皆さんは、誰もがなりうる「敗血症」という病気をご存じでしょうか。
敗血症は、ちょっとした感染症が原因で起こることもある病気で、その症状は全身におよび、死に至ることもあります。
しかし、そんな敗血症の治療に、一つの光が見え始めました。
それが、今回の記事でご紹介するイギリスの新しい検査です。
この検査では、45分で敗血症かどうか見極められるので、敗血症患者の重症化や、死亡率を下げられるというのです。
敗血症とは?
まずは、敗血症が何か、もう少し説明しましょう。
敗血症とは、体内で発生する感染症に対する免疫反応が過剰に働き、臓器や組織に深刻な障害を引き起こす病態です。
通常、感染症が原因で引き起こされる炎症反応は身体を守るために機能しますが、敗血症ではその反応が制御できなくなり、全身に影響を及ぼします。
結果として、臓器の働きが低下し、命に関わる状態に進行することも少なくありません。
敗血症は集中治療室(ICU)での管理が必要になることが多く、治療が遅れると生命の危険を伴う可能性が高まります。
敗血症が引き起こされる原因
敗血症の原因となるのは、体内で発生した感染症です。
一般的な感染症でも、悪化すれば敗血症に至るリスクがあります。
細菌が原因となるケースが多く、特に肺炎や尿路感染症、皮膚感染症、腸管感染症が主な感染源として挙げられます。
特定の病原体、例えばブドウ球菌や大腸菌、連鎖球菌などが関与することが多いです。
敗血症は、どんな感染症からも発生する可能性があり、特定の身体の部位に限らず、全身に影響を及ぼすことがあります。
軽い感染症が引き金となることもあるため、日常的な感染症にも注意が必要です。
敗血症の症状と兆候
敗血症の症状は、特定のひとつの症状に限定されることがなく、複数の異なる症状が一度に現れることが多いです。
代表的なものとしては、以下のようなものがあります。
- 悪寒
- ふるえ
- 発熱
- 全身の痛み
- 皮膚が冷たい
- 意識障害
- 呼吸困難
- 息切れ
- 頻脈
これらの症状は感染症の進行によって悪化することがあり、敗血症の兆候を見逃すとショック状態に陥る可能性もあります。
敗血症になりやすい人
敗血症は免疫力が低下している人々に発生しやすい病気です。
たとえば、65歳以上の高齢者や1歳未満の乳児、さらに慢性的な疾患(糖尿病や悪性腫瘍など)を抱えている人々が、敗血症にかかるリスクが高いとされています。
また、免疫抑制剤を使用している患者さんや、がんの治療を受けている人々も、免疫機能が低下しているため感染症にかかりやすく、結果として敗血症に至るリスクが増します。
特に、がん患者は化学療法によって免疫力がさらに低下するため、通常の感染症でも重症化する可能性が高くなります。
白血球の減少など、免疫系の機能が十分に働かない状態では感染症が進行しやすくなるため、定期的な血液検査で身体の状態を確認することが推奨されています。
敗血症の診断と治療
現段階での敗血症の診断は、臓器障害の兆候や感染症の存在を確認するために、様々な検査が行われます。
敗血症の症状が他の疾患と似ているため、早期の診断は難しいこともありますが、発熱や低血圧、心拍数や呼吸数の増加などが主な診断基準となります。
医師はこれらの症状を基に、感染症のコントロールと臓器保護のために治療を開始します。
治療には主に抗菌薬の投与が行われ、感染の原因となる病原体を攻撃します。
また、必要に応じて感染部位の外科的切除や、輸液療法、酸素療法などの全身管理が行われます。
重症化した場合は、人工呼吸器や人工透析などが必要になることもあります。
敗血症からの回復とリハビリ
敗血症からの回復は、集中治療の後に開始されるリハビリテーションで行います。
敗血症を克服した後も、身体や精神に後遺症が残ることがあり、回復には時間がかかることがあるのです。
リハビリの初期段階では、日常生活に戻るための基本的な活動、例えば座る、立つ、歩くなどの動作を再び自力で行えるようにトレーニングが行われます。
敗血症に関連する後遺症としては、筋力低下、関節痛、精神的な問題(記憶力低下や集中力の欠如)、さらには臓器機能の障害などが報告されています。
これらの後遺症は、敗血症の治療後に徐々に現れることが多く、場合によっては数ヵ月にわたって影響を及ぼすことがあります。
敗血症の予防策
敗血症の予防には、日常的な感染症の予防が不可欠です。
特に、上記で挙げた敗血症になりやすい人に当てはまるなら、感染症にかからないよう注意を払う必要があります。
予防策としては、インフルエンザや肺炎球菌に対するワクチン接種が有効です。
また、手洗いやうがい、傷口の適切な処理など、衛生管理を徹底することも感染予防に効果があります。
このように、敗血症は誰にでも発症する可能性があり、早期の対応が生死を分ける鍵となります。
日常生活での感染予防策を徹底し、早くに医師に頼ることが、敗血症から自分や家族を守る最善の方法です。
敗血症の画期的な血液検査とは?
2023年12月18日、イギリスで敗血症に関する新しい血液検査の試験が始まったという記事が発表されました。
この検査は、敗血症のリスクがある患者さんを迅速に診断し、治療に結びつけるための画期的な方法として注目されています。
敗血症は「血液の中毒」とも呼ばれ、診断が難しい疾患です。
現在のところ、敗血症を特定できる検査は存在せず、症状が進行すると多臓器不全や死に至るリスクが高くなります。
英国敗血症財団のデータによると、毎年英国では約4万8000人が敗血症によって亡くなっているとのことです。
病床でできる初の検査
今回試験されている新しい検査は低コストで、患者さんの血液サンプルを用いてわずか45分以内に敗血症に関連するDNAの断片を検出できるとされています。
特に、救急科や病棟での患者監視に利用できる点が大きな利点です。
この検査により、敗血症が進行するリスクの高い患者さんを素早く特定し、適切な治療を開始できるようになります。
早期に治療を行うことで、患者さんが重症化するのを防げるのです。
敗血症は、感染に対する身体の免疫システムが過剰に反応することで発生します。
免疫細胞の一種である好中球が感染を捉え、さらに広がるのを防ぐためにDNAの網状構造を放出します。
これを「好中球細胞外トラップ(NET)」と呼びます。
この過剰な反応が臓器損傷を引き起こし、敗血症の進行に繋がります。
今回の検査は、このNETに含まれるタンパク質を検出することで、敗血症リスクを評価します。
NETを直接検出できる検査が病院の枕元で利用できるのは、今回が初めてのことだそうです。
患者さん450人の血液サンプルを使用
この記事では、試験は2023年11月27日に始まり、ガイズ・アンド・セント・トーマスNHS財団トラストで行われていると紹介されていました。
研究では、敗血症や敗血症性ショックを患っている患者さん450人の血液サンプルからタンパク質レベルが調査されます。
この検査の特筆すべき点は、追加の血液採取を必要とせず、既存のサンプルで行えることです。
現在の血液検査と比較しながら、敗血症のリスクを高精度で判別できるかが試験の焦点となります。
敗血症は診断が遅れることで治療が難しくなり、死亡率も上昇するため、迅速な対応が必要です。
今回の試験が成功すれば、この検査は臨床医が重症患者をより早く識別するための重要なツールとなり、集中治療の優先順位を決める際に役立つことが期待されています。
さらに、敗血症に関する新たな治療法の研究も進行中で、NETの役割に焦点を当てた研究も注目されています。 NETを制御することが、新たな治療の鍵となるかもしれません。
アンドリュー・レッター博士の見解
また、この記事には、今回の研究を指導しているガイ病院とセント・トーマス病院の救命救急医であるアンドリュー・レッター博士のコメントも掲載されていました。
博士によると、敗血症の早期発見は患者さんの命を救う上で極めて重要で、治療が1時間遅れるごとに死亡率が最大で8%も増加するとされています。
また、敗血症は病院における死亡原因の第1位であることにも触れています。
つまり、迅速な診断と治療が患者さんの生存率を大きく左右するのです。
この血液検査が導入されれば、敗血症のリスクが高い患者さんを早くに見つけ出し、必要な治療を迅速に行うことが可能になります。
これは、毎年何千人もの命を救う可能性がある大きな進展です。
ロン・ダニエルズ博士の見解
さらに、英国敗血症トラストの共同CEOであるロン・ダニエルズ博士も記事の中でコメントを寄せていました。
彼は、敗血症は英国の医療システムにおいて回避可能な死亡原因の一つであり、診断の遅れは命だけでなく、治療費の増加や長期的な障害など、患者さんの生活に深刻な影響を与えると述べています。
今回の検査が成功すれば、緊急を要する患者さんを特定し、適切な治療を行うことで命が救われると期待されています。
日本における敗血症の現状
最後に、日本の敗血症についてご紹介します。
日本における敗血症の現状も深刻であり、年間の死亡者数は約10万人と推定されています。
この数は年々増加傾向にあり、入院患者における敗血症の割合も増加しているそうです。
2017年のデータでは、入院患者全体の4.9%が敗血症患者でした。
敗血症患者の年齢の中央値は76歳と高齢者が中心であり、併存疾患としては悪性腫瘍や高血圧、糖尿病などが多く見られます。
感染源としては呼吸器感染症が最も多く、敗血症に伴う臓器障害では特に呼吸不全が多く報告されています。
これらの背景から、高齢者や基礎疾患を持つ人々にとって、敗血症は依然として重大な健康リスクとなっていることがわかります。
まとめ
今回の検査から、敗血症という疾患がいかに迅速な診断と治療が必要か、そして新しい検査がどれほどの可能性を秘めているかがわかります。
イギリスで行われているこの試験が成功し、世界中で同様の検査が導入されれば、敗血症による死亡者数が大幅に減少するかもしれませんよね。
実際、救急搬送されても、対処方法を探すための検査に何時間もかかり、その間ずっと患者さんが苦しまなければならない事例がたくさんあります。
このような患者さんが苦しむ時間が、最新の技術や発見によって少しでも減ればいいなと思います。