抗うつ薬はうつ病の際に使用される代表的な薬剤ですが、どんな薬剤かよく分からず飲むことに抵抗を感じる方もいらっしゃるかもしれません。
抗うつ薬はうつ病にとって有効な治療法であり、辛い症状を緩和するための心強い味方です。
本記事で抗うつ薬についての知識を身につけ、正しい理解のもと使用していきましょう。
うつ病と抗うつ薬
まずはうつ病について理解を深め、抗うつ薬がどのように作用するのかを学んでいきましょう。
うつ病とは
うつ病とは気分の落ち込みややる気が出ないなどの精神的な症状と、不眠や疲れやすい、だるさを感じるなどの身体的な症状が起こる病気です。
うつ病は脳のシステムにトラブルが生じ、通常であれば時間の経過とともに回復するような症状がなかなか改善しないばかりか悪化して、生活に支障をきたしてしまうような状態になります。
うつ病の症状は大きく「単極性うつ病」と「双極性障害」に分類されます。
- 単極性うつ病:落ち込む、やる気が出ないなどのうつ状態のみ
- 双極性障害(躁うつ病):うつ状態と躁状態を繰り返す
また、重症度も人によって異なるのが特徴で、本人の自覚はあるものの他人は気づきにくいレベルを軽症、日常生活が困難になるレベルを重症とし、軽症と重症の間には中等症が存在します。
うつ病は、受験や仕事での失敗、人間関係の問題、死別などの悲しい出来事だけが原因となるだけではなく、進学や昇進、結婚、妊娠、出産など環境が変わることがきっかけとなるケースもあります。
抗うつ薬とは
抗うつ薬は、うつ病の原因とされているセロトニンやノルアドレナリンなどの脳内の神経伝達系に作用する薬剤です。
うつ病は脳内のバランスが崩れることが原因となって心身の様々な症状が現れる病気のため、脳内環境を調整しバランスを取り戻す効果のある抗うつ薬で治療していきます。
抗うつ薬は開発された順に、三環系、四環系、SSRI、SNRI、NaSSAに分類され、新しく開発された薬剤ほど治療効果が高く、副作用も少ない傾向にあると言われています。
しかしながら、どの薬剤においても適応する症状の違いや薬剤の効きに個人差があるため、一概に新しく開発された薬剤の方が優れているわけではない点には留意してください。
また、抗うつ薬はうつ病だけでなく、パニック障害や社交不安症、強迫症、不眠などの症状でも使われます。
脳内の伝達系を整えると改善が見られるような病気に抗うつ薬は使用されると覚えておきましょう。
「抗うつ薬は飲まない方がいい」は本当か
インターネット上の口コミなどで「抗うつ薬は飲まない方がいい」というような内容を見かけることがありますが、それにはいくつかの理由があると考えられます。
1つめの原因は、副作用です。
抗うつ薬に限らずほとんどの薬剤で副作用が起こる可能性がありますが、抗うつ薬は他の薬剤と比較して副作用が出やすい傾向にあります。
特に古くから使用されている三環系抗うつ薬は副作用が強く、めまいやふらつきに加え、発熱と手の震えが起きる悪性症候群などの全身症状も確認されていることから、怖いイメージが根付いてしまっているのかもしれません。
2つ目に考えられるのが、薬剤を減量する段階で見られる離脱症候群と呼ばれる症状です。
抗うつ薬は急に服用を中止すると脳内環境のバランスが崩れ、めまいや痺れ、風邪の時のような症状が現れるため、少しずつ段階的に量を減らしていきます。
この減量過程において身体が変化する薬剤の量に慣れる間に離脱症状を起こす可能性があります。
さらに、抗うつ薬は効果がでるまで時間がかかるため、治療を急ぐ方からすれば「効果がない薬剤」と早とちりされやすいデメリットがあります。
服用を開始してから約10~14日で効果が現れてきますが、それまでは副作用ばかりが気になってしまうのが辛いところです。
このような抗うつ薬のデメリットが強く刷り込まれ、抗うつ薬は飲まない方がいいと思い込まれる方がいるのかもしれません。
しかしながら、抗うつ薬は特に中等症から重症のうつ病患者の50~75%に効果があるとされている有効な治療法です。
「何だか怖いから」と勝手な先入観を抱かず、主治医と相談しながら適切な方法で治療を進めていきましょう。
抗うつ薬の種類一覧と強さランキング
抗うつ薬には大きく分けて5種類の異なる種類があり、強さにも差があります。
あくまで目安ではありますが、抗うつ薬の種類一覧を効果の強さランキング順に並べると以下のようになります。
- 三環系抗うつ薬
- SSRI
- SNRI
- NaSSA
- 四環系抗うつ薬
三環系抗うつ薬が最も効果が強く、SSRI、SNRI、NaSSAがほぼ同じ、最も効果が穏やかなのが四環系抗うつ薬という順番です。
ここからはそれぞれの抗うつ薬について解説していきます。
三環系抗うつ薬
古くから使われてきた三環系抗うつ薬は、脳内のノルアドレナリンやセロトニンに働きを改善させて、不安や不眠を和らげ意欲を高める薬剤です。
うつ病やパニック障害、強迫障害などに加えて、尿が出にくくなる作用もあるため、子どもの夜尿症などに処方されることもあります。
三環系抗うつ薬は効果が強い反面、副作用が出やすいのが特徴で、口の渇きや眠気、めまいなどが見られることが多いです。
また、薬剤の飲み始めや増量した時などに強い不安感やイライラ、気持ちが高ぶるなどの普段とは違う精神状態になる恐れがあります。
重篤な副作用として稀に悪性症候群やセロトニン症候群、麻痺性イレウス、血液障害、不整脈などが起きる可能性があります。
服用中に違和感が現れた場合は、すぐに主治医に相談してください。
SSRI
SSRIは「選択的セロトニン再取り込み阻害薬」と呼ばれる抗うつ薬で、脳内でセロトニンの再取り込みをするセロトニントランスポーターの働きを阻害することでセロトニンの濃度を高めて神経の伝達を良くします。
憂鬱な気持ちを和らげて意欲を高める効果があるため、うつ病やパニック障害、心的外傷後ストレス障害などの治療に使用します。
三環系抗うつ薬に比べて副作用が軽減されていますが、飲み始めに吐き気などの胃腸症状が見られることや、場合によっては神経過敏になり、衝動的な行動を起こす恐れもあります。
重い副作用として、稀にセロトニン症候群や悪性症候群、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群などを引き起こす可能性もあります。
また、SSRIは離脱症候群が起こる恐れがあるため、急に服用を中止せずに徐々に減量するなどして身体を慣らしていきましょう。
SNRI
SNRIは「セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬」とも呼ばれ、脳内の神経伝達物質であるセロトニンとノルアドレナリンの再取り込みを阻害し、脳内でこれら物質の濃度を高めて伝達を良くする抗うつ薬です。
不安や憂鬱な気持ちを和らげる効果の他に、糖尿病の合併症である糖尿病性神経障害や変形性関節炎などの痛みを抑える効果もあります。
SNRIはセロトニン系とノルアドレナリン系の神経だけに作用するため、従来の抗うつ薬よりも吐き気、眠気、口の渇きなどの副作用は軽減されていますが、尿が出にくくなる恐れがあることから高齢者や前立腺肥大の方は注意が必要です。
また、重い副作用としてセロトニン症候群や悪性症候群、高血圧クリーゼなどが起きる可能性があります。
飲み始めに起こりやすい強い不安などの精神症状が現れた場合も含め、気になる時には早めに医療機関を受診しましょう。
NaSSA
NaSSAは「ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬」とも言われる薬剤で、脳内のノルアドレナリンの遊離を促進したり、セロトニンの作用を向上させたりします。
不安を和らげて意欲を高める効果があり、SSRIやSNRIとともに軽症から中等症のうつ病で処方されることの多い薬剤です。
他の抗うつ薬よりもやや早く効果が出るのが特徴に挙げられますが、服用中の食欲増進による体重増加には注意が必要です。
最も多い副作用は眠気で、口の渇きやめまいなども確認されており、重い副作用としてセロトニン症候群や血液の異常、肝臓障害などが稀に起こる可能性があります。
四環系抗うつ薬
三環系抗うつ薬に続いて開発されて古くから使用されてきた四環系抗うつ薬は、三環系抗うつ薬よりも効果が穏やかで、副作用が抑えられている抗うつ薬です。
脳内のノルアドレナリンの量を増やして意欲を高める効果があり、効き目が現れるのも早いと言われています。
副作用には口の渇きや眠気、めまいなどがありますが、三環系抗うつ薬よりも少ないです。
稀に重篤な副作用として悪性症候群や肝機能障害、不整脈や血液障害などが起こる可能性があります。
身体的・精神的に違和感が現れた時には、すぐに医療機関を受診してください。
抗うつ薬の市販はある?
抗うつ薬の市販薬はないため、手に入れるためには医療機関を受診して処方してもらう必要があります。
もし、医療機関の受診が難しい場合には以下のような対応が考えられます。
- 市販の漢方薬を購入する
- 個人輸入代行で購入する
抗うつ薬は市販されていませんが、うつ病に関係する漢方薬であれば市販で購入することが可能です。
加味逍遙散や抑肝散はイライラや不眠を改善する漢方薬として、うつ病の治療に使用されることがあります。
また、個人輸入代行を利用するのも1つの手段です。
お薬ネットであれば、テグレトールやラミクタールなどの抗うつ薬をネットで購入できます。
人目が気になったり、買い物に出掛ける余裕がなかったりする時でも、簡単に購入できるのがお薬ネットの強みと言えるでしょう。
うつ病にとって抗うつ薬は有効な治療法の1つ
脳のシステムにトラブルが生じることが原因で発症するうつ病の有効な治療法として、セロトニンやノルアドレナリンなどの脳の神経伝達系に作用する抗うつ薬が挙げられます。
抗うつ薬は効き目が出るまでに時間がかかるため、効果よりも副作用の方が目につきやすいかもしれませんが、正しく使用することで効果が発揮される薬剤です。
辛いうつ症状でお悩みの時には我慢せず、抗うつ薬の使用も検討してはいかがでしょうか。