皮膚のかゆみを止める薬剤には様々な種類がありますが、クロタミトンは疥癬の治療にも使用されることで有名な外用薬です。
疥癬は古来より人々を苦しめてきた病気であり、現代においても病院や介護施設などでの集団感染が問題となっています。
そこで今回は、クロタミトンの作用機序や注意点、その他の疥癬の治療に使用される薬剤について解説していきます。
それに加えて、疥癬の感染が広がらないように気をつけるべきポイントも紹介するので、正しい知識を学んで日々の健康を守っていきましょう。
疥癬とは
疥癬はヒゼンダニという直接目で見ることができないほど小さなダニが、皮膚の最も外側にある角質層に寄生する病気です。
寄生したヒゼンダニは皮膚の中で成長した後に交尾し、疥癬トンネルという横穴を皮膚内に作って卵を産みつけます。
そして、その卵がかえって幼虫となり、成虫へ成長していくのを繰り返しながら増殖していきます。
人から人へ感染する厄介な疾患である疥癬の歴史は古く、古代ギリシャ・ローマ時代にも記録が残っているほどです。
日本国内では大正時代や第二次世界大戦直後に大流行を起こしており、生活環境が整っている現代においても病院や介護施設でしばしば集団感染が起きています。
疥癬になると赤いブツブツができ、眠れないほどの激しいかゆみが顔や頭以外の全身に現れます。
特に手の平や指、男性の場合は外陰部に発疹がみられるのも疥癬の特徴と言えるでしょう。
疥癬の治療には、ヒゼンダニを殺すことを目的とした薬剤と、かゆみを止めることを目的とした薬剤を使用します。
この治療のための薬剤の1つがクロタミトンなのです。
疥癬の治療薬クロタミトンとは
クロタミトンは1940年代にスイスで開発された疥癬治療薬で、かゆみを止める効果が強いのが特徴です。
クロタミトンが配合されたオイラックスなどの商品は、かゆみを抑えて炎症を改善する効果があり、皮膚炎や虫刺され、水虫などの治療に使われています。
クロタミトンの作用機序
これまでクロタミトンの作用機序についての詳しいメカニズムは分かっていませんでしたが、塗ると皮膚に軽い熱感を生じさせることが関係しているのではないかと考えられていました。
その後、クロタミトンはTRPチャンネルというかゆみを伝える働きを持つタンパク質の中の暖かさのセンサーであるTRPV4の働きを弱める作用があることが判明し、この作用によってかゆみを軽減させることがわかりました。
クロタミトンの塗り方
クロタミトンを湿疹やじん麻疹に塗る場合は、医師の指示通り1日1回~数回患部に塗ってすりこみます。
この時目や粘膜に入らないように注意して使用しましょう。
疥癬の治療の場合は、発疹などの症状が現れている部分だけではなく、顔や頭以外の全身にくまなく薬剤を塗りこみます。
この時、シワの間や耳の後ろ、外陰部にも塗り忘れがないように丁寧にクロタミトンを使用していくことが大切です。
また、外用薬を患者さんに塗る時には、感染を予防するためにビニール手袋をつけるようにしてください。
クロタミトンの副作用
クロタミトンの主な副作用には、ヒリヒリ感や発疹などの皮膚症状などの報告があります。
禁忌となるのは過敏症を起こした方に加えて、妊娠中の方や0~14歳までの小児、高齢者が規定されています。
オイラックスと疥癬
クロタミトンが配合されたオイラックスは疥癬の治療薬として開発された薬剤ですが、以下の理由から、現在の治療では別の薬剤を使用するケースが増えています。
- 殺虫効果が弱い
- 全身に5日以上連続して塗布する必要性がある
- ノルウェー疥癬に効きにくい
このような理由から、現在の日本国内では適応外となっています。
オイラックスを市販薬として販売している第一三共ヘルスケアも、オイラックスソフトは疥癬に使用できないと明言しています。
クロタミトン以外の疥癬治療薬
近年、疥癬の治療薬として開発されたクロタミトン以上に高い効果が期待できる薬剤が使用されるようになり、疥癬の治療は以前よりも難易度が下がりました。
ここでは、現在の治療で選択されることの多い、クロタミトン以外の疥癬の薬剤を解説していきます。
イベルメクチン
イベルメクチンは、ヒゼンダニや糞線虫などの無脊椎動物を殺虫して治療する駆虫内服薬です。
体重ごとに細かく決められた投与量の薬剤を1回服用して治療していきますが、イベルメクチンは卵には効果を示さないため、2回飲んで確実に治療していく方法が推奨されています。
また、重度型の疥癬の場合は1~2週間の間隔を空けて3回薬剤を服用することもあります。
イベルメクチンは高い効き目が得られる反面、副作用も強いため、持病がある方や小児、妊産婦への使用が難しいとされています。
これに当てはまる方に対しては、イベルメクチン以外の治療薬が処方されます。
フェノトリン
フェノトリンが配合されたスミスリンローションは、疥癬の原因となるヒゼンダニの神経を麻痺させて殺虫する外用薬で、全身にくまなく塗布することで、ヒゼンダニを完全に駆除することができるほど効果が高いのが特徴です。
フェノトリンを全身に塗布して12時間以上の時間を置くことを、1週間間隔で2回行い治療していきます。
これは1回目でヒゼンダニの成虫を駆除し、2回目で卵から産まれた幼虫を駆除するという目的のためです。
フェノトリンにも副作用はありますが、ヒリヒリ感やかゆみといった皮膚症状などの軽度なものが多く、全身の副作用はありません。
小児や妊産婦でも禁止されていないことからも、イベルメクチンの使用が難しい方も使用しやすい薬剤と言えるでしょう。
イオウ剤
イベルメクチンやフェノトリンと比較すると推奨度は低いですが、イオウ剤も疥癬に効果がある薬剤とされています。
クロタミトン同様に古くから治療薬として使用されてきたイオウ剤は、1日1回患部に塗布して24時間待ってから洗い流すのを2~5日間、または1週間繰り返します。
副作用には過敏症状や皮膚炎などがあり、妊産婦の使用は禁止されています。
疥癬に使用してはいけないステロイド外用薬
これまで紹介してきた疥癬の治療薬であるイベルメクチンやフェノトリンには殺虫効果はあるものの、皮膚のかゆみを抑える効果はないため、抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬をかゆみ止めとして使用していきます。
ただし、この時にステロイド外用薬を使用するのは避けてください。
アトピーや湿疹などの幅広い皮膚症状に高い効果を示すステロイド外用薬ですが、疥癬には効果がないばかりか、使用すると免疫力を下げて、症状を余計に悪化させてしてしまう危険性があります。
同様の理由で、ステロイドではない免疫抑制剤も使用を避けましょう。
治療が進んでヒゼンダニが検出されなくなった段階であれば、ステロイドの使用は問題ないとされています。
疥癬の対策
効果的な治療薬が開発されたとはいえ、人同士で感染を起こす疥癬は厄介な病気であることに変わりありません。
ここでは疥癬にかかってしまった時の対策についてお伝えしていきます。
感染者を隔離する
ヒゼンダニの数が少ない通常疥癬であれば感染力が強くないため、隔離の必要はないとされていますが、角化型疥癬の場合はヒゼンダニの数が多く、感染力が強いことから短時間の接触でも感染してしまう恐れがあります。
角化疥癬の場合は患者さんを個室に隔離し、治療が完了する約1~2週間は気をつけて対応していくことが大切です。
また、通常疥癬であっても、患者さんが身につけていた衣服や布団のシーツにヒゼンダニがついていることがあるので、洗濯するまで共用は避けましょう。
布団を並べて寝ることもダニが移る可能性があるため、やめてください。
衣類はお湯につけてから洗濯
使用した衣類やシーツは50℃以上のお湯につけてから、洗濯機にかけましょう。
ヒゼンダニは熱に弱いので、天日干しや乾燥機、アイロンなども有効です。
また、使用したものを洗濯機に運ぶ時には、ヒゼンダニが落ちることのないように、ビニール袋に入れて運ぶことも大切です。
入浴は最後が好ましい
清潔を保つことは重要なので、できるだけ毎日入浴しましょう。
この時、患者さんは最後に入浴するようにして、他の方に感染を広げないようにしてください。
お風呂で身体を擦るとヒゼンダニが生息している皮膚が剥がれ落ちるため、入浴後の掃除や換気は丁寧に行うとよいでしょう。
清潔を心掛ける
部屋にはヒゼンダニが寄生していた皮膚がはがれ落ちているので、掃除機で掃除を行います。
この時、皮膚が舞い上がらないように部屋の窓を開けてしっかり換気をすることが大切です。
また、自身が感染しないためにも、掃除や看護をした後は必ず手を洗うようにしてください。
疥癬はアルコール消毒が効かないので石?で手を洗い、感染拡大を防ぐためにもタオルの共用は避けるようにしましょう。
クロタミトンなどの薬剤で疥癬を治療しよう
疥癬はヒゼンダニが人間の皮膚に寄生する感染症で、人から人へと広がる厄介な病気です。
赤いブツブツができて眠れないほどの辛いかゆみが起こる疥癬は、古代ギリシャ・ローマ時代から人間を苦しめてきましたが、1940年代のクロタミトンを皮切りに様々な治療薬が開発され、近年ではイベルメクチンやフェノトリンによって比較的スムーズに治療できるようになりました。
しかしながら、この現代においても病院や介護施設で集団感染が発生している現状があり、感染を広げないためには正しく対応していく必要があります。
疥癬に感染したと疑う時には放置せずに、薬剤を使って効果的に治療していくことが大切と言えるでしょう。