喘息やCOPDによる咳や息苦しさなどの発作を抑えるために使用するβ2刺激薬を使用していると動悸が起きることがあります。
この動悸はなぜ、どんな仕組みで起きるのか考えたことはありますか?
今回はβ2刺激薬の動悸を始めとした副作用の種類と起きる仕組みに加え、β2刺激薬の商品一覧や副作用リスクを下げるためにできることを解説していきます。
どの薬剤にも副作用は付き物ですが、正しく理解することでリスクを下げることは可能です。
本記事の情報を参考に、β2刺激薬についての知識を深めていきましょう。
β2刺激薬とは
β2刺激薬の副作用についてお話する前に、まずはβ2刺激薬とはどんな薬剤なのかを学んでいきましょう。
β2刺激薬は気管支にある交感神経が関わるβ2受容体を刺激して気管支を広げる薬剤です。
気管支に炎症が起きて気道が狭くなり、呼吸が苦しくなったり、辛い咳が続いてしまったりする喘息の発作時にまず使われるのがこのβ2刺激薬です。
また、喫煙が原因で気管支や肺胞がダメージを受けて呼吸が苦しくなってしまうCOPDにもβ2刺激薬が使用されることが多いです。
β2刺激薬の副作用と禁忌
喘息やCOPDの治療に使用されるβ2刺激薬ですが、動悸を始めとした様々な副作用が報告され、この副作用に伴い禁忌とされている疾患も定められています。
ここではβ2刺激薬における副作用を現れる理由も含めて1つずつ解説していきます。
動悸・頻脈
β2刺激薬は気管支を広げるために交感神経のβ2受容体を刺激することから、使用すると交感神経が優位な状態になる特徴があり、薬剤の作用によって交感神経が必要以上に優位になると頻脈や動悸が現れるとされています。
そのため、β2刺激薬を過剰に使用し続けると、呼吸を楽にするはずがかえって呼吸が苦しくなり、窒息症状を引き起こす恐れが出てきます。
動悸や頻度を防ぐためにも、指示された量と回数を守って適切に使用することを心掛けてください。
また、β遮断薬という交感神経のβ受容体への遮断作用がある血圧や頻度を抑える薬剤は、種類によってβ2受容体にも遮断作用が働いてしまう場合があるため、喘息などの患者さんには使用できないものがあることも覚えておくとよいでしょう。
低カリウム血症
カリウムはミネラルの1つで細胞内の浸透圧の調節や筋肉の収縮、神経の興奮などに関係している物質です。
このカリウムの血液中の濃度が低くなると低カリウム血症になり、脱力感・吐き気・多尿などの症状が現れ、重症になると意識障害を起こす場合もあります。
β2刺激薬は交感神経を刺激して細胞にカリウムを移行させる働きがあるため、血液中のカリウム濃度が下がって低カリウム血症を引き起こすケースがあります。
ただし、頻度は稀であるため過剰に不安にならず、万が一違和感が現れた時には速やかに医師か薬剤師に相談するとよいでしょう。
また、カリウムを多く含むバナナやほうれん草、牛乳などを食事に取り入れるのも低カリウム血症の予防に役立ちます。
血圧の上昇
交感神経を刺激するβ2刺激薬を使用すると血圧が上昇し、高血圧を悪化させる恐れがあります。
そのため、高血圧の方や心臓に疾患がある方は心不全などのリスクが高まるため、使用の際には定期的に血圧測定や心電図検査を行い、異常が出ていないことを確認してください。
用法用量を守って、できるだけ血圧上昇を引き起こさないよう注意しましょう。
β2刺激薬の一覧
β2刺激薬には吸入薬や内服薬、外用貼付薬があり、内服薬には錠剤・顆粒・ドライシロップ・シロップなどの剤型があります。
さらに効果持続時間によって次の2つのタイプに分類されています。
- 短時間作用型:吸入後すぐに効果が現れるが持続時間が短い
- 長時間作用型:効果が現れるまで時間がかかるが長時間作用する
ここでは効果持続時間ごとのβ2刺激薬の商品について解説します。
短時間作用型β2刺激薬(SABA)
短時間作用型β2刺激薬(SABA)はスピーディーに気管を広げる効果があるため、喘息の発作時に使用されますが、効果時間が短く約1~2時間で切れてしまうのが特徴です。
短時間作用型β2刺激薬(SABA)には次のような商品があります。
商品名 | 一般名 | メーカー |
---|---|---|
メプチン | プロカテロール塩酸塩水和物 | 大塚製薬 |
サルタノールインヘラー | サルブタモール硫酸塩 | グラクソ・スミスクライン |
ベネトリン | サルブタモール硫酸塩 | グラクソ・スミスクライン |
ベロテックエロゾル | フェノテロール臭化水素酸塩 | 日本ベーリンガーインゲルハイム |
短時間作用型β2刺激薬(SABA)の喘息の治療に古くから使用されており、使用すると数分で効果が実感できる薬剤ですが、過剰に使用しすぎると交感神経を過剰に刺激してしまい、動悸や頻脈などの副作用や窒息症状を引き起こす危険性があります。
そのため、短時間作用型β2刺激薬(SABA)は用法用量を守って正しく使用することが、非常に大切な薬剤です。
また、万が一、違和感が現れた場合には速やかに医療機関を受診してください。
長時間作用型β2刺激薬(LABA)
長時間作用型β2刺激薬(LABA)には炎症を抑える効果はないので、発作が起きている急性期ではなく、維持管理薬として定期的に使用していきます。
長時間作用型β2刺激薬(LABA)には次のような商品があります。
商品名 | 一般名 | メーカー |
---|---|---|
オンブレス | インダカテロールマレイン酸塩 | ノバルティスファーマ |
セレベント | サルメテロールキシナホ酸塩 | グラクソ・スミスクライン |
オーキシス | ホルモテロールフマル酸塩水和物 | アストラゼネカ |
長時間作用型β2刺激薬(LABA)の使用目的は、気管支を拡張させて呼吸を楽にすることです。
1日1回の吸入で24時間効果が持続するため、長時間作用型には喘息の発作発症予防のコントローラーとして、抗炎症作用のある吸入ステロイド薬などと併用して使われます。
用法用量を守って正しく使用していく限りは、重篤な副作用が起きる危険性はほとんどないとされていますが、だるさや力が入らないなどの症状が現れた時には低カリウム血症を起こしている可能性があります。
体調に不安を感じた時には、すぐに医療機関を受診してください。
β2刺激薬の副作用のリスクを下げるために
喘息やCOPDの治療に欠かせないβ2刺激薬について、これまで動悸を始めとした副作用を中心に解説してきました。
どんな薬剤も効果と副作用は表裏一体ですが、できるだけ副作用のリスクを抑えながら安全に使用していきたいというのが本心ではないでしょうか。
副作用のリスクを下げるために最も重要なことは、用法用量を守って正しく使用することです。
例えば、長時間作用型β2刺激薬(LABA)であれば1日1回決められた時間帯に吸入し、もし吸入を忘れた場合には翌日のいつもと同じ時間に吸入します。
短時間作用型β2刺激薬(SABA)も決められた回数を守って使用することが大切です。
そのためには、喘息発作や辛い症状が起きるのをできるだけ減らせるよう、生活を整えることが重要となります。
ここではβ2刺激薬の副作用リスクを下げつつ、喘息やCOPDを改善していく方法を紹介しますので、できる範囲から少しずつ生活に取り入れていきましょう。
喫煙・受動喫煙を避ける
タバコは気道の炎症を引き起こして血管透過性を高めるため、喘息症状を悪化させます。
さらに気道を過敏にし、喘息発作が起こりやすくなるデメリットもあることからも、喘息の治療のためには禁煙すべきと言えます。
また、他の人のタバコの煙を吸い込む受動喫煙は、自分で喫煙するのと同じくらい身体に悪影響を及ぼします。
そのため、喫煙所には近づかない、患者本人だけでなく周囲の人も禁煙するなどを徹底しましょう。
適正体重にする
適正体重を心掛けることは健康を保つうえで大切とされていますが、喘息においても非常に重要と言えます。
喘息と体重に関してはまだ研究段階ですが、内臓脂肪が増えると次のような影響があると考えられています。
- お腹が膨らむことで横隔膜と肺が圧迫される
- 脂肪組織が喘息を悪化させる物質を作り出す
まず、内臓脂肪の体積が大きくなると物理的に横隔膜を押し上げ、肺が圧迫されてしまい呼吸に悪影響を与えます。
また、この脂肪組織やその周辺にある炎症細胞が炎症性サイトカインなどを生み出し、症状を悪化させると考えられています。
このような理由からも、適正体重を保つことは喘息の改善に有効とされています。
食生活を改善し、身体に負担がかからない運動をしながら体重管理を行い、喘息の悪化を予防しましょう。
非ステロイド性抗炎症薬を使用しない
喘息患者の一部の方は、解熱鎮痛薬に含まれる非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の影響で喘息発作を引き起こしてしまうケースがあります。
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は市販の風邪薬や解熱鎮痛薬の多くに含まれ、さらに塗り薬や貼り薬などにも配合されている身近な薬剤ですが、喘息患者は使用を控えるべきと言えます。
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の喘息発作は、服用後に短時間で鼻水や鼻づまりが起きて咳や呼吸困難、重症の場合には意識喪失や窒息に繋がる危険性もあります。
このような理由からも喘息患者は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の使用は避け、他の病気で医療機関を受診した時は喘息であることを伝えて薬を処方してもらうことが大切です。
β2刺激薬は動悸などの副作用まで理解して使用しよう
β2刺激薬は交感神経が関わるβ2受容体を刺激して気管支を広げる効果のある、主に喘息やCOPDの治療に使用される薬剤です。
吸入後すぐに効果が現れる反面、持続時間が短い短時間作用型と、効果が現れるまで時間がかかるけれど長時間作用する長時間作用型の2つに分類され、それぞれ発作時や発作発症予防のコントローラーなどの場面で使用されています。
しかしながら、β2刺激薬には動悸や頻脈、低カリウム血症、血圧上昇などの副作用があるため、用法用量を守り、定期検査を受けて異常がないことを確認しながら使用していくことが大切です。
また、副作用のリスクを下げるためにも、薬剤以外の面で喘息の症状を改善していくことも重要です。
禁煙や適正体重を保つ、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を使わないなど、喘息に悪い影響を与えない生活が送れるよう意識していきましょう。