特に近年、LGBTという言葉は広く認知されるようになってきましたね。
セクシャルマイノリティーに属する人々がより自分らしく生きられる社会づくりは、多くの国で課題となっているのではないでしょうか。
そんな今、この記事でご紹介するのは、イギリスで2024年に始まったLGBT専門の医療サービスです。
多様性を認める社会を成り立たせるための一歩と言えるのでしょうか。
日本でのLGBT医療問題に関する取り組み
海外の取り組みを知る前に、まずは日本におけるLGBT医療問題への対応についてご紹介します。
以下は、大阪大学医学系研究科の学生による、2019年の論文に記載があった取り組みです。
神奈川県での研修プログラム
2012年から2014年にかけて、神奈川県民主医療連合会の協力のもと、男性同性愛者を中心とした当事者による研修が行われたこともあったそうです。
この研修では、看護師や介護福祉士を対象に、性的マイノリティへの理解を深めるための教育が行われました。
看護教育における対談シリーズ
2014年6月から2015年2月にかけて、看護教育誌においてLGBT当事者による対談が連載されたこともあるそうです。
このシリーズでは、女性同性愛者の医学科6年生と看護学科4年生が、LGBTと医療に関する様々な問題について議論しました。
ゲストを招き、LGBTの定義から実際の医療現場での課題に至るまで解説したそうです。
QWRCによる冊子の発行
2011年には、性的マイノリティの当事者と支援者によって構成されるNPO法人QWRCが、「LGBTと医療・福祉」という冊子を発行しました。
これは、医療・福祉関係者向けに、LGBTの医療ニーズに関する知識を提供する目的で作成されたものです。
2016年1月にはこの冊子の改訂版が発行され、多くの医療関係者に配布されました。
全国大会での取り組み
全国規模のイベントとして、2014年までに「セクシュアルマイノリティと医療・福祉・教育を考える全国大会」が2回開催されました。
この大会では、LGBTと医療に関するケーススタディやエイズ予防に関するパネル展示、聴覚障害を持つLGBTへの対応についての講演・ディスカッションなどが行われました。
さらに、2016年8月には、愛媛県松山市で第3回大会が開催され、NPO法人レインボープライド愛媛が主催しました。
日本のLGBTの医療は「意識改革」に留まる
日本でも、上記のようにLGBTの医療に対する取り組みはたくさんあります。
しかし、これらはどれもLGBTに対する意識改革であり、具体的なサービスの開始につながっていない点が気になるところです。
例えば、神奈川県での研修プログラムの前後で実施されたアンケート調査によると、多くの参加者が「視野を広げる必要性を感じた」や「偏見を自覚できた」といった意識の変化を報告しています。
もちろんこのこと自体はとても良いことですし、意識改革なしに新たなサービスは開始できないと言っても良いでしょう。
病院単位でならLGBTフレンドリーなところもありますが、国家規模ではないため、サービスを受けられる人が限られてしまいます。
しかし、以下でご紹介するのは、イギリスの国を挙げての具体的なサービスの開始です。
しかも、これからどんどん拡大する予定で、さらに最初から改善予定までプランに入れているのですから、日本より先を行っています。
どんな取り組みか見ていきましょう。
イギリスのLGBT専門の医療サービスとは?
NHSが提供する新たなジェンダー専門のサービスは、2024年4月に開始しました。
NHSはNational Health Serviceの略で、イギリスの国民保健サービスのことです。
つまり、国を挙げての新たな試みということになります。
若者向けサービスとして医療の専門家が連携
LGBT専門の医療サービスは、子どもや若者向けに、ジェンダーに関する課題を抱える人々への支援を行うことを目的としています。
特に精神的、感情的、社会的ニーズに焦点を当て、総合的なケアを提供する体制が整えられています。
今回の取り組みは、ジェンダーに関する支援を必要とする子どもたちの数が急増していることを受けて実現したものだそうです。
新たなサービスの開始は、NHSにおける長年の課題解決の一環としても注目されています。
英国国内では、特にジェンダーに関する問題が社会的に大きな議論を呼んでおり、その結果としてケアを求める子どもや若者の数が急増していました。
この背景には、近年のメディアや教育機関でのジェンダーに関する議論の広がりや個人のアイデンティティに対する理解が進んできたことが挙げられるとのことです。
NHSの広報担当者は、「このサービスの開始により、最初の診察が既に行われている」と述べており、実際に稼働が始まっていることがわかりました。
この新サービスでは、医師や精神衛生の専門家、青少年支援者など、他分野にわたる専門家が連携し、子どもたちが必要とする様々なサポートを提供します。
ジェンダーに関する支援を必要とする子どもたちは、心理的な側面のみならず、身体的な健康も含めた包括的なケアを受けられると言います。
決められたガイドラインでしっかりした体制に
このサービスは、NHSイングランドのガイドラインに従い、キャス博士によるレビューの中間報告に基づいて運営されています。
最終報告が提出されるまで、引き続きこのガイドラインに沿って運営される予定です。
現行の医療体制の中で最適なケアが提供できるよう、専門チームは常に最新の体制を取り入れ、適応することが求められています。
このLGBT専門サービスは、エヴェリーナ・ロンドン小児病院、グレート・オーモンド・ストリート小児病院、サウスロンドン・アンド・モーズリーNHS財団トラストの共同で運営されています。
これらの病院は、それぞれ小児科やメンタルヘルスにおける専門知識があり、連携することで包括的なサポートができるとのことです。
それぞれの専門家の意見
グレート・オーモンド・ストリート小児病院の最高経営責任者(CEO)であるマシュー・ショー氏は、LGBT専門の医療サービスについて、「複雑な健康問題を抱える子どもたちが、最大限の潜在能力を発揮できるよう支援することが我々の使命であり、このサービスはその一環です」と述べています。
さらに、エヴェリーナ・ロンドン小児病院のCEOであるガビー・アイダ氏も、子どもや若者の健康と福祉の向上に全力を尽くす意欲を示しました。
サウスロンドン・アンド・モーズリーNHS財団トラストのCEO、デイビッド・ブラッドリー氏も、ジェンダーに関する支援の拡大の必要性について触れ、「私たちはメンタルヘルスの提供者として、この新しいサービスを通じ、積極的に役割を果たしていくことが重要です」とコメントしています。
この新サービスの重要な点は、ただ診察や治療を行うだけでなく、子どもや若者のジェンダーに関する問題に対て、感情的、精神的な側面を含めた包括的な支援が行われることです。
子どもたちが自分に合ったケアを受けられることには、大きな意味があるでしょう。
ジェンダーに関する問題の多くは、本人だけでなく、家族や学校、地域社会にも影響を及ぼすことが多いため、それぞれのケースに応じた柔軟な対応が求められます。
NHSはこのサービスを通じて、子どもや若者の精神的な健康を保つために支援を強化し、家族や学校と連携してその効果を最大限に引き出すことを目指しています。
サービスをイギリス国内で7~8ヵ所拡大予定!
また、NHSは全国で最大8か所の地域センターを設置することを提案しており、ロンドンと北西部の2つの地域センターがその先駆けとなります。
この地域センターは、一般開業医や地域のメンタルヘルスチームとも連携し、地域社会全体で子どもたちのケアに貢献できる体制を整えています。
アルダーヘイ小児NHS財団トラストやロイヤルマンチェスター小児病院とのパートナーシップによって、地域ごとに適切な医療と精神的ケアを提供するためのネットワークが強化される見込みです。
これまでNHSが提供していたジェンダー関連のサービスは、いくつかの地域に限られており、特定の専門機関のみが対応していました。
そのため、待機リストに登録されている子どもたちが長期間ケアを受けられないという課題が浮き彫りとなっていました。
特に、タヴィストック・アンド・ポートマンNHS財団トラストが長年担当していたジェンダーアイデンティティ開発サービスは、唯一の選択肢であったため、多くの子どもや若者がそのサービスに頼らざるを得ない状況でした。
しかし、今回の新しいサービスの導入により、子どもたちの待ち時間が短縮されることになりました。
待機リストに登録されている子どもたちは2024年後半から紹介を受けられる予定であり、サービス提供の準備が進められています。
スタッフの募集も2024年4月2日時点で継続中で、最も適任な人材を採用し、コミュニティ基盤を確立する努力が続けられています。
NHSはこの新しいジェンダーサービスを通じて、思春期抑制ホルモンや性別適合ホルモンに関する方針に従う形で、子どもたちのケアを提供しています。
また、一般開業医とも連携し、子どもや若者のジェンダーに関する支援が行われるよう計画が進められています。
サービス改善の予定まで明確
今後もNHSは、ジェンダーに関する最新の研究やデータを基に、サービスの質を向上させるための取り組みを続けていく予定です。
新たなサービスが提供される地域センターでは、定期的にフィードバックを集め、サービスの改善を図っていくとのことです。
このフィードバックは、利用者だけでなく、その家族や関係者からも広く収集される予定であり、子どもや若者が安心して利用できる環境を整備するために役立てられます。
まとめ
今回ご紹介したイギリスのLGBT医療に対するサービス、皆さんはどのように思いますか?
白人や黒人、黄色人種など、様々なバックグラウンドを持った人たちが集まり、日本のように出る杭が打たれる文化でない国や地域では、多様性に対して寛容なのでしょうか。
医療においては日本も海外に引けを取りませんが、LGBT専門サービスについては、外国を見習えるかもしれませんね。