気道の炎症を抑えて喘息の発作を起こさないようにする吸入ステロイド薬は、患部である気道に直接薬剤を作用させられるので、ステロイドの内服薬と比較して全身性の副作用が現れにくい特徴があります。
喘息の治療にとって非常に有効となる吸入ステロイド薬ですが、使用上の注意として「使用後はうがいをするように」と指導されるため、どのような理由があるのか疑問に思う方も多いのではないでしょうか。
今回は吸入ステロイド薬の吸入後にうがいをする理由と、うがいをしないとどうなるのか、また、うがいができない時にどうすべきなのかを解説していきます。
正しい手順や回数を理解し、より効果的に使用していきましょう。
吸入ステロイド薬の吸入後にうがいをする理由
「吸入ステロイド薬を吸入した後にうがいをするように」と、医師や薬剤師から指示を受けたと思いますが、なぜ吸入後にうがいをしなければならないのでしょうか。
もし、うがいを忘れたり、しなかったりしたらどうなってしまうのでしょうか。
吸入ステロイド薬の吸入後にうがいをしないと次のようなリスクがあるとされています。
- 口内にカビが?殖する
- 声がかすれる
- 副作用を引き起こす可能性が高まる
うがいをしないとこれらリスクが起きやすくなる理由を1つずつ解説していきます。
口内にカビが?殖する
吸入ステロイド薬には抗炎症作用や細胞増殖抑制作用に加えて、免疫抑制作用があります。
免疫抑制作用はアレルギー反応を抑える重要な働きがあるため喘息の治療に重要とされていますが、この免疫抑制作用が口の中の粘膜の免疫を抑制してしまい、カンジダというカビに優位な環境を作ります。
このカンジダに優位な環境が続くと、口の中にカビが?殖してしまうのです。
口内にカンジダが?殖し、口腔カンジダ症になると次のような症状が現れます。
- 口の中に白いカスがつく
- 口の端が切れやすくなる
- 唇が荒れやすくなる
- 味覚に異常が出る
- 肺炎にかかりやすくなる
口腔カンジダ症になると口の中・周りに様々な症状が現れ、この状態を放置すると肺炎を引き起こす原因となります。
特に免疫力が落ちている高齢者は肺炎になりやすいので注意してください。
口腔カンジダ症の症状が出てきた時には、医療機関で抗菌薬を処方してもらわないとなかなか完治しません。
この厄介な口腔カンジダ症にならないためにも、吸入ステロイド薬を使用した後はうがいをするように指導しているのです。
声がかすれる
吸入ステロイド薬を使っていると声がかれる「嗄声(させい)」という副作用が起きる場合があります。
人間は喉の奥にある声帯を振動させることで声を出しているのですが、吸入ステロイド薬を使うと声帯や喉に異常が起きやすくなり、嗄声が出ることがあります。
吸入ステロイド薬を使用した時の嗄声の原因には、以下のようなものが報告されています。
- 吸入ステロイド薬による声帯の筋力低下
- 薬剤の成分による喉の炎症
- カンジダなどのカビが喉に付着
嗄声を予防するためにも、吸入ステロイド薬を使用した後は、うがいをして余計な薬剤を排出する必要があります。
また、しっかりうがいをしても嗄声が出てしまう時には、吸入の速さを調整してみると良いでしょう。
ドライパウダーの吸入薬であれば、吸入速度を速くして声帯や喉に薬剤が付着しないようにし、反対にスプレータイプの吸入薬であれば、3秒以上時間をかけてゆっくり吸い込むことで喉に薬剤が付着するのを防げます。
副作用を引き起こす可能性が高まる
吸入ステロイド薬の主な副作用はこれまで紹介してきた「口腔カンジダ症」や「嗄声」ですが、それ以外にも副作用が起きる可能性があります。
ステロイド薬には内服薬や注射薬など全身に作用する剤型があり、これら薬には糖尿病・脂質代謝異常症・高血圧・消化器障害・骨粗しょう症・ムーンフェイス・免疫力低下による病気への感染などの副作用が現れる可能性があります。
吸入ステロイド薬は気管へ直接作用する薬なので、全身に作用する内服薬や注射薬と比べてこれら副作用が起きる可能性は低いとされていますが、絶対に起きないという保証はありません。
これら副作用のリスクを下げるためにも、口の中に不要な薬剤が残ることのないようにうがいをすることが大切とされているのです。
うがいが必要な吸入薬はどれ?
吸入薬には様々な種類があり、中にはうがいを必ずしもする必要がないものも存在します。
ここでは「吸入ステロイド薬」「β2刺激薬」「抗コリン薬」の吸入薬のうがいの必要性について紹介していきます。
吸入ステロイド薬
吸入ステロイド薬は気管支に直接作用して炎症を抑える効果があり、副作用はこれまで解説してきた通り、口腔カンジダ症や嗄声が現れる可能性があります。
これら副作用は口の中や喉に薬剤が残留すると起きることから、吸入後のうがいが必須とされています。
吸入ステロイド薬の商品には、アズマネックス、オルベスコ、パルミコート、フルタイド、アニュイティなどがあります。
これら吸入薬を使用した後は必ずうがいをしてください。
β2刺激薬
β2刺激薬は気管支のβ2受容体刺激作用により、気管支をスピーディーに広げる効果がある吸入薬です。
副作用には動悸や頻脈などの循環器症状や吐き気などの胃腸症状、頭痛やふるえなどの精神神経系症状が報告されています。
薬剤が口腔粘膜から吸収されることや飲み込むことで薬剤が全身に吸収されるため、できるだけうがいをして体外に排出してください。
β2刺激薬の商品には、シムビコートやアドエア、フルティフォーム、レルベアなどがあります。
これら吸入薬を使用した後は、できるだけうがいをしましょう。
抗コリン薬
抗コリン薬はアセチルコリンの働きを抑制する作用によって気管支を拡張する吸入薬です。
副作用には、口の渇きや消化不良などの胃腸症状や排尿困難などの泌尿器症状に加え、眼圧の上昇などが報告されていますが、吸入後のうがいは必須ではありません。
しかしながら、うがいをすることで副作用を軽減できる可能性があること、薬剤の味が口の中に残ることを防ぐためにも、うがいをした方がよいとされています。
抗コリン薬には、シーブリ、スピリーバなどの商品があり、これらを使用した後は可能であればうがいをするとよいでしょう。
吸入ステロイド薬のうがい方法
ここからは吸入ステロイド薬を使用する時のうがい方法を具体的に紹介します。
吸入ステロイド薬の副作用を防ぐためにも、正しいうがい方法を確認して取り入れてください。
また、いざという時のために、うがいができない時の対処法もチェックしておきましょう。
うがいの手順
吸入ステロイド薬を使用する時のうがいの手順は次の通りです。
- 吸入直前に口の中を湿らせておく
- 吸入後、5秒ガラガラうがいをする
- ブクブクうがいを5秒する
- このガラガラ・ブクブクうがいを3回繰り返す
薬剤を口の中に付着しにくくするために、吸入前に水を飲んで口の中を湿らせてから薬剤を使用します。
吸入後は、適量の水を口に含んでガラガラうがいを5秒し、その後再度水を口に含んでブクブクうがい5秒を3セット繰り返します。
副作用のリスクを下げるためにも、吸入後はこの手順でうがいをしてください。
吸入後にうがいができない時
吸入後にうがいができない時、またはうがい自体が困難である場合には、他の方法で口の中の薬剤を取り除く必要があります。
例えば、吸入をした後に食事をとったり、口をゆすぎながら飲み物を飲んだりして口の中に残った吸入薬を飲み込んで取り除く方法があり、この方法は食道カンジダの予防にも役立つと言われています。
吸入ステロイド薬は飲み込んでも、全身に広がる前に肝臓でほぼ代謝されるため、全身の副作用が起きる可能性はほぼありません。
このような理由からも、食事のタイミングを利用して吸入していくのは、うがいが難しい方にとって非常に有効な手段と言えるでしょう。
ただし、薬剤を飲み込む方法は吸入ステロイド薬にとって有効な手段であり、薬剤を飲み込むことで全身に広がる恐れのあるβ2刺激薬では行わないようにしてください。
うがいが難しい場合は唾を吐き出すだけでも、何もしないよりは効果があるとされています。
また、吸入ステロイド薬を使用するタイミングを工夫するとうがい忘れが防げます。
1日2回の吸入の場合、朝と夕の歯磨きの前に吸入し、歯磨きと歯磨き後のうがいで口の中の薬剤を除去すれば、うがい忘れが防げるうえに、うがいを何度も行う手間も省けるでしょう。
吸入ステロイド薬は副作用を防ぐためにうがいが必須
吸入ステロイド薬は、炎症を抑えて喘息の発作を起こさないようにする効果がある薬剤です。
気道に直接作用するため、ステロイド使用時に懸念される全身症状の副作用が起きにくく、仮に飲み込んだとしてもほどんどが肝臓で代謝される特徴があります。
しかしながら、吸入ステロイド薬を吸入すると口の中に薬剤が残って口腔カンジダ症や嗄声を引き起こす恐れがあるため、吸入直前に口の中を湿らせ、吸入後はうがいを行う必要があります。
うがいができない時には、吸入後に食事をしたり、飲み物を飲んだりするだけでも効果があるとされています。
もし、それも難しい時には唾を吐き出して、薬剤を少しでも口内から排出しておきましょう。
吸入ステロイド薬は、喘息の治療に重要とされている薬剤です。
副作用を抑え、効果的に使用していくためにも、使用後にはしっかりうがいをしていきましょう。