子どもの頃に検査した経験がある方も多いであろうぎょう虫検査は、体内にぎょう虫がいないかを確認するための検査でした。
感染の可能性が低くなったことを理由にぎょう虫検査は2016年に廃止されましたが、人間に寄生する虫は古来より人々を悩ませ、苦しませてきました。
今回は人間に寄生する虫と、寄生虫を駆除する駆虫薬について解説していきます。
日本国内では衛生状態が改善し、以前より感染率は低下してきたとはいえ、未だ人間を脅かす寄生虫について学んでいきましょう。
人間に寄生する虫とは
人間や動物に寄生する虫のことを寄生虫といい、過去には日本人の7割以上の感染が確認されていたほどの国民病でした。
現在、衛生状態の改善により感染率は大幅に低下しているものの、近年のペットブームも相まって動物から人間に感染するケースは少なくありません。
ここではまず寄生虫とはどんなものなのか、感染するとどんな症状が起きるのかを確認していきましょう。
寄生虫とは
寄生虫は人間や動物の体表や体内にとりつき、住みついたり宿主の栄養を奪ったりして生きている生物です。
この定義は細菌やウイルスなどにも当てはまりますが、寄生虫という場合は単一細胞で構成される原虫や、複数の細胞から構成され内臓器官をもつ蠕虫のことを指します。
- 原虫:赤痢アメーバ、マラリア、膣トリコモナスなど
- 蠕虫:ぎょう虫、アニサキス(回虫の一種)、エキノコックス(サナダムシの一種)など
原虫は人間の体内で細胞分裂をして増殖しますが、蠕虫は成長した後に人間に感染するのが特徴です。
寄生虫に感染した時の症状と感染経路
人間が寄生虫に感染すると様々な症状を引き起こしますが、症状は寄生虫の種類によって異なります。
ここでは、耳にすることの多い寄生虫の具体的な症状と感染経路を解説します。
回虫
アニサキスに代表される回虫が人間の腸内で増えると、腸閉塞が引き起こされて腹痛や吐き気、腹部の腫れなどが現れ、さらに回虫の幼虫が肺に移ると発熱や咳、喘息が起きることもあります。
特に子どもは回虫によって栄養不足となり、体重が増加しないなどの成長が妨げられる危険性もあります。
回虫は受精卵を飲み込むことで感染が起きるため、回虫に汚染された食品や手の衛生には注意を払うことが大切です。
また、人間は豚からブタ回虫に感染するケースもあるため、豚の扱いには注意する必要があります。
サナダムシ
サナダムシが人間の身体の中に入ると、吐き気や下痢などの消化器症状や体重減少が起こるのが一般的ですが、自覚症状が出ない可能性もあります。
ただし、エキノコックスなどのサナダムシが眼球や脳に入り込んで有鉤嚢虫症を発症すると視覚障害や四肢麻痺、意識障害などを引き起こし、最悪の場合は死亡する危険性もあります。
サナダムシは魚類や肉類に寄生していることが多く、日本国内においてもサクラマスやトキシラズなどから感染したという報告が複数あります。
また、不衛生な環境で育った牛や豚に寄生しており、調理不十分な汚染された肉を食べることでも感染します。
北海道ではキツネや野ネズミに寄生していることが多いことから、キツネに触れないように注意を呼びかけています。
ぎょう虫
人間がぎょう虫に感染すると肛門付近にかゆみが現れ、尿道炎や肝炎、膣炎などを引き起こすことがあります。
感染当初は無症状であったとしてもぎょう虫の産卵を経て、数ヵ月後にかゆみなどの症状が現れ、注意力低下や睡眠障害を併発する可能性があります。
ぎょう虫は経口感染するので、感染者の便に汚染された手に触れたり、汚染された手で触った食べ物から移ったりするとされています。
また、感染者の使用した衣類や寝具などから口に入ることにも注意が必要です。
その他の寄生虫
ここまで挙げたもの以外にも様々な寄生虫がおり、人間に寄生するものだけでも世界で約200種類存在しています。
その中には経口感染ではなく、皮膚から寄生する寄生虫もいます。
皮膚から感染する寄生虫は、皮膚を破って侵入するものや寄生虫に感染した昆虫が媒介生物となって感染させるなどにより寄生するのが特徴です。
そのため、裸足で歩いたり、池や川などで水遊びをしたりする場合は、十分注意してください。
人間に感染した寄生虫を駆除する駆虫薬
このように寄生虫に感染することで身体に悪影響が及び、放置することでさらに重篤な症状を引き起こす危険性もあるため、寄生虫に感染した時には駆虫薬でできるだけ早めに治療することが大切です。
駆虫薬は、寄生虫を殺したり体外排出したりする効果がある寄生虫の治療に使用される薬剤で、別名「虫下し薬」とも呼ばれます。
駆虫薬は宿主となる人間には作用せず、寄生虫に対してのみ効果を発揮するとされています。
また、使用すべき駆虫薬は寄生虫の種類によって異なります。
メトロニダゾール
メトロニダゾールは赤痢アメーバや膣トリコモナスなどの寄生虫の駆除に使用される駆虫薬で、寄生虫の細胞内に侵入してDNAを破壊する作用があります。
主な副作用には下痢や食欲不振などがあり、重篤な副作用として末梢神経や中枢神経の障害や四肢の痺れなどが報告されています。
メトロニダゾールの市販薬はないため、使用するためには医療機関で処方してもらう必要があります。
プラジカンテル
プラジカンテルは肝吸虫・肺吸虫・横川吸虫に使用する駆虫薬で、寄生虫の膜構造を破壊して致死させる効果があります。
サナダムシにも効果があるとされ、服用量は体重によって細かく分類されているのが特徴です。
副作用には赤血球減少や血小板減少、嘔吐、頭痛などがあるため、違和感が現れた時にはすぐに医療機関を受診しましょう。
また、眠気にも注意が必要で、服用後の運転や機械操作は避けてください。
動物用のプラジカンテルは市販されていますが、人間用のプラジカンテルは処方薬のみの扱いです。
必要な時には医療機関を受診しましょう。
ピランテル
ピランテルはぎょう虫やアニサキスなどの回虫を駆除する薬剤で、寄生虫を麻痺させて体外へ排便させる効果があります。
服用は1回だけというのが特徴的で、体重ごとに服用量が細かく決められています。
副作用は稀に腹痛や吐き気が現れることがありますが、ほとんど心配ないと言われています。
ピランテルの市販薬にはぎょう虫の駆除薬として佐藤製薬から「パモキサン錠」が販売されています。
イベルメクチン
イベルメクチンは、糞線虫や疥癬などの神経や筋細胞に麻痺を起こして致死させる効果のある薬剤です。
イベルメクチンも体重ごとに細かく投与量が決められているので、用量を正しく守るようにしてください。
腹痛や嘔吐などの消化器症状、低血症、眠気などの副作用に加え、中毒性表皮壊死融解症や肝機能障害、昏睡などの重篤な副作用が起きる可能性があります。
もし体調に異変を感じた時には、すぐに医療機関を受診しましょう。
イベルメクチンは薬局やドラッグストアなどでは市販されていませんが、個人輸入代行のお薬ネットでは「イベルヒール」という商品が購入できます。
イベルヒールは抗ウイルス剤としての作用があり、新型コロナウイルスの治療や予防にも効果を示すという論文も発表されている、現在注目されている薬剤の1つです。
寄生虫に感染しないために
これまで寄生虫の種類や感染した時の症状に加え、有効な治療法としての駆虫薬について解説してきました。
しかしながら、病気はまずかからないことが大切です。
ここでは寄生虫に感染しないために気を付けるべきポイントを3つ紹介していきます。
清潔を保つ
寄生虫には糞便を介して感染するものも多々あるため、汚染された部分が触れたものから感染が広がることがあります。
トイレに行ったら手をよく洗うなど基本的なことはもちろん、感染者が使用した衣類や布団などは洗濯・外干しをして消毒しましょう。
また、汚染された手で調理した食事から経口感染することもあるため、特に調理をする人はより衛生面に気を遣うことを心掛けてください。
調理法を工夫する
食品の中にも様々な種類の寄生虫がいることがあり、それを食べてしまうことで激しい腹痛や嘔吐などを引き起こしてしまう可能性があります。
近年、話題に挙がることの多いアニサキスはサンマやアジ、イカなどを生食することで感染します。
アニサキスを始めとする寄生虫は温度変化に弱いとされ、食品を中まで十分に加熱したり、低い温度で数日間冷凍したりすると死滅するものもいます。
また、野菜などにも寄生虫の卵がついている可能性があるため、しっかり洗い流すことが大切です。
海外では特に注意
日本国内では寄生虫に感染する人は少なくなりましたが、海外では未だ多くの人が寄生虫に苦しめられ、特に衛生状態があまり良くない地域では、より注意を払って行動する必要があります。
食事はしっかり中心部まで加熱されているものを選び、できるだけ素肌をさらさない、裸足で歩かないなどを心掛けましょう。
また、動物に触れたり、池や川などで泳いだりしないことも大切です。
海外では偽物の薬剤も横行していることを踏まえ、体調を崩した時のために薬剤を日本で用意して持参していくこともポイントの1つと言えるでしょう。
人間の寄生虫感染には駆虫薬が有効
古くから人間を苦しめてきた寄生虫の感染症は、過去には日本人の7割以上の感染が確認されていた国民病でしたが、現在その数は大幅に減少しています。
これは日本の衛生環境が向上したことが背景にありますが、一方でペットからの感染やアニサキスなどの寄生虫による問題が取り上げられることもしばしばあります。
人間の寄生虫感染には駆虫薬が有効であり、寄生虫の種類によって多種多様な薬剤が開発されています。
薬剤ごとに処方箋が必要なもの、薬局やドラッグストアで購入できるもの、個人輸入代行でネット購入できるものと様々です。
駆虫薬が必要となった時には、ご自身によってベストな方法で薬剤を調達し、できるだけ早めに治療を始めるとよいでしょう。