人間の身体は様々な物質が複雑に絡み合って構成されており、卵胞ホルモンを始めとする女性ホルモンもなくてはならない要素の1つです。
ホルモンはごくわずかな量で作用するうえに、多すぎても少なすぎても身体に悪影響を及ぼす非常にデリケートな性質を持つ物質であるため、バランスを保つことが重要となります。
今回は女性の身体に大きな作用をもたらす卵胞ホルモンを補う卵胞ホルモン剤と、卵胞ホルモンと深い関係がある婦人科系ホルモン剤について解説してきます。
月経や妊娠に不安がある方や更年期障害でお悩みの方は、ホルモンについて再確認しましょう。
卵胞ホルモンとは
卵胞ホルモンは卵巣で合成される女性ホルモンの1つで、妊娠や出産に欠かすことのできない物質です。
女性ホルモンには、卵胞ホルモンと呼ばれるエストロゲンと、黄体ホルモンと呼ばれるプロゲステロンの2種類があり、これら物質は私たちの身体に次のような作用をもたらしています。
ホルモン名 | 働き |
---|---|
卵胞ホルモン | ・子宮内膜を厚くして妊娠の準備をする ・胸の発育や丸みのある女性らしい身体をつくる ・代謝をアップさせ精神状態を安定させる ・肌、血管、骨などの健康を保つ |
黄体ホルモン | ・子宮内膜を安定させて妊娠しやすい状態をつくる ・妊娠を維持する ・乳腺を発達させる ・体温を上げる ・食欲を増進させる |
卵胞ホルモンは成長とともに分泌量が増え、20代でピークを迎えます。
そこから、少しずつ分泌量が減少していき、45~55歳の更年期に差し掛かると大きく分泌量が減ります。
更年期障害は体内の卵胞ホルモン量が少なくなることにより、これまで正常だった卵胞ホルモンの働きが低下し、身体に様々な悪影響を及ぼすことが原因とされています。
また、ストレスなどが原因となって年齢に関係なく、卵胞ホルモンの分泌量が減少するケースもあります。
卵胞ホルモンが少なくなると、妊娠や出産に関係する機能が低下し、生理不順や無月経などが起きてしまうのです。
卵胞ホルモン剤とは
卵胞ホルモンの減少が原因となって起こる更年期障害や生理不順などは、卵胞ホルモンを補充することにより改善されるケースがあります。
卵胞ホルモン剤は卵胞ホルモンを主成分とした薬剤で、種類によって多少効能は異なりますが、主に次のような症状で使用されています。
- 更年期障害による発汗・ほてり・冷え・不眠・疲労感
- 卵巣機能不全が原因となる不妊症
- 卵巣欠落症状による卵胞ホルモンの不足
- 骨粗しょう症
卵胞ホルモンの減少によって起こる症状の代表例が、更年期障害です。
卵胞ホルモンには妊娠や出産に関わる作用だけではなく、精神状態を安定させたり、肌や血管などの健康を保ったりする働きもあります。
これら作用を持つ卵胞ホルモンの減少により体内での働きが低下してしまうと、発汗やほてりなどの血液運動症状や、不眠・疲労感などの精神症状を引き起こすため、卵胞ホルモン剤を使用して身体に卵胞ホルモンを充足させ、症状を緩和していきます。
また、卵巣が十分なホルモンを生産しなくなってしまう卵巣機能不全による不妊症の治療や、がん治療の一環で卵巣を摘出する手術を行うことで起きる合併症の卵巣欠落症状による卵胞ホルモンの不足の治療にも、卵胞ホルモン剤を使用していきます。
一見、ホルモンと関係のなさそうな骨粗しょう症も、骨を健康に保つ作用のある卵胞ホルモンが減少することで発症するケースがあります。
このような場合も卵胞ホルモン剤を使用して治療していきます。
卵胞ホルモン剤使用の注意点は、子宮内膜を増殖させる作用が強くなりすぎるのを防ぐため、黄体ホルモンを併用して作用を抑える必要があることです。
ただし、子宮を摘出した女性については、卵胞ホルモンによる悪影響の心配がないことから、黄体ホルモン併用の必要性はないとされています。
卵胞ホルモン剤の種類一覧
このように様々な病気を治療する卵胞ホルモンですが、実際にどのような製品があるのかをご存知でしょうか。
ここでは、代表的な卵胞ホルモン剤の製品を1つずつ紹介していきます。
エストラーナ
エストラーナは卵胞ホルモンを補充し、更年期障害の症状や不妊症、卵巣欠落症状、骨粗しょう症を改善する貼付剤です。
下腹部か臀部に貼り、2日に1回新しいものと交換ながら21~28日間使用し、投与期間の後半には黄体ホルモン剤を併用していくのがエストラーナの特徴です。
副作用には赤みやかぶれなどの皮膚症状、胸の張り、むくみなどが見られることがあり、重篤な副作用としてアナフィラキシーや血栓、急性視力障害などが報告されています。
また、エストラーナは禁忌も多く、一部例を挙げると、重篤な肝障害や乳がん、脳卒中などの患者さんや妊娠している可能性がある方、授乳中の方の使用はできません。
さらに高血圧や子宮筋腫、心疾患、腎疾患などがある方は注意して使用する必要があります。
飲み合わせによって問題を起こす薬剤も多いため、常備薬がある場合には必ず医師や薬剤師に確認することを心掛けてください。
女性の諸症状に効果があるとされるセントジョーンズワートというハーブとの飲み合わせにも注意が必要です。
ル・エストロジェル
エストラジオールが主成分のゲル剤ル・エストロジェルは、肌から成分を吸収させて卵胞ホルモンの低下によって起こる更年期障害の症状や不妊症、卵巣欠落症状を改善する薬剤です。
成人であれば、ル・エストロジェル2プッシュを1日1回、手首から肩までの両腕に塗布します。
ル・エストロジェルもエストラーナのように21~28日間使用していく薬剤で、使用期間の後半に黄体ホルモン剤と併用していく点も同じです。
主な副作用には膣分泌物や性器出血 、 陰部そう痒症などの性器に症状が現れる可能性があるのに加え、重篤な副作用としてアナフィラキシーや血栓、急性視力障害などが引き起こされる恐れがあります。
禁忌についてはエストラーナと同じで多く、何かしらの病気を患っている方、薬剤を飲んでいる方は必ず医師に相談するようにしましょう。
ル・エストロジェルもセントジョーンズワートの飲み合わせは避けるようにしてください。
ジュリナ
ジュリナはエストラジオールを主成分とした卵胞ホルモンの内服薬で、主に更年期障害や卵巣欠落障害の症状を改善させる効果があります。
病気によって主成分の含有量が異なる錠剤を使用しますが、1日1回の服用が基本です。
主な副作用に性器分泌物や乳房、外陰膣の痛みと不快感などが現れる可能性に加えて、血栓などの重大な副作用が起こる恐れがあります。
禁忌についても他の卵胞ホルモン剤と同じく、子宮内膜がんや乳がん他様々な病気が挙げられ、妊娠中や授乳中の方も服用できません。
薬剤の飲み合わせに関しても、感染症で使用されることの多いマクロライド系抗生物質を始めとする多種多様な薬剤で注意が必要なものがあります。
プレマリン
プレマリンは結合型エストロゲンが主成分の内服薬で、更年期障害や卵巣機能不全症などの他に、膣の粘膜に炎症が起こる膣炎の治療に使われています。
小児膣炎から老人膣炎まで幅広い年齢層の膣炎で処方されますが、思春期前の小児や高齢者の使用については副作用の危険性も考慮しながら、注意して投与する必要があります。
副作用で多いのは、むくみや体重増加で、性器分泌物や不正出血にも起きる恐れがあり、重篤な副作用として他の卵胞ホルモン剤と同様に血栓などが報告されています。
禁忌もこれまでの薬剤と同じように様々な病気が挙げられていますが、他の卵胞ホルモン剤では禁止されていた授乳中の方へも注意をしながら処方することが可能です。
卵胞ホルモン剤以外の婦人科系ホルモン剤の種類
更年期障害や生理不順、無月経の治療には卵胞ホルモン以外の薬剤が使用されるケースもあります。
ここでは卵胞ホルモン剤以外の婦人科系ホルモン剤の種類について紹介していきます。
黄体ホルモン剤
黄体ホルモン剤は黄体ホルモンを主成分とした薬剤で、黄体ホルモンの減少が原因となる様々な症状を改善する効果があります。
- 無月経・月経困難症
- 黄体機能不全による不妊症
- 切迫流早産や月経困難症
黄体ホルモンは子宮内膜が厚くなるのを防ぐ作用があるため、月経を軽くする効果があるうえに、妊娠を継続させる働きにより、切迫流早産や月経困難症の軽減にも使用されます。
また、血栓症のリスクが高く低用量ピルが使用できない方への代替薬としても使われています。
卵胞・黄体ホルモン配合剤
卵胞・黄体ホルモン配合剤は、2種類の女性ホルモンを補充することにより脳に卵胞が成熟していると錯覚させて、卵胞の成熟と排卵を抑制させる作用がある薬剤です。
この作用により、子宮内膜が厚くなるのを防ぎ、痛みの原因となる物質が産出されるのを抑制します。
卵胞・黄体ホルモン配合剤は薬剤に含まれる卵胞ホルモンの量によって、超低用量製剤、低用量製剤、中用量製剤、高用量製剤に分類されており、症状や体質によって使い分けられています。
卵胞ホルモン剤には多様な種類がある
女性ホルモンの1つである卵胞ホルモンは、妊娠や出産において重要な役割を持つ物質です。
卵胞ホルモンが不足すると月経異常や不妊症になる可能性に加えて、更年期障害によるほてりやイライラ、骨粗しょう症などの症状を引き起こす恐れがあるため、卵胞ホルモン剤を使って改善していきます。
卵胞ホルモン剤にはエストラーナやル・エストロジェル、ジュリナのように剤型も主成分が異なる様々な種類の薬剤が製造されています。
さらには、同じように妊娠や出産に関係するホルモンを補充する目的を持つ、黄体ホルモン剤や卵胞・黄体ホルモン配合剤などの薬剤も使われています。
薬剤の効果や副作用、自分自身との相性を考慮しながら、適切なホルモン剤を選んでいきましょう。