や皮膚刺激感を始めとする皮膚疾患、さらにヨウ素液が主成分であることから血中甲状腺ホルモン値低下などが現れる恐れがあり、アナフィラキシーショックや呼吸困難などの重大な副作用を引き起こす可能性もあります。
また、妊婦や授乳中の方の使用は禁忌とされ、甲状腺機能に異常がある方や腎不全の方は注意して使用する必要があります。
カデックス軟膏
カデックス軟膏はヨウ素軟膏を主成分とする褥瘡・皮膚潰瘍治療剤で、黒色期から黄色期の感染抑制や壊死組織の除去を目的に使用されます。
カデックス軟膏は浸出液が最も多い時の使用が適しているとされ、浸出液が少し落ち着いてきた段階でユーパスタへ変更し、さらに浸出液がなくなった時にはゲーベンクリームに変更していく方法もとられます。
カデックス軟膏は通常1日1回、浸出液が多い時には1日2回、約3mmの厚さの薬剤を患部に塗り、新しく塗布する時には前に塗った薬剤は洗い流すようにしてください。
また、副作用には皮膚疼痛や発疹、水泡などの皮膚症状が起こる可能性があり、ヨウ素過敏症の方、妊婦、授乳中の方の使用は禁忌とされています。
アクトシン軟膏
アクトシン軟膏はブクラデシンナトリウムを主成分とした褥瘡・皮膚潰瘍治療剤です。
傷口を小さくして治りを早めたり、血流を良くして新しい血管や肉芽、皮膚の形成を促進したりする効果があるため、赤色期から白色期に使用されます。
また、浸出液の吸収に優れている性質を持つため、浸出液が多い場合に選択されています。
アクトシン軟膏の副作用として皮膚疼痛や皮膚水泡などの皮膚症状が現れる恐れがあり、妊婦の使用は禁忌とされています。
さらにアクトシン軟膏は殺菌作用がないため、使用前は潰瘍面を洗浄して感染症を引き起こさないように注意する必要があります。
フィブラストスプレー
フィブラストスプレーはトラフェルミンを主成分とした噴霧剤で、浸出液の少ない赤色期から白色期に使用される褥瘡・皮膚潰瘍治療剤です。
肉芽を形成させる効果が高いのが特徴で、アクトシン軟膏だけでは段差のある褥瘡ができてしまう可能性がある時にはフィブラストスプレーを併用して効果的に治療していきます。
フィブラストスプレーは1日1回、5回プッシュして薬液を潰瘍面に噴霧します。
もし併用する外用薬がある時には、噴霧後30秒待ってから軟膏をつけたガーゼを貼付していきましょう。
副作用には刺激感や疼痛などの痛みの症状や、過剰肉芽組織、ALT上昇、AST上昇などが見られる場合があります。
また過敏症がある方や投与部位に悪性腫瘍があるかた、妊婦は禁忌とされています。
アズノール軟膏
アズノール軟膏はジメチルイソプロピルアズレン軟膏が主成分の褥瘡・皮膚潰瘍治療薬で、青い色をしているのが特徴の薬剤です。
炎症を抑え、傷を保湿して治りを早くする効果がありますが、あまり効果は強くないため軽い褥瘡で使用されます。
アズノール軟膏は上限量や上限回数に決まりはないため、1日1~数回患部にたっぷりと塗布します。
副作用も少なく、粘膜にもついても問題ないとされていますが、目には入らないように注意してください。
褥瘡の予防
最後に褥瘡にならないための予防法を紹介していきます。
一度発症すると治療に時間がかかる褥瘡にならないために、日々の生活で次のことを取り入れていきましょう。
- 体位変換をこまめにする
- スキンケアを丁寧に行う
- 十分に栄養を摂る
褥瘡は長時間同じ部分に圧力がかかることで起きるため、定期的に体位変換をして圧力を分散させていきます。
体位変換は2時間以内に1回以上行うことを基本とし、体圧分散寝具を使用している場合でも4時間に1回以上行うことが推奨されています。
体位変換の際には摩擦を避け、衣類のしわによる圧迫にも注意してください。
皮膚がふやけていると褥瘡が起きやすいため、尿や便などによる汚れは速やかに処理することが大切です。
皮膚は常に清潔を心掛け、クリームなどで皮膚を保湿して保護していきます。
さらに栄養面にも気を配り、低栄養や脱水症状がないかを確認していきます。
食が細い場合には高エネルギー、高たんぱく質のサプリメントなどの利用も検討していきましょう。
褥瘡・皮膚潰瘍治療剤を使い分けて効果的に治療していこう
寝たきり状態の時に注意したい褥瘡は、身体の一部に長期間圧力がかかることで起きる疾患です。
潰瘍が深いほど治療に時間がかかることから、褥瘡を見つけた時にはできるだけ早く治療を開始することが大切です。
褥瘡・皮膚潰瘍治療剤は潰瘍の段階や浸出液の量によって使い分けられ、黒色期から黄色期には壊死組織の除去や感染の抑制などの効果があるゲーベンクリームやユーパスタ、カデックス軟膏が処方されます。
さらに治療が進み、赤色期から白色期となると肉芽の形成を促進させる効果や保湿効果のあるアクトシン軟膏やフィブラストスプレー、アズノール軟膏などが使用されます。
どの薬剤も用法用量を正しく守り、効果的に褥瘡を治療していきましょう。