薬の種類は多種多様で、名前を聞くだけでは何に効くのか分からないようなものもあるかもしれません。
今回は数ある抗生物質の1つである「アミノグリコシド系抗生物質製剤」にフォーカスし、どのような作用機序でどんな病気に効くのか、どんな副作用があるのかに加え、アミノグリコシド系抗生物質製剤の一覧と使用する時に注意したいことを紹介していきます。
アミノグリコシド系抗生物質製剤は何に効く?
アミノグリコシド系抗生物質製剤は細菌感染に効果を示し、なかでもグラム陰性菌などに対して使用されることの多い薬剤です。
ここではアミノグリコシド系抗生物質製剤の作用機序や副作用についてお話していきます。
作用機序
アミノグリコシド系抗生物質製剤とは、アミノ糖やアミノサイクリトールを含んだ配糖体抗生物質の総称で、細菌のタンパク質合成を阻害して細菌による感染症を治療する薬剤です。
細菌のタンパク質合成はリボソームという器官で行われるのですが、複数存在するリボソームの中の30Sサブユニットに作用するのが、アミノグリコシド系抗生物質製剤なのです。
アミノグリコシド系抗生物質製剤は薬剤の主成分によって作用する細菌が異なり、例えば、ストレプトマイシンは結核菌、スペクチノマイシンは淋菌に高い効果を示すなどの特徴があるため、病気によって処方される薬剤が変わります。
また、アミノグリコシド系抗生物質製剤は経口投与では吸収されにくい一方で、腹膜・胸腔・関節・皮膚からの吸収率が高いという性質を持っています。
副作用
アミノグリコシド系抗生物質製剤の副作用には発疹や発熱などの過敏症状に加え、稀ではありますが排尿に異常をきたす腎機能障害、聞こえづらいなどの難聴などを引き起こす可能性があります。
特に腎機能障害や難聴が現れた場合には大きな病気に繋がる可能性があるため放置せず、すぐに医療機関を受診してください。
アミノグリコシド系抗生物質製剤の一覧
ここまでお話したように、アミノグリコシド系抗生物質製剤の系統に属する薬剤であっても、主成分によって適応となる病気が異なります。
ここではアミノグリコシド系抗生物質製剤の種類と使用される病気について紹介していきます。
ゲンタマイシン
アミノグリコシド系抗生物質製剤に属するゲンタマイシンには、点眼薬・軟膏などの外用薬と注射液の剤型がありますが、ほとんど消化管から吸収されることはない性質を持つことから内服薬はありません。
ゲンタマイシンには殺菌性があり、ブドウ球菌や緑膿菌、化膿レンサ球菌など幅広い細菌に対して有効で、軟膏であれば赤ニキビやとびひ、床ずれなど、様々な皮膚感染症の治療に使用されています。
しかしながら、近年ではゲンタマイシンに耐性を示す細菌が多く発生し、薬剤が効かないという問題も起きています。
また、ゲンタマイシンはかゆみや赤みなどの皮膚症状の副作用が出やすく、その症状は初回よりも2回目以降の方が強いという特徴があります。
そのため、一度使用して問題なかったからと過信せずに、使用している間は患部を注意深く見守ることが大切です。
塗り薬のゲンタマイシンであれば皮膚症状以外の副作用はほとんどありませんが、広範囲に長期間使用していると稀に耳鳴りやめまいを引き起こし、悪化すると難聴や腎障害に進行する可能性があるため、用法用量を守って使用するようにしましょう。
アミカシン
アミノグリコシド系抗生物質製剤の1つであるアミカシンは殺菌性を持つ薬で、吸入液と注射液の剤型があります。
主に外傷・熱傷・手術創の二次感染、敗血症や肺炎、膀胱炎などの治療に加え、他の抗菌薬が効かなくなった耐性菌に対しても使用される薬剤です。
安定性に優れたアミカシンは効果時間が長く、特に呼吸器系の重症感染に高い効果を示すとされています。
院内感染や人工呼吸器関連肺炎により耐性菌のリスクが高い症例や、難治性の複雑性尿路感染症などの症例には、アミカシンが選択されることが多くなっています。
他のアミノグリコシド系抗生物質製剤と同様に腎障害や難聴などの副作用に加えて、筋力低下や呼吸抑制など神経筋接合部に症状が現れる場合があるため注意が必要です。
また、不適切な使用により耐性菌が現れる危険性にも気を配り、医師の指示通りに使用していくことが大切です。
カナマイシン
カナマイシンもアミノグリコシド系抗生物質製剤の一種で、カプセルの経口薬と注射液の剤型があり、特に大腸菌や赤痢菌、グラム陰性桿菌に高い抗菌力を発揮します。
カナマイシンには服用しても体内に吸収されず腸に到達するという特徴があるため、細菌性の下痢や肝性脳症の原因となる腸内アンモニア生産菌の抑制に使用され、腸の感染症以外の病気には使用されることはほとんどありません。
体内に吸収されにくいため副作用は少ないとされていますが、長期間の使用により腎障害や難聴などのリスクが高まります。
他にも食欲不振や吐き気、下痢などの消化管症状や発疹、口内炎などの副作用にも注意が必要です。
フラジオマイシン
フラジオマイシンはアミノグリコシド系抗生物質製剤の中でも、他とは少し異なる貼付剤や含嗽用散の剤型があるのが特徴です。
また、バシトラシンなど他の成分と一緒に配合された軟膏も製造され、市販されている製品もあります。
フラジオマイシンの貼付剤は黄色ブドウ球菌を始めとするグラム陽性菌や、緑膿菌などのグラム陰性菌に有効とされ、皮膚のびらんや潰瘍、外傷や熱傷の二次感染予防に使用されます。
外用薬のため副作用は少ないとされていますが、赤みやかゆみなどの皮膚症状が起こる可能性があります。
さらに他のアミノグリコシド系抗生物質製剤と同じく、難聴や腎障害を引き起こす恐れがあるため、長期間の大量使用は避けましょう。
ストレプトマイシン
アミノグリコシド系抗生物質製剤の系統であるストレプトマイシンは、結核を治療する薬剤として1943年にワクスマンに発見された薬剤です。
それまではペニシリンが結核の薬剤として使用されていましたが、さらに効果が高いストレプトマイシンによって、より多くの結核患者が救われるようになりました。
ストレプトマイシンの剤型は注射液で、肺結核を始めとする結核症・ペスト・野兎病などの治療に使用される他、植物の病気に対する農薬にも配合されることもあります。
重篤な副作用として難聴や腎障害、アナフィラキシーショック、間質性肺炎の可能性があるため、耳鳴りがしたり尿量が減少したり、発熱や蕁麻疹が見られたりした時には、医療機関を受診してください。
トブラマイシン
点眼薬や注射液、吸入液の剤型があるアミノグリコシド系抗生物質製剤のトブラマイシンは、黄色ブドウ球菌などのグラム陽性菌や緑膿菌などのグラム陰性菌に対して使用される薬剤です。
トブラマイシンの点眼薬は細菌による結膜炎・ものもらい・角膜炎などの治療に適応され、殺菌して患部の炎症を抑えて症状を改善させます。
外用薬のため、副作用は少ないとされていますが、かえって症状が悪化しているように感じる時には、医療機関に相談しましょう。
吸入液は嚢胞性線維症の緑膿菌による呼吸器感染で処方されることが多く、ネブライザーを使って吸入します。
副作用には咳や咽頭炎、鼻炎、味覚異常などが現れる可能性があり、特に尿量減少やむくみが見られる時は急性腎障害、めまいや耳鳴りなどが見られた時は第8脳神経障害へ進行する恐れがあるため、速やかに医療機関を受診してください。
アミノグリコシド系抗生物質製剤の使用上の注意点
アミノグリコシド系抗生物質製剤は様々な細菌に高い効果を示し、過去には人類が恐怖に怯えてきたペストや結核などの病気も、現代では治療できるようになりました。
しかしながら、近年問題となっている耐性菌の出現により、本来であれば治療できたはずの病気であっても、薬剤が上手く作用せず治療に困難を極めるような事態が起こっています。
耐性菌は抗生物質を無効にするために、外膜を変化させて効きにくくしたり、DNAやRNAを変化させて薬剤に耐えられるようにしたりして変化をします。
この時、耐性菌が出現する前に抗生物質で細菌を殺菌できれば問題ないのですが、服用を中止したり、勝手に量を減らしたりすることで、変化した耐性菌が生き残って増殖し、人から人へ感染し拡散されていくのです。
アミノグリコシド系抗生物質製剤は幅広い細菌に効果を発揮する薬剤であるため、耐性菌を生み出しやすいとも言われています。
このことからも、アミノグリコシド系抗生物質製剤が処方された時は、用法用量を守って正しく使うことが大切なのです。
アミノグリコシド系抗生物質製剤は細菌感染症を治療する薬
アミノグリコシド系抗生物質製剤は細菌に対して効果がある薬剤で、結核菌や緑膿菌、黄色ブドウ球菌などによる感染症を治療します。
アミノグリコシド系抗生物質製剤は主成分ごとに得意とする細菌は異なるため、様々な製品・剤型が存在します。
例えば、軟膏のゲンタマイシンは赤ニキビや床ずれなどに、ストレプトマイシンは結核の治療に使用される他、植物の病気対策として農薬に配合されています。
アミノグリコシド系抗生物質製剤は幅広い細菌に高い効果を示す薬剤ではありますが、乱用したり用法用量を守らない使い方をしたりすることが増えた結果、薬剤が効きにくい耐性菌が発生する問題も起きています。
アミノグリコシド系抗生物質製剤に限らず、薬剤を使用する時には用法用量を守って正しく使用することを心掛けていきましょう。