ジギタリス薬(強心配糖体)
- ジギタリス薬の概要と歴史
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ジギタリス薬、別名強心配糖体は、心不全や心房細動などの心疾患治療に用いられる薬剤です。
その歴史は古く、18世紀後半にイギリスの医師ウィリアム・ウィザリングがジギタリス属植物の葉を心臓病の治療に用いたことに始まります。
以来、ジギタリス薬は心臓病治療の重要な選択肢として長年にわたり使用されてきました。ジギタリス薬は、植物由来の強心配糖体を含有しており、心筋細胞に直接作用して心臓の収縮力を高めます。
具体的には、心筋収縮力の増強を行います。
細胞内カルシウム濃度の上昇により、心筋の収縮力が増強されます。
また、副交感神経系の活性化も行います。
迷走神経を介して心拍数を低下させます。これらの作用により、ジギタリス薬は心臓のポンプ機能を改善し、心不全症状を軽減します。
また、心房細動の場合は心拍数のコントロールにも効果を発揮します。 - ジギタリス薬の適応と使用
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ジギタリス薬の主な適応は以下の通りです。
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慢性心不全
特に左室収縮機能が低下した症例で使用されます。 -
心房細動
心拍数のコントロールに用いられます。 -
発作性上室性頻拍
一部の症例で使用されることがあります。
ジギタリス薬の使用にあたっては、以下の点に注意が必要です。
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適切な用量設定
治療域が狭いため、慎重な用量調整が必要です。 -
血中濃度モニタリング
定期的な血中濃度測定により、適切な治療域を維持します。 -
腎機能評価
ジゴキシンは主に腎臓から排泄されるため、腎機能低下例では用量調整が必要です。 -
電解質バランスの管理
特にカリウム、マグネシウム、カルシウムのバランスに注意が必要です。
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- ジギタリス薬の副作用と中毒
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ジギタリス薬は治療範囲が狭く、副作用と中毒症状が起こる場合があります。
症状には以下のようなものがあります。- 消化器症状:悪心、嘔吐、食欲不振
- 中枢神経症状:頭痛、めまい、錯乱、色視症(黄視や緑視)
- 心臓への影響:不整脈(心室性期外収縮、心室頻拍など)
- 電解質異常:高カリウム血症
ジギタリス中毒が疑われる場合は、以下の対応が必要です。
- 薬剤の中止
- 電解質異常の是正
- 重症例では特異的抗体(ジギタリス抗体)の投与
- 不整脈に対する適切な治療
ジギタリス中毒のリスクが高いのは、高齢、腎機能障害、電解質異常(特に低カリウム血症)、甲状腺機能低下症患者などです。
ジギタリス薬は、長年にわたり心不全や心房細動の治療に用いられてきた重要な薬剤です。
しかし、近年では新しい心不全治療薬や抗不整脈薬の登場により、その使用頻度は減少傾向にあります。
それでもなお、適切に使用すれば有効な治療選択肢の一つであり、特に他の治療に反応しない症例や、コスト面で有利な場合などに考慮されます。