現在、認知症治療薬の開発は全人類の希望になると言っても過言ではないでしょう。
実は、その一歩と言える進歩が今回ご紹介する新薬「レカネマブ」です。
しかし、アルツハイマー病治療に新たな光明をもたらすと期待されていたレカネマブですが、イングランドの国民保健サービス(NHS)での使用が見送られることになりました。
日本国内では、どちらかというと「やっと新薬ができた!」という喜びの声が多いように思いますが、BBCの報道はそうではなかったのです。
レカネマブとは?厚生労働省の説明
アルツハイマー病治療に新たな希望をもたらす革新的な薬剤、レカネマブ(商品名:レケンビ点滴静注)は日本で承認されています。
この画期的な治療法は、病気の根本原因に働きかけ、進行を抑制する国内初の薬剤として注目を集めています。
厚生労働省の説明によると、レカネマブは、2週間に1回、約1時間の点滴投与で行われるとあります。
この治療法は、アルツハイマー病による軽度認知症や軽度認知障害の方々が対象です。
ただし、治療を受けるには、脳脊髄液検査またはアミロイドPET検査によって、脳内にアミロイドβタンパク質の蓄積が確認されていることが条件となります。
臨床試験では、レカネマブの使用により認知機能障害の悪化が抑制されることが示されました。
18ヵ月の治療期間中、症状の進行が27.1%抑えられたという結果が報告されています。
しかし、どの薬にも副作用はつきものであり、レカネマブも例外ではありません。
治療開始初期には、点滴時に頭痛、寒気、発熱、吐き気などの症状が現れる可能性があります。
さらに重要な注意点として、特に治療開始から数ヵ月以内に、脳の腫れや軽度の出血が生じる可能性が報告されています。
レカネマブは、アルツハイマー病治療の新たな章を開く可能性を秘めているというのが、日本の見解でしょう。
アルツハイマー病との闘いは長く困難な道のりですが、レカネマブの登場は、確かにこの疾患に対する理解と治療法の進歩を示す重要な一歩となりました。
今後も研究が進み、さらに効果的で安全な治療法が開発されることが期待されていますし、あまり否定的な意見は見られないように思います。
イギリスBBCはレカネマブに否定的?
レカネマブは、アルツハイマー病の進行を遅らせる効果が臨床試験で確認された画期的な薬剤です。
BBCでも、初期段階の患者の認知機能低下を約25%遅らせることができると紹介されています。
また、この結果は、これまでのアルツハイマー病治療薬にはない効果であり、多くの専門家から高い評価を受けたとの述べています。
しかし、実は複数の理由から否定的な立場を示しており、日本との差が興味深いところです。
どのような点で否定的なのか掘り下げていきましょう。
理由①効果がコストに見合わない
英国国立医療技術評価機構(NICE)は、レカネマブの効果がコストに見合わないとして、NHSでの使用を推奨しないという厳しい判断を下しました。
NICEの医薬品評価ディレクター、ヘレン・ナイト氏は、「レカネマブは軽度から中等度のアルツハイマー病の進行速度を平均4~6カ月遅らせるが、これはNHSへの追加コストを正当化するほどの効果ではない」と述べていることに注目です。
この決定の背景には、レカネマブの治療にかかる高額な費用があります。
薬剤費だけでなく、副作用の徹底的な監視や患者の頻繁な通院など、治療全体にかかるコストが膨大になることが指摘されています。
米国では患者1人当たり年間約2万ポンド(約370万円)かかるとされており、この金額がNHSの財政に与える影響は無視できないものだったわけです。
理由②副作用のリスク
さらに、レカネマブには副作用のリスクも存在します。
臨床試験では、MRIスキャンで小さな脳出血や一時的な腫れなど、いわゆるアミロイド関連画像異常(ARIA)が頻繁に発生することが確認されました。
これらの症状の多くは軽度または無症状でしたが、一部の参加者は入院治療が必要となったのです。
このリスクも、NICEの判断に影響を与えたと考えられますよね。
イギリスでは、民間では例外的にレカネマブの処方が可能です。
しかし、アポリポタンパク質E4遺伝子(ApoE4)のコピーを2つ持つ人(アルツハイマー病と診断された人の約15%)や、血液凝固阻止剤を服用している人は処方対象外となっています。
やはり、副作用のリスクが難点となっているようですね。
イギリス国内でも分かれる意見
アルツハイマー病研究英国協会は、レカネマブの評価を「a bittersweet moment(ほろ苦い瞬間)」と表現しています。
アルツハイマー病の治療薬が生まれたことは嬉しいが、費用の割に効果がないことが残念だ、といった感じですね。
もちろん、イギリスにもレカネマブを評価する声もあり、政策責任者のデイビッド・トーマス氏は、「レカネマブの承認は画期的な出来事だが、NICEがNHSへの承認を行わない決定は非常に残念だ」と述べています。
また、ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジの認知症研究センターの顧問神経科医であるキャス・マメリー教授も、この薬剤を転換点だと評価しています。
「アルツハイマー病の進行を変えることができることを示す薬が初めて登場しました。
これは素晴らしいことです」とのこと。
一方、NICEの最高経営責任者サマンサ・ロバーツ博士は、介護者への利益を含め、入手可能な証拠を厳密に評価した上での決定であることを強調しています。
「納税者に良い価値を提供する」治療法しか推奨できないという原則に基づいた判断だと説明しています。
この決定により、イングランドでは約7万人がレカネマブによる治療を受ける機会を失うことになります。
ウェールズと北アイルランドは通常イングランドの医療ガイドラインに従うため、同様の対応となる可能性が高いです。
スコットランドでは、新たに認可された医薬品を評価する機関がまだ決定を下していません。
NICEによる最終決定は、公聴会を経て年末頃に下される予定だそうです。
この決定がアルツハイマー病患者とその家族、そして医療システム全体にどのような影響を与えるのか、今後の展開が注目されています。
また、この決定を受けて、アルツハイマー病治療薬の開発や評価の在り方についても、新たな議論が巻き起こるのではないでしょうか。
実際にレカネマブを使用した方の声
国民保健サービス(NHS)はレカネマブの使用を見送りましたが、実は、英国医薬品規制当局MHRAはレカネマブの使用を認可しており、例外的に民間では処方が可能です。
では、実際にレカネマブを使用した方の意見を聞いてみましょう。
臨床試験に参加している患者さんからは、レカネマブの効果を実感する声もありました。
例えば、90歳のメイビス・ギンさんは、英国でレカネマブを投与されている数十人のうちの一人です。
彼女の夫ロドニーさんは、「君がこの薬を飲み始めてから、僕たちは素晴らしい年月と楽しい時間を過ごしてきたよ」と語り、薬の効果を実感していることを明かしています。
レカネマブを使用した当人よりも、その家族の方が薬の効果がわかりやすいのかもしれませんね。 そして本人も、「私も薬に感謝しています。だって、それがあなたの人生を変えているんですから」と夫に応えていました。
ただ、現実問題、忘れていることも多いようで、「短期記憶は依然としてひどく損なわれている」という評価になっています。
レカネマブを使用した本人や家族の意見と、事実との差があるのは、いわゆるプラシーボ効果なのでしょうか。
日本でのレカネマブの評価
アルツハイマー病治療に革命をもたらす新薬レカネマブは、日本やアメリカでは承認されています。
イギリスでは微妙だった効果への評価については、既に失われた神経細胞を再生させることはできないため、発症前の軽度認知障害の段階や発症後の早期に投与することで妥協点を見出したのかなという印象です。
「効果があまりない」とネガティブに捉えるのではなく、「初期段階なら効果がある」と言い換えています。
エーザイ社と国際的な研究チームによる大規模臨床試験の結果が、権威ある医学雑誌「ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に掲載されましたが、東京大学の岩坪威教授は「症状の進行を遅らせるはっきりとした効果が確認された画期的な成果だ」と評価しています。
2023年1月、アメリカのFDA(食品医薬品局)も、「迅速承認」制度でレカネマブを承認しました。
これにより、深刻な病気の患者に対してより早く治療を提供することが可能となりました。
エーザイの内藤晴夫CEOは、アメリカでの薬価を患者1人当たり年間約350万円に設定したことを明らかにし、3年後には早期のアルツハイマー病患者10万人が対象になるとの見通しを示しました。
このように、日本もアメリカも、レカネマブに対しては高評価の意見が多いように見受けられました。
薬にはリスクがつきものですから、軽度の方のみに処方することなど、制限を設けて承認したのでしょう。
このあたりは国ごとに判断が分かれるところですね。
まとめ
レカネマブの登場は、アルツハイマー病患者とその家族に大きな希望をもたらすと同時に、早期診断・早期治療の重要性をさらに高めています。
症状進行の遅延により、患者の生活の質が向上し、長期的な介護負担が軽減される可能性があります。
しかし、高額な治療費に対する保険適用や助成制度の整備、早期診断技術のさらなる向上と普及、副作用のモニタリングと管理の徹底など、課題も残されています。
また、より効果的で安価な次世代治療法の開発も期待されています。
レカネマブが合う人がいるならば早く処方されてほしいですが、費用と副作用の問題をクリアする薬がない限りは、全世界で使用するわけにはいかないようです。